23: this is happening for the future
「天井、みどり先輩が呼んでるぜ」
吉田が教室に入ってきた。俺以外はもう着替えて校庭に行ったみたいだ。みどりがこっちを見てる。最近吉田はみどりに惚れてるっぽい。
俺は反射的に目元をこすった。泣いてなんかいないのに。
「あのさ、私あの時のことちゃんと謝ってなかったよね」
みどりはもじもじしながら切り出した。吐きたくなりそうだったが、今の俺は気にしない。もうどうでもいいんだ。
「いいよ、別に。あの時はみんなパニクってただろ」
「ん、でもよく考えたらとんでもないことだったよ。ホント、どうかしてた」
みどりが悲しそうに笑いながらうつむくもんだから、吉田は大慌てだ。
「でもさ、ほら、こいつももう怒ってないみたいだし、大丈夫だよ!」
みどりが、ホント? って感じで上目遣いに俺を見た。今度はぶりっこにシフトチェンジか? でも俺はキレたりしない。
「ホントにごめんね、新介......」
「あ、天井、なんとか言ってやれよ!」
「だからいいって。気にしてないし」
っていうより、もうおまえなんかどうでもいい。
「ほら、こいつ全然気にしてないってよ」
吉田は見てて哀れになるくらいおろおろしながらみどりをなぐさめる。
「大体あいつ自殺とか言ってもさ、大した理由なんてなかったんだろ? 勘違いしても無理ないって! そういうのに限って思いつきだったりするんだよ。 つーか巽っていかにもなんも考えてなさそうな奴だったじゃん!」
「吉田」
「バカなくせになんか悩んでる気になってさ、度胸とかないくせに思わず飛び込んだとか、そんな感じだったっぽくない?」
「おい」
「え?」
音は聞こえなかった。吉田は後ろに吹っ飛んで、椅子や机にぶつかりながら 尻餅をついた。拳に肉の感触が残る。これがリアルだと、俺は思う。
「し、新介? あ……」
もはやこの女の言う事なんて俺には聞こえない。吹っ飛んだガキは呆然と俺を見上げる。でも俺はしかとする。俺はこいつらとは違う。
異常? 結構だね。こいつらと一緒なんてたまったもんじゃない。
なあ浅彦、おまえもそうだったんだな。おまえは俺なんかより先に気づいてた。俺だっておまえがいなかったら多分こいつらと一緒だった。
騒ぎに気づいてたかってくる連中の間をすり抜けて、俺は階段を上がった。
立入禁止の立て札を蹴っ飛ばして屋上に駆け込む。
俺は恐くない。怖がったりしない。
浅彦、俺達はあいつらとは違うけど、俺とおまえも違う。
おまえが死んだのは事実で、俺にはまだ先がある。
もっとおまえと話しとけばよかった。上手く言えねえけど、おまえって俺の中で結構でかい存在かも。
気分は異常に爽快で、俺はシーチキンおにぎりを買うべく学校を後にした。
END.
Aの目撃者 八壁ゆかり @8wallsleft
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