心霊カーナビゲート⑩




「・・・はっ!?」


琉心、恭夜、奏は同時に意識を取り戻した。 そこは勿論、暗い帰仙壕の中だ。


「二人にも見えていたのか?」

「綾斗くんと綾奈ちゃんのことだよね? 戦争中の名前って感じしなかったけど」

「三人同時ってことは、残留思念みたいなものが流れ込んできたのかもしれないな」


白骨は相変わらずあるが、先ほどまでいた二人の姿は見えなかった。 奏は慣れてきたのか、キョロキョロと子供二人の服がないか周りを見渡している。 


「なんか気になるところで途切れたけど、なんで二人は防空壕にいなかったんだろう?」

「さぁな。 とりあえず、これで俺たちは帰っていいってことなのか?」


琉心はなんとなく嫌な予感がしていた。 


“死ね”


そして頭に響いた不快な声で、その予感が当たったと確信した。


「な、何今の声・・・」

「奏も聞こえたのか。 琉心も聞こえたか?」

「ああ。 早く出よう」


三人は慌てて洞窟から出ようとしたが、それは不可能となった。 全体が大きく揺れると、土砂で入り口が完全に塞がってしまったからだ。 これでは例え昼間でも光は届かないだろう。


「嘘でしょ・・・。 閉じ込められたの・・・?」

「みたいだな」

「なんでそんなに冷静なのさ! なんかいい案でもあるの!?」

「慌てても仕方ないだろ」


取り乱した奏を恭夜が宥めているのをみて、琉心も冷静になれた。 このままではまずいということも分かっていた。


「俺たち、なんの食料もないどころか、このままじゃ酸素がなくなっていくと思う」

「ああ、そうだな」

「で、外からの救出も期待できないと思う。 勿論、入り口は通れない」

「そんなんどうにもならないじゃんか!」

「ちょっと奏は黙っててくれ」


奏が口をはさんだのを恭夜が止めた。


「だから、綾斗、綾奈、そのお母さんに何とか頼むしかないんじゃないか?」

「閉じ込めたのは、そいつらだよ! 生きている僕たちが憎いんだ。 そうに決まってる」


確かにこの洞窟に入るよう促したのは彼らだ。 ただ琉心は気になることがいくつかあった。 それはこの洞窟に入った時、母親が言った開放して欲しいという言葉。 

もしかしたら琉心たちを騙す意図があったのかもしれないが、なんとなくそう思えなかった。 


―――もしかして、他にも何かいるのか・・・?


単純に自然的な原因も考えられるが、今はそんな偶然が起きたとは考えにくい。


「多分、この人たちじゃないと思う」

「どうして!?」

「奏は知らないことだけど、入れ替わった時綾奈ちゃんを井戸に突き落とそうとしたんだ」

「え・・・」

「あの夢の続き、そこに何か秘密があるのかも」


話していると恭夜がストップをかけた。


「とりあえず原因よりも、今どうするかを考えよう。 例えば、抜け道がないかとか」

「なるほど、確かにその通りかも。 懐中電灯もいつまでもつか分からないし」


三人は壁を探すことにした。 かなりの広さがある上に、懐中電灯は一つしかないので少しずつしか調べられない。 しかも至る所に骨が落ちているのだ。 それだけで怖くて仕方なかった。


「駄目だ―、見つからないよ。 ってか、抜け道なんてほんとにあるの?」

「防空壕だとしたら、爆弾で入り口が塞がってしまうこともあるんじゃないか? なら、他に出口の一つや二つ用意しておくだろ」

「そうかもしれないけどさぁ・・・」


奏はもう泣きそうになっていた。 この肝試しツアーを提案したのは奏であるが、一番怖がりなのも奏だ。 本当はちょっとした非日常に触れるくらいでいい。 

こんな風にがっつり巻き込まれると分かっていれば、企画自体しなかっただろう。


「ああああ!!」

「いきなり大きな声出すなよ」

「いや、あの。 今、何時くらいかなぁ? と思って、スマホつけてみたんだけど・・・これ見てよ」


奏が差し出すスマホを琉心と恭夜は覗き込んだ。 そこには洞窟内のようなマップと道案内が表示されている。


「さっきのカーナビの時つけたやつか。 これ、この洞窟みたいだな」


当然洞窟なんてマップ表示されるはずないが、スマホには表示されている。 琉心は綾斗や綾奈たちが案内してくれているのだと思った。


「この場所を探してみよう」



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