心霊カーナビゲート⑪
「あった、ここだよ!」
携帯で表示されている位置に錆びた扉があった。 かなりの時が経過し、砂埃が積もっているが何とか開きそうだ。 三人は扉を開け、暗闇を懐中電灯で照らしながら進んだ。
狭苦しい人一人がギリギリ通れるくらいの通路。 前方は懐中電灯の光が吸い込まれるように闇が覆っていて見えない。 そんな場所をある程度進み、非常にマズい問題が浮上した。
三人の額には脂汗が浮かんでいる。
「後ろ・・・。 誰かいるよね」
「・・・黙ってろ」
三人が進むのに合わせるかのように足音が聞こえてくる。 絶対に振り向いてはいけない、そんな気がした。 そしてその足音の間隔が少しずつ早く、大きくなっていく。
「やば、走り出した。 俺たちも走るぞ!」
足音が急速に近づいてきて、三人は慌てて走り出す。 本物の追われる恐怖を味わったのは、三人は初めてだった。 洞窟の中は幸い一本道で、こけることなく出口までたどり着く。
外は夜も明けて空が赤らみ始めている。 ただ出て驚いたのが入ってきた帰仙壕の入り口だったことだろう。
「よくわからないけど、助かったのかな・・・」
「よくわからないけど、助かったんだろうな」
奏と恭夜は入り口を眺めながら言った。 そして琉心は一人別の場所を向いている。 そこに見えたのは母親と綾斗と綾奈の姿。 母親がすぅーっと空へと昇っていく。
その間際に言った言葉を琉心だけが聞いていた。
“本当はこの子らは私の子ではないのだ。 すまなかった”
視線を綾斗と綾奈に戻したが、その姿を確認することはできなかった。 だがおそらく成仏したわけではないのだろう。 本当の親子ではないということが何を意味するか、琉心には分からなかった。
「さっき追ってきたのも、あの三人の内の誰かなのかな?」
「どうだろうな」
琉心は違うと思ったが何も言わなかった。 先ほど見えた三人の霊、どう見ても悪霊とは思えない。 正直、不安もあったがもう一度手を合わせたいと思った。
「なぁ、二人とも。 さっきの地蔵と井戸のとこに祈りに行こうぜ?」
「別にいいけど、井戸のとこってずいぶん遠く・・・ああーっ!」
「ちょっ、いきなり大声出すなって」
奏が指さした方向を見ながら、恭夜は耳を塞ぎながら言った。 つられて琉心もそちらを見ると地蔵が二つに増えていた。
―――多分、子供二人の分なんだろうな。
奇妙な現象もこれだけ起きてしまえば、余り疑問に思うこともない。 何が正しいかはわからないが、そう思うことにした。 三人は地蔵に向かって手を合わす。 井戸のところはもう必要ないだろう。
もう一度、あの続きの夢を見ることになるかと思ったが、そんなことはなかった。
「大分、明るくなってきたね。 そういえば、朝になるのって初めてだ」
「何もなければ、朝までいても意味ないからな」
「だね。 お腹すいたなー」
言われてみれば確かにお腹がすいてるなと思った。 そんなことも、今の今まで考える余裕すらなかったようだ。 三人は車へと向かい乗り込んだ。
もうカーナビも普通に反応するようで、家までの道を設定した。
『音声案内を開始します』
そのカーナビの定型文が聞こえたところで奏が叫ぶように言った。
「うわあああああ。 もうカーナビはいいよー!!」
確かに、と思うこともあったが道が分からないので仕方がない。 奏の文句を聞き続けながらだが、三人は無事に帰ることができた。
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