あるSNSのアンケートbot

金桶

あるSNSのアンケートbot

『自動車 を、削除しますか? はい:0% いいえ:100%』

「おっ、始まってる」


 十字路の信号待ち中、なんとなく開いたSNSアプリの最新発言に奇妙なアンケートとイラストが表示されていた。発言者のアカウント名は『取捨選択』。

 イラストの中には日常生活でよく見かけるものが丁寧に一つ一つ描かれ、そこかしこに空白を開けて散らばっていた。絵本とかでよく見るデフォルメされた車とか、高層ビルやマンションらしきもの。

 この『取捨選択』は、開設当時からひたすらこのイラストとアンケートの投稿を続けているらしい。ログを遡ってみると『〇〇を削除しますか?』の発言とイラスト、『〇〇を削除しました』の発言と、少しだけ空白の広がったイラストがずーっと並んでいるのだ(今のところ削除対象はすべて私の知らないものなので、少しだけほっとしている)。

 よく見るとイラストに描かれたものは少しずつ動いたり、他のものとぶつかったりしていて、どうやらイラストがストーリー仕立てであることがわかる。


『自動車 を、削除しますか? はい:0% いいえ:100%』


 10秒程度経過したが結果は変わっていない。たしかに、車がなくなったら困るだろう。『取捨選択』というのならここは『取』だ。私はいいえを選択しようとして……


(でもまあ、そんなことみんなが思ってるだろうし。それに、初めて見た私が知っている削除対象。ほんの少しだけ、顛末が気になる。この車に乗っていた運転手は、急に車が消えてしまったらどうなるんだ?)


 たった一人の人間の心変わり程度で、何が変わるだろう? 私一人がいいえに入れたところで結果は1:99。問題はないだろう。私の中に湧きあがった好奇心のために、私ははいを選んだ。

 見るまでもない結果を頭の片隅に置いてケータイから視線を外し、前を見た。目の前の信号は変わっていないが、左右の信号機は既に赤。まもなく切り替わるだろう。最後の一度だけ画面を見た。


『自動車 を、削除しますか? はい:51% いいえ:49%』


「え?」


 割合が変わっている。削除を肯定する答えが――――


――――BEEP!BEEP!


 私が画面を詳しく覗き込もうとしたとき、けたたましいクラクションが私の集中を断ち切った。慌てて前を見ればすでに青信号。なんてことだ。歩きスマホを悪く言えないな、ケータイに夢中で周りに気を配れないなんて。


 私は後ろの人に謝意を表すために頭を下げ、両の足でまっすぐ走りだした。

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あるSNSのアンケートbot 金桶 @Bucketdayo

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