十八夜  ここは大江戸

そこには変わった服装や髪型の人々が歩いていた。

男性は頭を月代に剃り、髪を結っている。

女性たちは島田鬢にし、簪を差している。子供たちは禿みたく髪をおかっぱや髷にしている。

誰もが靴ではなく草鞋わらじを履き、着物や帯を締めている。

刀を腰に差した侍、天秤棒を担いだ棒手振りに牛や馬、人が荷車を引いて荷物を運んだり、飛脚や駕籠かき、大道芸などが往来を行く、やがて、

(太助、今日こそ打ちのめしてやらあ、覚悟しやがれ)

大通りで一人の男が、何人、いや、十人以上の取り巻きか子分を引き連れて、細目の男に怒鳴りつけていた。

男は、月代にねじりはちまきをし、法被を着ている。腹はサラシを巻いている。

「おいおい、あの人やられるぞ」

「ちょっ、警察呼ばなきなゃ」

だが、その刹那の瞬間。

“どか、ばき”と男は全員を棒一本であっという間に打ちのめした。

「弱っちな…てめらーよく覚えておきやがれ、二本差しが怖くて田楽が食えるかてんだ」

そう言うと男は、意気揚々とその場を去った。

ラッシェオとルルは、かっこいいと拍手を贈る。

しかし、先程から違和感がした。それは、大勢人がいるのに誰一人として六人に気付いていない。

まるで、透明人間や幽霊のように世界に存在してはいけない人みたく、誰もが無関心だった。

その時、ティアがあることに気付いた。

「まさか、お江戸?」

ティアが口にしたお江戸とは…?

「お江戸?」

「お母さん、何なの…それ?」

「聞いたこともない町だわ」

ティアに問いかけと、

「遠い昔、御先祖様たちが暮らしていた地球と言う惑星ほし、そこにジャパン国と言う東の島国があり、かつてお江戸と言う時代があったと聞いたことがあるわ」

ラッシェオたちが暮らすモルディーは、実は開拓された星なのだ。八千年前、地球に暮らしていた先祖たちは資源の枯渇、ポールシフトによる環境変化などで新たな母星の開拓、地球再生のために宇宙へ…やがて、現在のモルディーを発見し開拓した。

それから、数千年、多くの人類は動植物や僅かな資源、技術を持ち、地球を、太陽系を離れ、モルディーに移住した。

「太陽系への道は、次元空間の乱気流が原因で二十年前に壊れてから行くことが出来なくなったと聞いたことがあるが、まさか、俺たちは地球に来ていたのか…?」

「嘘だろう。だけど、お江戸は…」

ピースとフーガもその名を歴史漫画や映画などで多少は知っていた。

「父さん、おじさん、どうしたの?」

ラッシェオが尋ねた時、また衝撃が身体に走った。

すると、元の廃墟の町にいた。

いったい、先ほどの光景はなんだったのか…?

「古くは大和の国と言われていた東の果の島国「日本」には千年の歴史があり、さっきの時代はだいたい千六百から千八百年までの二百年近く続いた時代のものだ。確か、“鎖国”なる政策をしていたかな」

「鎖国?」

ラッシェオとルルは頭にクエスチョンマークが出た。

何かの国かと思いきや、ティアが補足した。

「かつて、国を治めた徳川将軍家が外国との交流、貿易を禁止したのよ」

「え、そんなの無理じゃん」

「外国の音楽や映画、漫画やお菓子や服も靴もないなんて考えられないわ」

モルディーには、百八十以上の国と地域があるが、どこの国とも良好な関係を築いているので、自国はもちろん、色々な国のブランドが町中にひしめき合っている。

「大昔、御先祖様たちが地球を旅立ったのは西暦二三〇一年の二十四世紀の時、お江戸から六百年後の事だ」

地球人が新惑星を目指したのは科学が最高潮に達した「科学隆盛期」の時代だ。

お江戸、江戸時代はそれより六百年前の世界だ。それまでにも日本にはその時代を博物館などで展示したり、観光地の名所や模したアトラクション施設はあった。しかし、さっきのは間違いなく本物の江戸っ子だ。侍や商人もその時代を生きる人々だ。

なぜ、いきなり、そんな人々が現れたのか…?

「あの男の人…太助さんとか言っていたけど、あの町の強い人かな。ギャングの一味みたいな連中に絡まれても臆することも無く。全員を数分もしないまま潰していたけど?」

ラッシェオが見た太助と言う名の江戸っ子の男性は何者だったのか?

すると、フーガとティアがあることを思い出した。

「もしかして」

「一心太助のことじゃ」

二人は思い出したように言った。やはり、おしどり夫婦息ぴったり。

だが、一心太助とは誰の事だろうか…?

「むかし、日本国は“関ヶ原の戦い”が終わり、征夷大将軍徳川家康公が天下を治めた時代、前天下人豊臣秀吉公の遺児豊臣秀頼公と妻の淀君がまだ西の都大坂城に居を構えていた。そして、最後の戦い“大坂の陣”が勃発しようとする。その時、天下の御意見番と言われた老将大久保彦左衛門の一番の家来だ」

フーガは小型電子百科事典で大昔の歴史コーナーをホログラムにして説明した。

モルディーと地球の歴史が一度にわかる優れものだ。だが、問題はなぜ…そんな何百年前の人々が突然現れたのか…?

「まさか、幽霊、僕たち、知らずに霊界だの冥界みたいな死後の世界に足を踏み入れていたのか…?」

ラッシェオの一言に全員が青ざめた。

まさか、自分たちはもう生きておらず、霊魂に…

「おバカ、昨夜のルルちゃんじゃないけど、皆が不安になること言うんじゃないの」

「いっててー、母さん、ごめん」

ユリからお仕置きのゲンコツを喰らう。

「だが、ラッシェオくんの言っていることもあながち間違いではないかもしれない。異世界と言い方をしているが、死後の世界と言われる天国や楽園、地獄や魔界などの世界も結局は同じ我々の常識が通じない世界だ」

神やら女神、天使や妖精、悪魔や鬼、死神の住む世界は普通に暮らしている人間以上の神通力や魔力などを持つ者たちが暮らしている。

フーガは、異世界もそう言った神話や伝説の世界も根は一つと言った。

「昼と夜、科学と魔法、黒と白のように全く違うものでも根は一つのものだからね」

ティアが夫に寄り添う。

「黒と白…私たちと同じだね」

「本当だ。僕らシュバルツ家とルルのヴァイス家の邂逅だ」

ラッシェオとルルが寄り添う。フーガとティアのように、そう、二つの家族の姓はラッシェオとユリ、ピースはシュバルツ家の黒、ルル、フーガ、ティアはヴァイス家の白と相対しているが、気の合う仲良し家族なのだ。

「ここは、六千アフター、そうさ、そうさ、生きているんだ…」

ラッシェオとルルが口ずさむ。

二人が好きな歌を…











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