ゆうべの小春
向日葵椎
ゆうべのザッハトルテ
夏休みに入ってから一週間がたった頃の朝。
二階にある自分の部屋のベッドで小春が目を覚ますと、隣で寝ている冬花はまだ起きていなかった。その向こうの、ベッドのすぐそばに敷いた一つの布団で寝ている夏理と秋緒はどうかと目をやると、秋緒は寝転がりながらスマホをいじっている。夏理はまだぐっすりと眠っており、隣の秋緒からタオルケットを奪い取っていた。
今回の泊まりは夏休みの一カ月ほど前から決められていた。もともとは夏理が「夏休みの宿題を一緒にやろう」と言い出したのがきっかけだったが、秋緒が「自分でやるものでしょ」と言い、なんだかんだと話しているうちに小春が「ゲームの方向性について話し合うやつやりたい」とまったく関係ない話を始め、冬花が「小春が今いいこと言った」と小春の発言を拾ったことで話の向きが変わる。<なんかクリエイターっぽいこと>が女子四人の琴線に触れたこともそれを後押しした。特に具体的な話の内容までは決めていなかったが、今まで自然とやってこれていたためにこういう話はちゃんとしたことがなく、「きっと熱く長い議論になるだろう」と全員が感じていた。だから小春が「うちで語り明かそう」と言い出したときも断る者はおらず、各々の予定を確認し合うとすぐに日程は決まった。
高校一年の四人は始めから全員が情報通信部だったのではない。もともとは<よくわからないけど最強のプログラマー>を目指していた夏理が部員ゼロで廃部寸前の情報通信部に単身乗り込んだことに始まる。しかし後から何をプログラムすればいいのか考えていなかったことに気づき、とりあえず仲の良いの秋緒を強引に誘った。秋緒は中学時代に部活に時間をとられる生活が合わないと感じていたので初めは断った。しかし引っ張って連れてこられた先の部室で夏理に教えられながら、プログラムを書いて実行し、画面に『Hello, world!』を表示させた瞬間、ハマった。
それからもっと部員を探すための旅に出よう、と夏理が窓の外を熱いまなざしで眺めていたところ、敷地内に不審な人物を発見した。それが小春である。小春はそのとき何か袋菓子を食べながら、ベンチに座ってゆらゆら揺れていた――たくさんの鳩に囲まれながら。小春は菓子を食べながら、鳩にそれを振舞っていたのだ。見ているうちに向こうの角から現れた誰かに呼ばれた小春は立ち上がり、鳩を避けながら進もうとして転ぶ。鳩が飛んで逃げる。
――おい大丈夫か!
夏理は窓を開けて小春に声をかける。小春は涙がこぼれそうな目で夏理を見る。このとき小春に駆け寄ってきたのが冬花で、角から小春を呼んだのも冬花だ。その後、小春はちょっと擦りむいたくらいだとわかり安堵した夏理は、自己紹介に続けて、ふと「プログラムで一緒に何か作るメンバー募集中です」と言ってみたところ、勢いよく寄ってきた小春は窓からこちらに入り込もうかというほど体を伸ばして、「一緒に作りたい」と即答した。冬花は「小春がやるならなんでも」とその場で一緒に参加することを決めた。
ゲームを作り始めることになったきっかけは、入部を決めた小春が「ビスケット作りたい」と言い出したことだ。小春は<プログラムというもの>でお菓子が作れると思っていたのだ。それを知った夏理が「小春が辞めてしまうかもしれない」と案じ、知恵を絞って<お菓子を作るゲーム>を作ることにした。小春はみんなで何か作れればお菓子でなくてもよかったし、それも面白そうなので夏理の案に乗った。
「秋ちゃんおはよう」小春は唯一目覚めていた秋緒に声をかける。
「おはよう小春。早起きなのね。まだ起き出すには早いんじゃない?」
「ほんとだ。まだ七時前だ。昨日寝るのが早かったからかな」
「……そうね。なんか意気込んでた割にすんなり寝ちゃったわね。宿題やったあとにみんなでゲームしたのがよくなかったのかしら。だとしたら夏理がゲーム持ってきたなんて話始めたからね」
秋緒は隣で寝ている夏理の頬を指で押した。夏理は表情を歪めたが目覚めない。それから秋緒は話し声で冬花が起きないか、と小春に訊いたが、「冬花ちゃんはアラーム鳴るまで絶対に起きないからダイジョブ」と答えた。小春と冬花は両親が知り合いということもあり、昔から互いの家に泊まり合う仲だ。夏理については話し声で起きないどころか目覚まし時計が鳴っても起きないことを秋緒はよく知っている。小学校で一緒になってから「目覚まし時計と母さんが起こしてくれないんだ」と遅刻の言い訳を聞かされ続けてきたから。
小春は話を戻す。
「ゲーム楽しかったよねえ。レースとかバトルのアクションゲームは得意じゃないけど、秋ちゃんも同じくらいだったから安心した。夏理ちゃんも冬花ちゃんもゲーム上手なんだもん」
「そうね、わたしも楽しかった。小春みたいにコースを逆走したりはしないけど、わたしもどうしてもカーブでうまく曲がれなくて全然進めなかったし。それにしても冬花ってゲームうまいのね。夏理がうまいのは知ってたけど、それに負けないくらいだったし、ちょっとおっとりした性格だから正直意外だったの」
「冬花ちゃんはなんでもできるんだよ。……でもときどき思うの。いつも優しくて、わたしの面倒を見てくれたり、助けてくれるから、そのせいでなんでもできるようになっちゃったのかもって」
「小春が大好きなのはたしかね。わたしたちがお土産に買ってきたアイスを誰が多く食べるかの勝負でゲームしてるときも、小春が途中でうたた寝し始めなければ冬花も試合を途中で諦めたりしなかったわ」
「昔からずっとこういう感じで……。冬花ちゃんには、わたしのことを気にせずもっと好きなことをしてほしいから、わたしもがんばらないと」
アラームが鳴る。ベッドの上の冬花のスマホからだ。秋緒が自分のスマホで時刻を確認すると七時になっていた。
冬花が目を覚ましてアラームを止める。
「冬花ちゃんおはよう」と小春。続けて秋緒も「おはよう」。
「おはよう。小春、もう起きてたのね。お腹すいた?」
「もう、起きてからすぐわたしのことなんだから。お腹はすいてるけど」
「それじゃあ、一緒に朝ごはんの支度を始めよう。予定通り、パンケーキを――」それから手を枕で弾ませて「小春の好きなフカフカに焼こう」。
小春は「やった」と喜んだ。
四人の両親は小春の家で<情報通信部の勉強合宿>と言う名目で泊まりがあることを知っているが、小春の両親は昨日から親戚に会いに他県まで行っていて三日は帰ってこない。夜更かししても怒られはしない小春家だが、小春はこっそりすることにワクワクを感じていたので、みんなを呼ぶのを両親のいない日にしていたのだ。夜更かしはできなかったが。
「じゃあ夏理起こさないとね」秋緒は夏理の腹に手を当て体を揺する。しかし夏理は表情を歪めるものの目を覚まさないので、秋緒は「先に行ってて」と二人に言う。
小春と冬花はそんな二人の様子に口元を緩ませながら起き上がり、ベッドから降りて部屋を後にした。その直後に部屋から「コラ起きろ!」と聞こえる。小春と冬花は目を合わせて、向こうの二人に聞こえないように笑った。
小春と冬花は一階に降りて顔を洗った後、朝食作りの準備として道具や材料をキッチンに並べることにした。
「冬花ちゃん。フライパンとミキサーでいいんだっけ? いっつも作ってもらってたからわからなかったの」
「ミキサーは惜しいわね。でもフライパンは正解。じゃあそれと小春、泡だて器とボウルを出してもらっていいかな」
小春は返事をすると、言われた道具を揃えて得意げな表情で冬花を見る。冬花はちょうど材料を出してきたところで「ありがとう」と言い、それからまた別の必要な道具を小春にお願いして並べてもらった。一度にすべて伝えるには道具の数が多いため、小春を混乱させないための配慮である。小春は道具を並べるごとに得意げな表情をし、冬花はそのたびに感謝するのであった。
その頃になってやっと秋緒に連れられて夏理が降りてくる。
「おう、おはよう」夏理はあくびをしながら言う。二人が挨拶を返すと、そのまま秋緒に連れられて顔を洗いに行った。
その間に、冬花は道具や材料の確認をする。
材料は昨日、冬花たちが小春の家へ来る途中にスーパーへ寄り、お土産のチョコレートやアイスと一緒に買ってきたもので、保管は小春と、小春家の棚や冷蔵庫の場所をよく知っている冬花が行った。
冬花が足りない道具や買い忘れた材料はないことを確認し終えたとき、秋緒と夏理が戻ってきたので調理を始める。冬花以外は、秋緒がたまに料理を作るくらいで、残り二人はほとんど料理をしない。自然と冬花に教えてもらいながら調理が進む。夏理はパンケーキを<混ぜて焼いて終わりだな>くらいに考えていたので、卵や牛乳と粉類を分けて混ぜ始めた段階から「ほう」とか「なるほど」と感心していた。
材料を混ぜた後は、四人でそれぞれ二枚ずつ焼く。濡れ布巾を使ってフライパンの温度を調整する方法やひっくり返すタイミングも冬花が教えてくれるので誰も失敗せず、同じように作ることができた。しかし冬花は小春が作ったのを食べたがるので、小春は「うまくできてるといいな」と言い、作った一枚を冬花と交換した。それを見た夏理と秋緒も互いのを一枚だけ交換する――自分の方がうまくできているはず、と互いに思いながら。
後片付けを済ませると各々皿を持ってテーブルへ持っていく。
全員が席に揃ったのを見て冬花が「それじゃあ冷めないうちに食べようか。いただきます」、続けて皆も「いただきます」。冬花がテーブルに持ってきたバターやメープルシロップを加えてから食べ始める。
一口食べた瞬間、それぞれ感嘆の声をあげる。
「うわあ、すごくおいしい。フカフカで大好き――あ、冬花ちゃんが作ったからかもしれないけど……冬花ちゃん、わたしが作ったのどうかな」
小春は向かい席の冬花を見る。
「とってもおいしいよ。自分で作るよりおいしいかもしれない。小春が作ったのを食べたのは初めてだったけど、また今度作って欲しいな」
小春は「いくらでも!」と答えた。
小春の隣席に座る秋緒は、自分と夏理の作ったもののどちらがおいしいかを考えながら、二枚のパンケーキを交互に食べていた。何もつけないで食べ比べたり、均等にバターやメープルシロップをつけたり。今のところどちらもおいしかった。
秋緒の向かい席で、冬花の隣席となる夏理は皿の表面が埋まりそうなほどのメープルシロップをかけて食べていた。秋緒が途中で「いやいや、あんたかけ過ぎでしょ」と言ったが、大きく頬張って「最高!」と聞く耳を持たなかった。
小春は残り一枚の半分となったところで思いだしたように、「そうだ、ブルーベリージャムがあったの。持ってくるね」と席を立って冷蔵庫に向かう。
それから「あれ?」という声が冷蔵庫の方からしたかと思うと、小春が首を傾げながら戻ってきた。
秋緒が「小春どうしたの?」、冬花も夏理も小春を見ている。
「ザッハトルテが消えちゃった」
「ザッハトルテ?」
「うん。昨日みんなが来る前に買って冷蔵庫に入れてたの。今日のおやつにみんなで食べようと思ってて」
「――ああ、そういえば昨日言ってたわね。たしかゲームしているときに、ザッハトルテがあるから明日みんなで食べようって」
「そうなの。それでね、今冷蔵庫の中を見たらなくて……」
「夏理、あんた食べたでしょ」
夏理は急に名前を出されてぎょっとした表情になる。
「え、食べてない食べてない。それがあったことも今思い出したし。というか昨日小春が言ってたのを聞いてたなら秋緒も怪しいと思うんだけど」
夏理と秋緒が睨み合う。
そのとき冬花が急に立ち上がったので一同が注目する。
「小春、ジャムは?」
「あ、そうだった」
小春はブルーベリージャムを持ってくるのを忘れていた。
次に冬花は注目を集めるように咳払いをしてから言う。
「それと、犯人はこの中にいる!」
一同がぽかんと口を開けているので、また咳ばらいをして続ける。
「ちょっと言ってみたかったの。あ、でも言ったことはほんとなのよ」
「冬花ちゃんが探偵までできるようになっちゃった」
それから「まずは食べましょう」と冬花が説明を後にしたので、小春はブルーベリージャムを持ってきてパンケーキを食べ終える。
夏理と秋緒も小春より早く食べ終えていたので、小春と冬花は食後のコーヒーと紅茶を淹れる。コーヒーは冬花と秋緒、紅茶は小春と夏理だ。
皆が席についたところで冬花はコーヒーを一口飲んで説明を始める。
「まず、昨日の夜から小春の家にはわたしたちしかいなかったのだから、この事件の容疑者はわたしたちしかいない。だから昨日からのわたしたち行動にこの謎を解くヒントがあると考えていたのだけど、そこで一つの推測が浮かんだの」
冬花は他の三人を順に見ながら言う。
秋緒が挙手して質問する。
「冬花はもう犯人がわかっているの?」
「推測だけど。これから順を追って説明してみるわね。昨日、わたしたちが小春の家に来たのが十八時ごろで、そのときには冷蔵庫にザッハトルテがあったけど、まだそのことを知っているのは小春だけ。それから知っての通り、お土産や材料と一緒に買ってきたたこ焼きとお惣菜で夕食を済ませたのが十九時ごろ、そこから部屋に戻り、お風呂を済ませて宿題を開始したのが二十時ごろになるわね。ここでもまだケーキのことを知っているのは小春だけ」
冬花以外の三人は昨日のことを思い出しながら話を聞いている。
「それから一時間くらい宿題をしたところで夏理がゲームを持ってきたって話を始めて、それからお土産のチョコとアイスを持ってきてみんなでゲーム大会開始。そこで初めて小春がケーキがあることを教えてくれたのよね」
冬花が見ると小春は頷く。
「さあ、ここでみんながケーキの存在を知ります」
夏理が挙手する。
「ちょっと待った。それよりも前に冷蔵庫の中を確認できたんじゃないかな。たとえば、買ってきた材料を冷蔵庫に入れるときとか」
「鋭いですねえ」、声を低めにして語尾を伸ばすように褒めると夏理は喜んだ。冬花の中での探偵のイメージなのだ。
冬花は答える。
「たしかに小春がケーキの話をするより前に、冷蔵庫の中身を確認するチャンスは誰にでもありました。材料を冷蔵庫に入れたりするとき、飲み物を出し入れするとき、部屋に戻った後はお手洗いに行くときにも可能です。でも早い段階でケーキの存在を知ったからといって、それが有利になることはないの。小春がいつケーキを確認するかがわからない以上、下手に手出しはできない」
「なるほど」、夏理は相づちを打った。
「それでケーキの存在と、それをいつ食べるかが判明した後のこと。ゲームを二十一時ごろから二時間くらいやったところで小春が眠たくなっちゃったので、ゲームを終えて片づけてから布団を敷いたり、歯を磨いたりと寝る支度を始める。誰かがケーキを食べるとすれば、ここからがチャンス。小春が次にケーキを確認するのは目覚めた後になるから。夜中に目が覚めることも考えられるけど、そのとき冷蔵庫の中まで見るとはあまり思えない」
秋緒が挙手して発言する。
「あのときはたしか、歯磨きしに一階に降りたのも、二階に上ったのも、みんな一緒だったわよね。だからそのときこっそり食べることはできない、そうよね」
「そう。誰かが食べられるのはみんなが二階に上ったあとのことになるの」
「わたしも褒めて」、口をとがらせる。
「あ、ごめん――鋭いですねえ」、夏理のときと同じように褒める。
ここで冬花は小春が置いてけぼりになっていないかと様子を見る。なんだか楽しそうな表情で冬花たちのやり取りを眺めていた。
そこまでケーキのことは気にしていなかったらしい。
冬花はコーヒーを一口飲んでから続ける。
「二階に上がったあと、それも小春以外の誰かが一階に降りて戻ってきたあとがチャンスよね。小春と自分以外に降りた人間がいなければ、他に疑われる人物がいなくなってしまうから」
夏理が挙手する。
「昨日誰が降りたかなんてわからないよね。秋は降りた?」
「……まあ、夜中に一回だけトイレに。そういう夏理はどうなのよ」
「わたしも夜中に降りた。一回だけだよ。それが秋より前か、後かはわからない」
二人は顔を見合わせる。これで答えが決まるとは思えなかったので、冬花を見て説明の続きを待つ。
視線が向けられると冬花は頷いて続ける。
「そう。わからないの。ちなみにわたしも夜中に一度降りてる」
夏理と秋緒にとって予想外の答えだった。推測があるという話だったのにわからないとは、なぜ。
冬花が結論めいたことを言わずに話を区切ったので、夏理と秋緒は自分たちだけで考えをめぐらす。
秋緒は気になっていたことを小春に質問する。
「ザッハトルテって、みんなで食べる予定だったってことは一切れだけじゃなくて、たくさんあったのかしら?」
「うん、ワンホール。せっかくなので奮発したよ!」
「それは残念ね――って、一人でワンホールは食べられないと思うの。夏理は甘いもの好きだからできると思うけど」
夏理は小春と秋緒に視線を向けられる。小春は夏理を犯人として疑っているのではなく、ワンホールも食べられるということに驚いている。
夏理は手を振って否定する。
「ここは犯人が複数人いた可能性も疑うべきでしょう」
否定したのはワンホール食べられるということではなかった。
「と、いうか……そんなたくさん食べたい? 小春からケーキの話を聞いたときはすっごく嬉しかったし、食べたかったけど、一切れでも十分だし、何よりみんなの幸せを奪ってまで多く食べたいとは思わないわ」
言った後に秋緒は少し恥ずかしそうにコーヒーカップへ視線を落とした。
「だよね。なんで全部食べたんだろう。……あ、全部は食べていないのか。残りはどこかに隠してお持ち帰りとか」
「どんだけ食い意地張ってるのよ」
ここで傍観していた冬花が「鋭いですねえ」と言う。
「食い意地張ってること?」と秋緒。
「もうちょっと前」
「全部は食べてない……のところ?」と夏理。
「そう。全部は食べていないどころか、犯人はまったくケーキを食べていないの」
夏理と秋緒は顔を見合わせ、視線で「わかる?」、「いいや」と会話した。
秋緒がさらなる説明を促す。
「ケーキをまったく食べていないなんて、目的がわからない。ケーキはなくなっているんだし、食べたと思うのが自然な気がするけれど」
夏理も加勢する。
「まるごとお持ち帰りなんかしなくても、すぐ食べればいいんだ」
夏理は加勢に失敗した。
夏理と秋緒が答えを知りたがっていることを感じた冬花は、そろそろ推測の核心についての説明を始める。
「ポイントはゲームね。ほら、あのとき勝負したでしょう。誰がお土産のアイスを多く食べられるかって」
「あれは熱い勝負だった。優勝したあとは格別においしかったなあ」
夏理は昨日の勝負を思い出しながら答えた。
「そのとき、アイスをとりに行ったのは夏理よね」
「そうだけど……って、もしかしてそのとき食べたって疑ってる? でもこのタイミングで食べると疑われるからそれはないって、さっき冬花が」
「そうじゃないの。そのとき冷凍庫には変わったところはなかった?」
「いや、別に。他にもいろいろ入ってたけど、アイスはすぐわかったから、それだけとってすぐに二階に戻ったよ」
秋緒が冬花の質問からあることを考える。
「もしかして、ケーキ、冷凍庫にあるの?」
「鋭いですねえ。でもちょっと待ってね。じゃあ、冷凍庫にケーキを入れたのは誰でしょうか?」
「えーっと、夏理が見たときになかったとすれば、みんなで一階に歯磨きしに降りたときよりあとだから……誰でもできるわよね?」
「そうね。そういえば、昨日二階でゲームしながら食べてたお土産のチョコはどこだったかしら」
「それは一階にいくとき小春か冬花が持って行ったのよね。わたしと夏理じゃどこにしまえばいいのかわからないから」
そのとき夏理が何かを思い出す。
「わたし、小春に言ったわ……チョコは冷やして食べようって」
視線が小春に集まる。小春は首を傾げる。
代わりに冬花が答える。
「眠たかったものね。こればっかりは想像になるけれど、チョコは冷やせばおいしいっていうのと、勝負になるくらいみんながアイス食べたがってたのが、うとうとしていたから混ざっちゃったのかもしれない」
冬花は「ね」、と小春を見る。
小春はやっぱり首を傾げる。
それから冷凍庫でザッハトルテが発見された。表面のチョコレートコーティングには薄く霜がついた状態で。その横には、冬花の推測を裏付けるかのように昨日のチョコレートが並んでいた。
秋緒は冬花に尋ねずにはいられなかった。
「そうかもしれないって、いつから考えてたの?」
「パンケーキの材料を冷蔵庫から出したとき。ケーキがなかったから」
「いや、そこで確かめなさいよ」
「そうね」
冬花は笑った。
自然解凍により、おやつの時間にはザッハトルテを食べることができた。
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