宝探し
アヤメ
第1話
どこで生まれたか定かでないほど、彼女はひとり暗闇を歩んでいた。その暗闇の意味も知らず、光の存在も知らず、暗闇を来る日も来る日も歩いていた。どこかに何か素晴らしいものがあるかも知らずに、でもそんな存在はあるらしいと、どこかで信じながら。
彼女は暗闇から這い上がり、薄暗い世界にたどり着いた。
その世界は少しだけ光が届く世界だった。彼女はその世界が好きだった。
目に見えることのひとつひとつが愛しくて、感動的で、素晴らしい世界だと思っていた。見えることのすばらしさを日々楽しみ喜んでいた。
光に照らされた彼女は、暗闇を歩んでいたことを胸に秘めて、薄暗い世界の住人として生きることを決めていた。そうなることがきっと幸せなのだと、遠い昔、暗闇よりも前にいた世界でそんな子守唄を聞いていた気がしたから。
その薄暗い世界で彼女はある日突然、地図をつきつけられた。
問答無用とばかりに、その地図は彼女の胸に刻みつけられ刻印となり、捨てることすらできなくなってしまった。
どうやら、その地図は財宝の在りかを示す地図であるらしい。
彼女は困惑した。そんなもの欲しくなかったからだ。薄暗い世界でうまくやっていることが彼女にとっては最高の幸せであると信じ込んでいたからだ。
地図の読み方すら知らないのに、独学を重ね地図を読み東奔西走し財宝を探した。
彷徨った西のかなたで、グングニルが渡された。
聖剣伝説はいつも女の子の話題の中心だったから、そのグングニルが渡されたとき、にわかに信じられない気持ちだった。自分が使い手になれるなど思ってもいなかったからだ。
そのグングニルは彼女の精神を破壊していった。手に負えないと彼女は信じていたからだ。
グングニルは何よりも強く美しく気高く、自分が持つには高価で尊すぎると感じたからだ。
しかしグングニルは彼女の手を離れようとしなかった。手に吸い付き続けた。
何度も捨てた、壊した、違うグングニルを手にしたこともあった。
それでもそのグングニルは彼女の手を離れなかった。
時同じくして、彼女はいよいよ財宝とは何なのかと考え始めた。
今まではやみくもに与えられた地図を追っていたけれど、財宝とは何かを知りたがった。
彼女が寝ていると、グングニルは時々形を変えていた。夢の中でグングニルは鍵に形を変えて彼女の心を開けようとした。
何度も何度もそんな夢を見て、夜を越えて、彼女は、地図をたよりに東の果てにたどり着いた。
東の地平線から昇る太陽はオレンジの光で、さながら夕日のようだった。
「終わりの色とはじまりの色が同じだなんて」
彼女は地図を急いで見直した。
地図が示す財宝の在りかは、確かにグングニルの左側だ。東でも西でもなく、左側だった。
彼女は気づいた。
彼女は心を決めて、その東の街をグングニルと共に歩いてみた。
怖かったけれど、ひとりぼっちだったけれど、グングニルと共に歩いて見た。
敵がいないことに気づいた。
正確に言えば、グングニルがシールドを張り、彼女の視界から敵を見えなくしたのだ。
そしてそのグングニルの勇ましさ、力強さを彼女は素直に受け入れると、グングニルはあの夢で見た鍵の姿に変容していた。
カチャ
小さな音がした。
彼女の心から有り余る恐怖が逃げていった。
彼女の心からみずみずしい力が放出されていった。
みずみずしい力は世界をつつんだ。
彼女の目に命が灯った。
世界の色は、濃淡は、明暗は、もはや彼女を悩ませることはなかった。
世界の色彩は彼女の手中にすべてあったからだ。
財宝は彼女が持っていた100色の絵の具だった。
財宝は彼女の心にあり、その財宝を誰よりも欲しがったのは鍵だった。
鍵はそのために勇ましいグングニルとして彼女の前に現れた。
本当は鍵のままで彼女の前にあらわれたかった。
でも、鍵は彼女の心の暗闇を知って自分をグングニルに変えた。
そして地図に示された財宝の位置。
それはグングニルの左側。
大鐘楼の鳴り踊るその日、彼女は永遠にグングニルの左側を約束した。
それは地図が示した、唯一絶対のはじまりから終わりまで変わることのないこの世の理だった。
宝探し アヤメ @YanaiMegumi
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