フリーズ!

 まだ日が落ちるには早い時間。黒髪を結んだポニーテールの佐々見ささみ秋緒あきおは校舎と部室棟をつなぐ一階の渡り廊下から左側を見やる。グラウンドと校門をつなぐ道を横切る渡り廊下からは、植え込みの向こうに並ぶ部室棟の窓が見えるのだ。

 部室棟一階の中間くらいに位置する窓が少しだけ開いている。情報通信部――という名のゲーム製作をしている部――にはもう誰か来ている。ゲーム製作でプログラムを担当している秋緒は、今日はクラスの日直と掃除当番が重なり少し遅れての到着になることがわかっていたので、もう他の三人が集まっているだろうと思っていた。

 渡り廊下から部室棟に入り、階段の脇を左に曲がる。並んだ扉の中ほどに情報通信部の部屋があるので、秋緒は戸を開けて部屋の中に入る。


 何かを話している。

「――それでね、そう考えるとその子がすっごくお腹を空かした目でわたしを見ているような気がしたから――あ、秋ちゃんだ!」

 話をしていた〈シナリオ・デザイン担当〉の瀬芹せせり小春こはるが秋緒に気づく。続けて秋緒と同じ〈プログラム担当〉の手羽崎てばさき夏理なつり、〈そのほか何でも担当〉となった百野ももの冬花とうかも気づき、秋緒は「お疲れ」と声を掛け合う。

「日直とお掃除当番、お疲れ様。お菓子食べてゆっくりしてね」

 小春は長机に乗った洋菓子アソートの袋を両手で指差す。この部屋にはいつも誰かが持ってきたお菓子がある。これは小春が持ってきたもののようだ。

 秋緒の到着で小春の話が中断されたため、長机で小春の向かいに座った夏理が「それでそれで?」、と続きを急かす。小春の隣の席には冬花が座っているので、秋緒は夏理の隣の席に腰を下ろした。

 小春が「あれ? どこまでお話したっけ?」、と視線を上に向けて考え込んでしまい夏理は「おいおい」、と机に突っ伏す。

 そのまま二人は動かなくなり、冬花は小春を見て微笑んでいる。

 少し開いた窓からグラウンドの運動部の掛け声が聞こえる。

 無言の時間が流れる。

 秋緒は袋からクッキーの小袋を一つ取り出し「いただきます」と一口食べて、状況を確認するために皆の様子を順に見る。小春はベージュ系のボブヘアで両側をちょこんと結んだ髪型をしている。今日はチョコレートとビスケットの飾りがついたヘアゴムだ。夏理は黄色味がかったブラウンのショートヘアで、突っ伏しているから顔が見えない。冬花はいつもどおり背中まである艶やかな黒髪と優しい目つき。それに加えておっとりした性格なので大人っぽいと秋緒はよく思う。

 秋緒が最後に冬花を見たとき――少し長めに見た――その視線に気づいた冬花は「秋緒も来たことだし、もう一度初めからお話してみるのはどう? たしか、まだ始まったばかりのところよね」と隣を向いて言うと、小春は「うん、それがいいみたい」とちょこんと結んだ髪を触りながら答えた。


 小春の話が初めから始まる。

「今朝ね、学校にくるときに歩いていたら視線を感じたの。それですぐに振り向いたけど誰もいなくて、霊的なものだったら怖いなあと思って周りを見ていたら、路地に入るところの電柱の横でわたしを見てる子がいたの」

 小春は「このくらい」と言って、胸のあたりで手のひらを横にし、水平に動かして見せた。

 まだ夏理が突っ伏しているので、ここまでは既に聞いた話なのだろう。

「だから傍まで寄っていって、『どうしたの?』って聞いたの。でも、わたしを見るだけで何も答えてくれなくて。緊張しているのかな、と思ったんだけど、よく見るとわたしの髪留めを見ているみたいだったから、『もしかしてお腹空いてるの?』って試しに訊いてみたら、頷いてくれたの」

 チョコレートの方だろうか、ビスケットの方だろうか。秋緒は少しだけ気になったが黙って話を聞いた。

 そのとき夏理が顔をぬっと上げる。話が追いつくのかもしれない。

「それでね、そう考えるとその子がすっごくお腹を空かした目でわたしを見ているような気がしたから、このお菓子をあげようと思ったんだけど……」

 机上のお菓子の袋を指さす。

 夏理が上体を起こして座り直し「思ったんだけど?」、と先へと促す。

「餌やり禁止の張り紙があって猫ちゃんにはあげられなかったの」

「って猫だったのか!」夏理はまた机に突っ伏す。

「あれ? そうだよ?」

 小春は不思議そうな顔をした。

 夏理と同じく、秋緒も人間の子どもの話かと思っていた。

 秋緒は胸のあたりで手を水平に動かして言う。

「じゃあ、このくらいだったっていうのはもしかして――」

 冬花が「こういうことね」と、水平にした手と机の間を、もう片方の手で往復させて説明する。手と机の間は三十センチにも満たないくらいで、猫の大きさとして納得できる。きっと冬花は最初に小春の話を聞いたときからわかっていたのだろう。猫が小春の髪留めを見ていたというのも、結んだ髪がちょこんと揺れるものだから本能として目で追ってしまったのかもしれない。

 夏理はまた起き上がり、両肘をついて言う。

「話していた子供が幽霊で、いつの間にか消えちゃってた、みたいな話かと思ってたけど猫ちゃんだったとはな」

「ひっ、怖いこと言わないで夏理ちゃん! 霊的なものの話はやめて。そういう話すると寄ってきちゃうかもしれないよ」

 小春が両腕を前に突き出して振ると、向かいの夏理は「ごめんごめん」と謝る。小春は怖がりで、みんなそれを知っている。小春と幼馴染の冬花に聞いた話では、夏の時期になると特に敏感になるようだ。何日か前に夏理が「これはわたしのおばあちゃんから聞いた話なんだけど――」と話し始めただけで、「それ怖くないよね?」と確認するほど。ちなみにこの時の夏理の話は〈庭に生えた白いきのこ〉だった。


 話がひと段落したようなので、秋緒は小春を和ませるような話題を切り出す。

「猫、いいよね。わたしは金魚と亀しか飼ったことないけど、いつか猫も飼ってみたいと思ってるの」

 すぐに反応したのは夏理だった。

「そういえば秋緒、〈キサゴン〉って何歳くらいなの? 中学で一緒になったときにはもう飼ってたけど、そんときからかなりデカかったよね」

 秋緒は家で〈キサゴン〉と名付けたミドリガメを飼っている。〈亀甲〉が六角形なので最初は〈ヘキサゴン〉と呼んでいたが、そのうち短くなり、今では〈キサゴン〉になっている。

「たしかわたしが幼稚園のときにうちにきたから……十二歳くらいかしら。さすがに成長は止まったみたいだけど、両手に収まりきらないのよね。でもその大きさと重みのせいかしら、持ち上げると一緒に過ごしてきた歴史みたいなものをしみじみと感じるような――って、今は猫よ、猫」

 秋緒はハッとして話を猫に戻した。少し恥ずかしそうにしながら。

 ペットの話題――と実は情に厚い秋緒に顔をほころばせて小春も話に参加する。

「そういえば、この中で誰も猫ちゃん飼ってなかったよね。それからワンちゃんも。一緒に暮らしたらどんな生活になるんだろう。いいなあ」

 小春は目を閉じて猫や犬に囲まれた生活を想像する。

「小春は家族がアレルギーなんだっけ?」夏理が訊く。

「うん、パパもママもくしゃみが止まらなくなるの。わたしだけは何でかダイジョブなんだよねえ。……はっ、大人になったらわたしもそうなるかも」

「よーし、今のうちにいっぱい触っとくか。わたしのこと猫可愛がりしてくれていいぞ小春。にゃんにゃーん」

 夏理が体を伸ばして向かいの小春にじゃれつく。

「おお、夏理ちゃんワンちゃんぽい。いいこいいこ」

 小春が夏理の頭を撫でると、冬花も「じゃあわたしも」と言い、ほっぺたの辺りを撫でる。夏理は頭を押し付けるようにして「もっとだ!」と催促する。

「夏理ならいつでも触れるでしょ。……そういえば小春。小春が見た猫ってどんな猫だったのかしら。可愛かった?」

 秋緒も隣で夏理の腰の辺りをさすってやりながら訊いた。

「三毛猫だったよ。毛並みがきれいだったなあ。目がまんまるで、おヒゲがピンとしてて、前足を揃えて座った姿の全部がとっても可愛かったの。……今頃おいしいものでも食べてくれてるかなあ」

「おいしいもの?」

 秋緒は少し違和感を感じた。三毛猫が〈おいしいものを食べられただろうか〉、というよりも、〈おいしいものを食べられる状況にしたので、食べる選択をしてくれただろうか〉、という意味に聞こえたのだ。

 小春は「うん」と答えて続ける。

「餌はあげられなかったから、餌代をあげたの。百十円」

「もしかして百円に消費税で百十円……かしら」

「そう。お裁縫用に買った簡単に切れる細い糸を持ってたから、五十円玉と五円玉の穴に糸を通して首輪を作ってあげたの。お魚の切り身くらいしか買えないかもしれないけど、目を見たらそのまま去れなくって」

「それ、猫に小判じゃないかしら」


 撫でられることに夢中で話を聞いていない夏理が「にゃー」と言ったとき、部室のドアをノックして、眼鏡をかけた丹波たんば麗佳れいかが入ってくる。同じ一年生でクラスは違うが、情報通信部の隣の部屋の文化研究部に入部しているので話す機会が多い。

 夏理が撫でられている状況を見て一瞬だけ間があったが、すぐににこやかな表情をして「こんにちは」と長机の傍まで歩いてくる。

「冬花さんありがとう。〈だんご〉、うちの猫が見つかったの。委員会で抜けられなくて連絡が遅くなっちゃったけど。――そうだ、小春さんが最初に見つけてくれてたのよね、ありがとう」

 小春は自分を指さし首を傾げる。夏理と秋緒も事情がわからず冬花を見る。

「早いうちに見つかってよかったわ。〈だんご〉ちゃんも安心したんじゃないかしら。怪我はないといいのだけど」

 冬花が会話を続ける。やはり何か知っているらしい。

「怪我はなくて元気みたいよ。それにしても冬花さん、名探偵ね。うちの〈だんご〉が逃げ出したことから、いそうな場所までわかったなんて」

 冬花は「小春のおかげよ」と言い、小春を見て微笑む。

 夏理は「どういうこと?」と説明を求め、秋緒も頷いて同意し冬花を見る。


 冬花は席を立って壁際のパイプ椅子を長机の端に置くと、「まずはどうぞ」と言って麗佳を座らせる。冬花が自分の席に戻ると、説明は麗佳から始まった。

「今朝、うちで飼っている〈だんご〉が逃げ出しちゃっていたことを冬花さんに教えてもらって、言われた場所の辺りを探したら見つけることができたの」

 秋緒が挙手して冬花に質問する。

「なぜ麗佳の猫が逃げ出したことを冬花が知っていたのかしら? さっき『小春のおかげ』と言っていたけど、もしかして小春の見た猫がそうなの? だとしても理由がわからないけれど」

「鋭いですねえ」冬花は声を低くして語尾を伸ばすように言った。冬花の中での探偵のイメージなのである。秋緒が「やった」と喜ぶ。

 冬花は隣の小春の方を向いて説明を始めた。

「まず最初に、今朝学校で小春がわたしに猫の話をしてくれたでしょ? そのときに、小春が近づいても猫が逃げなかったのが少し気になったの」

 夏理が挙手して質問する。

「どうして気になったの? 人間に慣れてる猫がいても気になるほどじゃないかなあと思うけど」

「じゃあ、人に慣れている猫って、どういう場合があると思う?」

「うーんと、まず飼われてる猫でしょ。それに餌をもらっている野良猫も人に慣れていることがあると思う」

 秋緒は隣の夏理に言う。

「飼われてる猫って言っても、室内だけで飼っている場合と、自由に外に出られるように飼っている場合の二つがあるでしょ」

「そうか、じゃあ外にいて人に慣れてるのは、〈室内飼いで逃げ出した猫〉、〈屋外飼いの猫〉、〈餌をもらっている野良猫〉、この三つの場合があるってことになるかな。でも見分けはつかないし、気になるようには思えないかな」

 夏理の答えに冬花は頷く。

「そうなの。三つの場合が考えられるわ。それで可能性が低いものから消していく必要があるのだけど、最初に〈餌をもらっている野良猫〉は消える。小春が猫を見た場所は餌やり禁止だったのよね。まあ、誰かがいつもこっそりと餌をあげていた可能性もあるけれど、基本的に猫は縄張りを持っていつも同じように行動するから、その日だけ突然小春の通学路で目に留まるのはどうかと思ったのもあるの」

 麗佳も頷きながら聞いている。冬花は続ける。

「次に〈屋外飼いの猫〉も消した。屋外で飼うなら野良猫と間違えられないように首輪をつけると思うのだけど、今朝小春から餌代をあげたところまで聞いていて首輪の話が出ていなかったから。それにもし首輪をしていたなら小春も餌の心配はしないはずなの」

「なるほど、それで〈室内飼いで逃げ出した猫〉ね」

 秋緒が言うと冬花は頷いた。夏理も納得した表情をしている。

「もし本当に逃げ出した飼い猫なら探しに行こうとも思ったけれど、可能性が高いっていうだけだったし、それに学校にいる状況だったから。それで、できることはないかしらと思って昼休みの間に、その付近に住んでいて小春が見た三毛猫を飼っている人を知らないか聞いて回っていたら、麗佳がいたの」

 視線で会話のバトンをもらった麗佳が続ける。

「そのときはあまり心配していなかったけど、朝に〈だんご〉を見てなかったこともあって、家にいるお母さんにメッセージを送って確認してもらったら、そこでいないことがわかって驚いたわ。それを冬花に伝えたら、なんと探したらいい場所と、探し方まで教えてくれたのよ。小春さんが〈だんご〉を見かけたっていう場所の近くで、音に注意しながら探してみてって」

「音?」小春は冬花に訊く。

「そう。小春は〈だんご〉ちゃんの首に餌代――百十円を結びつけてくれたのよね。きっと五十円玉と五円玉を二枚ずつ」

「うん。穴が空いてたから」

「だから〈だんご〉ちゃんがそれを嫌がって取ってなければ、小銭同士がぶつかって音が鳴るだろうって思ったの。それから、見つけた場所の近くを狙ったのは室内飼いの猫は外に出たとき緊張して大胆な行動はしないと思ったから」

 少し興奮気味に麗佳が説明を代わる。

「わたしは学校にいたから、教えてもらったことをお母さんにメッセージで送って、その通り探してもらったのだけど、どうだったと思う? ――まあ見つかったのはもう言っちゃったけど。路地に入ったところで『チャリン』って鳴ったのが聞こえたらしいの。それで、お母さんが脇にある柵と植え込みからお隣さんの庭を覗いたら〈だんご〉発見! この名探偵・冬花さんは事件を解決したのです」

 小春たちは「おー」と感嘆し冬花に拍手を送った。

 冬花は照れるでもなく、小春の方を向く。

「ほんとに小春が見つけてくれたおかげなのよ。それに〈だんご〉ちゃんがずっと近くにいるとは限らなかったから、『動かないでね』って祈っていたの」

「やっぱり、冬花ちゃんは探偵もできるようになったんだね」

 小春は確信した。


 麗佳がスマホを確認すると、それを長机の中央に置いて皆に見せる。

「これ、うちの〈だんご〉です。お母さんが写真送ってくれたので」

「あ、今朝の子だ! 可愛い」

 小春がほっぺたに手を当てて驚きながら言う。

 夏理と秋緒も画面を覗き見ると、首に小銭をぶら下げた三毛猫が写っていた。

 麗佳は「あっ」と何かを思い出して部室から小走りで出ると、片手に何かを持って戻ってきた。

「これ、よかったら。今回のお礼です。百十円より高いやつですよ」

 そう言って長机の上に置いたのは猫耳カチューシャだった。

「これどうしたの?」

 小春が訊く。

「うちの文化研究部では、〈猫になった主人公の気持ちを考える会〉を定期的にやっていまして、それで使っているものの余りです――今は部員の数より多くあるので。部費で購入したものではないので、気兼ねなくもらってください」

「と言われても、うちでは使う予定ないわよね」

 秋緒が夏理と顔を見合わせて言う。

「本当に今回はありがとうございました。〈だんご〉がもらった百十円はしっかりおいしいものに使わせてもらいますので、ご安心ください。では」

 麗佳は気にせず深々と頭を下げドアのところまでいくと、またお辞儀して去った。


「さて、これどうするよ」

 夏理が猫耳カチューシャを手に持つ。

「どうって、夏理あんたつけてみなさいよ」

 秋緒がにやりとして言った。

「ええ。……まあせっかくもらったし、順番につけるか――どう?」

 あまり躊躇せず夏理が身に着けると、小春が「可愛い!」と反応し、冬花も「似合ってると思うわ」と褒めた。秋緒は「まあまあなんじゃないかしら」と微妙な反応を示したが、そう言いながらもスマホで写真を撮った。連写モードで。

「おいおい、めっちゃ撮ってんじゃん。……じゃあ次秋緒ね」

 夏理に「はい」と手渡され、秋緒はじっと猫耳カチューシャを見つめる。

「笑わないでよ。いいわね? 絶対だから。……どう?」

 身に着けて皆の反応を待つ。

「なんか普通だな」夏理が言う。

「それはそれでなんか嫌なのだけど。小春と冬花はどう思う?」

「可愛い!」と小春。「ポニーテールが尻尾みたいでいいと思うわ。あ、キャットテールね」と冬花。

「うーん、なんか反応が薄い気がするけど、まあいいわ。これですごく褒められても普段から身に着けられるわけじゃないし。じゃあ次冬花ね」

 秋緒は冬花に手渡すと、「楽しみね」と言って身に着ける。

「どうかしら?」

「うわっ、冬花似合いすぎでしょ。……普段使いもいけるかも」

「〈にゃん〉ください! 冬花、〈にゃん〉って言って!」

 秋緒のときとは明らかに違う反応を示す夏理を秋緒はじろりと睨む。

 小春は声を出すことも忘れてうっとり見とれている。

 そんな小春の反応を気にしながらも、夏理に要求された冬花は両手を顔の横に持ってきて「にゃん」と言う。

「ありがとうございます!」

 夏理は頭を下げる。

「これはちょっとした兵器として運用可能ね。みだりに使用するのは控えましょう。次は小春ね――って、戻ってきて小春」

 目の前に手をかざされた小春はハッとする。

「可愛いとかそういう次元じゃなかったよ……あ、次わたしか」

 小春は冬花が猫耳カチューシャを差し出していることに気づく。

 受けとると、「よいしょ」と見に着け、ゆっくり顔を上げる。

「じゃあ、冬花ちゃんと比べたらぜんぜんだけど……はい――あ、にゃん」

「いいじゃん、可愛さでは一番なんじゃないかな」

「そうね、なんか和むわね」

 夏理と秋緒は頷きながら褒める。

「冬花ちゃん、どうかな?」

 小春が冬花に訊く。

 しかし冬花はぼんやり小春を見たまま反応がない。

「……あれ?」

 秋緒も冬花の様子に気づくと声をかける。

「冬花、どうしたの? 大丈夫?」

 夏理は冬花の目の前に手をかざして反応がないことを確認すると言う。

「小春の可愛さ情報を処理しきれずにフリーズしたみたいだ」

 小春は首を傾げてちょこんと結んだ髪を揺らした。

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ゆうべの小春 向日葵椎 @hima_see

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