心霊カーナビゲート⑫
それからしばらくの間、三人の身の回りで少々不運に見舞われたため改めてお祓いをすることになった。 同時に帰仙壕のことも報告し、明るい時間にそこまで来ている。
やはりというか、防空壕の跡地で元々埋まっていた場所が何かの拍子に現れたのだそうだ。
―――あの時見た、岩と紙垂はないんだな。
どうやら井戸も元々ないようで、地蔵があった場所には簡易な墓が二つあるだけだった。
「20年程前、この辺りで子供二人が行方不明になってね。 今も遺体は見つかっていないんだが」
一緒に来ていた祈祷師たちの中の一人が言った。 彼女は身体を震わせてていて、ここに何か特別な思い入れがあるように思えた。
あの日の夜のことは幻覚を見せられていたということになるが、実際に体験したことは本物であったとしか思えない。
だがそれは三人だけの秘密、というつもりだったのだが彼女には何故か話そうという気持ちになった。
「俺たち、多分その二人の霊に会いました。 ビー玉に導かれて、ここに辿り着いて」
琉心の言葉に、恭夜が持っていたビー玉を見せる。 あの時にもらった三つのビー玉、それは実体を伴いここにある。 だからこそ、余計幻覚だったとは思えないのだ。
そして彼女はビー玉に見覚えがあったようで、それを見た瞬間、静かに涙を流していた。
「あぁ、これは・・・。 綾斗にやったビー玉・・・」
「・・・もしかして、お母さんなんですか・・・?」
偶然、というより必然だったのかもしれない。 おそらくは度々ここに探しに来ていたのだろう。 遺体が見つかってないため、諦めることができなかったのかもしれない。
彼女は子供が生きていたとは考えていなかったようで、どんなに小さなことでもいいから手がかりがほしかったのだそうだ。
「あの子たちに会ったって本当なんだね。 何か言っていたかい?」
「いえ、特には・・・。 まだ幼い姿のままでした」
防空壕の中で会った母親はやはり本当の母親ではないと分かり言おうとして止めた。 本当の親子ではないと分かった今、あえて言う必要はない。
どうやら分かれた夫が子供たちを連れ去ってしまったというのだ。 そちらは帰仙壕の崖下でただ一人冷たく亡くなっていた遺体が見つかったらしい。
―――多分、俺たちを殺そうとしてたのはその夫で、あの母親が守ってくれていたのかもしれないなぁ。
結局のところ何が正しいのか予測することしかできないが、それが一番しっくりする気がした。 琉心はビー玉を受け取ると本当の母親に渡すことにした。
思い出は思い出、残酷なのかもしれないがここで立ち止まっているのはよくない。 それを母親も分かっていたのか、墓まで歩くとビー玉を供えた。
「まだ現世に残っているならお逝きなさい。 このビー玉があれば、正しい場所へ導いてくれるだろうから」
これで三人の短い肝試しツアーは終わった。 それからは不運も起きず平穏な日々が返ってくる。 大学の食堂で昼食にありつきながらそれを謳歌していた。
「怖かったけど、楽しかったな」
「あぁ・・・。 だけど、もうあんなことはこりご・・・」
琉心と恭夜が話しているところに、奏が手を振りながら笑顔で寄ってきた。 二人は顔を見合わせ、奏が手に持つものに嫌な予感を憶える。 暗い基調の背景に彩り豊かな胡散臭い雑誌。
いわゆるオカルト雑誌というヤツを手に持っていたのだ。 あれからしばらくの間、お調子者で怖いもの見たさの奏ですら、しばらくは一切それに触れようとはしなかった。
下手したら死んでいたかもしれないし、そうでなくとも呪われるといったことになっていたのかもしれない。 だから二人はもう奏も懲りたのだと思っていた。 だがそれは甘い考えだったのだ。
「今度の連休でここ行こう! あの超有名な走り迫る老婆が出たって書いてあるんだよ! しかもしかも、双子だって! これは行くっきゃないでしょ。
この前のはちゃんと写真撮れなかったから今度こそ!」
琉心と恭夜はもう一度目を見合わせると、無言のまま黙々と昼食を進めていく。 ロースカツ定食が先程の倍以上の速さで二人の胃袋に納まっていく。
二人の異変に気付いたであろう奏が不安気に顔を覗き込んでくるが、完全無視だ。
「あ、あれ・・・? 琉心? 恭夜?」
トレーが空になると二人は立ち上がり背を向けた。 肩が少なからず震えているような気がするが、奏はそれに気付かない。
「ねぇー! 琉心ー。 恭夜ー! 無視しないでよー!」
その言葉に二人は揃って身を翻し指を突き付けた。 二人は奏以上に懲りていたのだから当然だ。 特に暗い山道をまるでループするかのように走らされた琉心は、今も不安が心に残っていた。
「「ぜーーーーーーーーったいに、行かねぇーーーーーーーーー!!」」
だがそう口で言っても一度体験した心霊現象は、またしても三人を奇怪な夜へと誘うことになる。 時間の経過は人の心を溶かしてしまう。 大丈夫、平気。
そのような言葉と共に夜の帳はいつも口を開けて彼らを待っているのかもしれない。 ようこそ、と大きな冒険を餌にして、少しばかりの恐怖と危険を与えるために。
-END-
心霊カーナビゲート ゆーり。 @koigokoro
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