第20話 学校の彼とアイスを食べる

 いつものように彼とメッセージでやり取りをすると、今日は家に取りに行くとのことだったので、先に学校を出て帰り道を歩き進む。

 少しの間進むと、いつの日か彼と訪れたアイス屋さんが視界に入った。アイス屋さんの前には看板が立っていた目立つように彩られていたので、つい目を惹かれる。


『期間限定!!』


 俗ではあるかもしれないけれど、期間限定というのはとても魅力的だ。逃したらもう二度と食べられなくなるかもしれないし、ぜひ食べてみたい。ただ……やっぱり一人で入るのは少し躊躇われる。そこで、ふと思いついた。


----彼を誘おう。


 ちょうど今、彼は私の後ろで私のことを追って来ているはずだし、少し待てば合流出来ると思う。一度は一緒に行ったのだから別にアイスが嫌いということは無いはず。それに、「一緒に行ってやるよ」とも言っていたし。


 あの時のことを思い出して、またほんのりと嬉しくなりながら彼のことを待つことにした。

 

「何してんの、お前」


 少し待つとどこか戸惑うように声をかけられた。読んでいた本を閉じ、顔を上げると、目を丸くして驚く彼の姿があった。


「あなたを待っていたんです」


「は?」


「期間限定のアイスが今日までみたいなんです。一緒に来てください」


「なんで俺が……」


 渋るように、その場からまったく動こうとしない。あれ?前に一緒に行ってくれるって言ったはずなのに。


「前に誰も一緒に行く人がいない時は一緒に行ってやるって言ってくれましたよね?」


「確かに言ったけど……。なんで1人で行かないんだ?」


「1人は……緊張してしまいます……」


 慣れていないのは事実だけれど、それを他人に打ち明けるのはやはり少し恥ずかしい。思わず目を伏せると、可笑しそうに彼は笑い始めた。


「なに笑ってるんですか?」


「いーや、なんでもないよ。じゃあ行こうぜ」


 そう言って誤魔化すようにスタスタと店内へと入っていく。なんでもないと言うけれど、それなら笑うはずがない。大方私がアイス屋さんに入るのに緊張しているのがおかしかったのだろう。あるいは、そこまでしてアイスを食べたいという必死さか。


 どちらにしても好意的な意味ではないのでついムッとして「絶対馬鹿にされている気がします」と文句を背中にぶつけた。


 店内に入ると、まずは空いている席を取ることにした。誘ったのは私だし、前回は彼に任せっきりなので今回は自分がやるとしよう。


「今回は私が注文してきます。あなたは何がいいですか?」


「お、ありがとな。じゃあ、抹茶で」


「分かりました」


 前回、彼が注文するところは遠目に見ていたのである程度の流れは分かる。自信を持ってレジへと向かった。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」


「はい、えっと……抹茶のシングルとこの期間限定のパンプキン味とさつまいも味のダブルを一つずつお願いします」


「かしこまりました」


 よしよし。多少、戸惑ったけど順調に注文出来た。あとはお金を払うだけ……。その時だった。


「トッピングはいかがしますか?」


「え!?と、トッピング!?ど、どうしましょう……」


 な、なに、トッピングって!?そんなのあるの?急な提案に焦りが止まらない。そんなの聞いていないし、もっと事前に教えてほしい。変な声まで出てしまったじゃないか。


 店員さんの説明だとクッキーとか果物とかそういうのをのせてくれるらしい。彼は特に何も言っていなかったし、私はパンプキン味でそこまで合いそうなものがなかったので、今回はスルーすることにした。でも、次回は絶対頼みたい。


 しどろもどろになりながらも、なんとか注文を終えることができ、ほっと胸を撫で下ろした。


「△△番の方ー」


 少し待つと私たちの番号を呼ばれ、アイスを取りに行く。店員からアイスを両手で受け取った。


(わ、わぁ)


 アイスが落ちないように歩くのがなかなか難しい。アイスが2段になって乗っているので歩くのに気を使ってしまう。真剣に運んでいると「ふっ」と笑う声が隣から漏れ聞こえた。隣を見ると彼が肩をぷるぷると震わせていた。


「なんですか?」


「な、なんでもないから気にすんな」


 なぜ笑われているのだろう。笑われる理由が分からず、首を傾げるしかなかった。


 ゆっくりと丁寧に運び、空けていた椅子に彼が座ったので、その隣に腰掛ける。やっと運び終えたことに一息つくと、改めてアイスを眺めた。


 うん、とても美味しそう。ふふふ、期間限定なんて楽しみ。前食べた時も美味しかったし今回もきっととても美味しいはず。期待につい口元が緩んでしまう。


「じゃあ、食べるか」


「はい、いただきます」


 食事の挨拶を言って、こぼさないように慎重な手つきで一口すくって口に運ぶ。


 ん!?


 お、美味しい!かぼちゃの風味がふわりと口の中一杯に広がっていく。ほのかに甘いけれどかぼちゃの味ははっきりと残っていて甘みが邪魔をしない。


 はぁ、幸せ。美味しくて止められない。気付けば何度もスプーンですくって頬張ってしまう。


 何度も味わって幸せを噛み締めていると、彼が興味深そうに私のこと見つめているのに気付いた。


「……?なんですか?」


「随分美味しそうに食べるんだなと思って」


「勿論です。だって美味しいですから」


 何を言っているんだ。こんなの食べたら笑みが溢れ出てしまうのは仕方ない。こんなの緩まない方がおかしい。それにこんなに美味しく思えるのは……もしかしたら、仲の良い彼と一緒に食べているからかもしれない。


 私の言葉に彼は「……そうか」と言って顔を逸らした。


♦︎♦︎♦︎


新作を投稿しました。


初恋リベンジ〜ハイスペック陽キャになって青春を謳歌するはずが別れた幼馴染と再会した〜


ぜひ読んでみてください(*・ω・)*_ _)ペコリ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼が無自覚に私のことを口説いてきてて困る 午前の緑茶 @tontontontonton

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ