第18話 浄化の世周り

 瓢箪一つ、口二つ、珍しく小屋では二匹が肩を並べて酒を酌み交わす。


「..あれから暫く帰って来ないのか、賭けは成功か?」


「いいや、それは無ぇ

そうなりゃ背中の毒は癒えてる、痛みは無ぇが傷が残ってるからなぁ。」


「結局は忘れられなんだ、人間であったという訳か。」


「いいや、それも違ぇ。

だとすりゃとっくに帰ってきてる」


「ならなんだ?」


「俺に聞くな、わかるかよ。

..だがまぁ巡ってるんじゃねぇか?

あいつはきっと、堕ちやしねぇだろ」


街から妖は消えたが、噂が流れるようになった。誰が流したかもわからないどこで拡まったのかもわからない。

街を女が歩いてる、歩いた場所の災いは消え、歩いた跡には黒い羽が落ちているという。


「そういうや閻魔の野郎はどうしたよ

まだ眠っていやがるのか?」


「さぁな、最近は云う事も聞かなくなった。何処ぞの塀の上にでも座って空でも眺めているのだろう。」


「けっ、暇な奴だぜ」「まったくだ」

祠は空っぽ只の石像、留守にしていても盗人すら入らない。


「変わらねぇな、生き物ってのはよ」

呆れて酒を呑む他見つからない。


➖➖➖➖➖➖


名も無き神社の塀の上


そこが神社なのか、かつて神社であったのかは定かでないが、特等性程度の役割ならば関係は無い。


「……。」 「人間か?」


「見ろ、太陽だ。

もう一度拝めるとは思って無かったが

まさか空が晴れるとはな、世の常というのはわからんものだ。」


「……」「綺麗だろ?」

クスリとも表情は動かないが、上を向き、光を眼だけで感じている。


「昔とある鬼と約束してな、陽の光がもう一度晴れたら酒を呑もうと。長らく叶わなかったが、漸く叶った」


「……」「君のお陰だ。」

首を戻しこちらに向き直った顔は、空を見ていた顔と全く変わらなかったが少しばかり、頬が赤く染まっていた。


「……。」「行くのか?」

何も言わずにくるりと体を反転させ、歩いていく。見せた背中は何も語らず隙をこちらに与えない。


「何も聞くまい、自由に歩いていけ。

終わりは無いかもしれないが、不毛ではない。太陽はいつも見ている」


拳銃の弾はもう出ない。

必要が無いと判断されたのだろう。


脚が有れば前に進める

眼があれば理解が出来る。


かつて刑事だった人間は今、己が何者か、世界を見て決めるのかもしれない


「いつか帰ってこい、由魅子。」

怠惰な鬼は酒を喰らい口元を拭った。


                完

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浄化の世周り〜鬼どもの宴〜 アリエッティ @56513

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