4.

 半分になったお金を早く使い切ってしまったけど、何もする気が起きなかった。自分が思っている以上に、あの最後の日にショックを受けているみたいだ。


 電車の揺れに身を任せていると、ふと中吊り広告のギラついた文字が目に飛び込んできた。


『あなたの郵便局エピソード、教えてください』


 ドキッとした。もう終わったことなのに、トラウマみたいに反応してしまう。こんなんじゃいつまで経っても前に進めない。


 お金を使う理由でも、このトラウマじみた思い出から抜けることでも、どちらでもいいからきっかけがほしかった。


「……サボろ」


 言い訳のようにわざと呟いて、次の駅で降りた。


 なるべくシンプルな便箋と封筒を買った。スタバでキャラメルフラペチーノを飲みながら、あの日の出来事を丁寧に書いた。


 飲み切るのにいつも苦労していた量を、いつの間にか空にしていた。たっぷり10枚分の便箋にはいくつもの思い出が書き記されている。


 彼は彼でダメなところもあった。でも、私も私でダメなところがあった。


 あんまり認めたくないことだったけど、今になって見れば自分を恥ずかしく感じる記憶もある。


 もう二度と、あんな思いをしないよう、書いた文字をしっかり読み直した。嫌な最後だったけど、つまらない思い出ばかりじゃなかった。彼との楽しかった出来事も思い出すことができて、なんだかホッとしてしまった。


 便箋を丁寧にたたんで、封筒に入れる時ふと気づいた。


「文字数制限とかあるのかな」


 でも、どっちでもいいか。私はこれを投函することで、彼と本当にさよならするきっかけにするんだから。


 ポストにそっと封筒を差し込んだら、カタン、と軽やかな音がした。

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わたしの郵便局エピソード 燈 歩 @kakutounorenkinjutushiR

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