幸せになりたい悪役令嬢はヒロインを攻略する

菜花

悪役令嬢改めヒロインの親友オレリア

 私は剣と魔法の世界の伯爵令嬢、オレリア・アンペール。この間十五歳になったばかり。

 でも、正確にはオレリア・アンペール「だった」 人間だ。

 ある日、真昼の庭で寛いでいたら急に蜂が飛んできたので顔を守って慌てふためいているうちに転んで頭を打って……前世の記憶が蘇った。

 

 「私」 は日本にいるごく普通の女子高生だった。ただちょっとばかりインドア派で、評判の乙女ゲームがあれば発売日に買って徹夜でプレイする程度のゲーマーだった。

 あの日も話題の新作ゲームをプレイして寝ぼけた頭で家を出て……居眠り運転のトラックに轢かれて死んだ。覚えている記憶では死んだのは私一人だけだったと思うから、ちゃんと注意してれば防げた事故だったんだろうな。運転手さんに悪いことをした。

 唯一の心残りは親孝行せずに死んだこと。直前までプレイしてたゲーム? 全クリ済みですがなにか。

 いやー今にして思うと前の人生で最高のゲームだった。


『幸せを、貴方に』


 少し古風なタイトルのこのゲーム。声もスチルも内容も、プレイしててサクサク進む感も最高だった。

 そこは地球ではない異世界。月が二つあったり、大地が丸じゃなくて平面だったり、魔法の呪文がゲームオリジナルだったりと世界観に特徴があった。そしてそれは今の私がいる世界とまるっきり同じで……。

 ゲームは貴族ばかりが通う学園に精霊の加護を受けた庶民の主人公が入学するところから話が始まる。

 貴族でも精霊の加護なんて持たない人間がほとんどなのに庶民の分際で生意気な、と各ルートで嫌味を言ってくるキャラがいて、それが今の私。

 そう、メインヒーローの第一王子シャルルの婚約者。いわゆる悪役令嬢だ。

 自分より庶民のほうが頭も良くて魔力も豊富と聞いて原作オレリアは苛め抜いた。


「この学園の生徒なのにこんなことも知らないの」

「ここにいると農民臭くてかなわないわ。あらどうしたの? 自分のこと言われてると思ったの? 自意識過剰ね」

「このくらいで泣かないでくださる? 嫌だわ。私が悪者みたい」


 いやホントいるよねこんなお局キャラって感じの台詞言いまくってたな。そして台詞だけでなくて行動でもヒロインに間違った指示を与えて、彼女が他の人から文句を言われてるのを陰で笑ってたりしていたという。プレイ中は身分差の表現にしても何だこいつって思って仕方なかった。いや今の私なんですけどね。

 そしてシャルルのルートでなくても庶民が貴族の男をゲットなんて汚らわしい、と文句を言いに来るのだ。

 結果、どのルートでもオレリアを待ち受けるのは悲惨な結末のみ。


 メインヒーローであるシャルルのルートでは顕著で、散々罪もない主人公を苛めたオレリアをシャルルは許さず、主人公をなんのかんのと理由をつけて一時軟禁し、その間にオレリアを処刑したのだ。主人公が「最近オレリアさんを見ませんね」 と言うと「本当だね。君が王妃になったのがよほど悔しかったのかな」 と嘯いていた。

 ……のちにスラム街でバラバラ死体が発見され、事件性が高いと検屍に持ち込まれた。腕も足も両方切り落とされ、顔は薬品で溶かされているから身元は特定できなかった。そして検屍の結果、両手両足を失った時は生きていた。おそらく顔を溶かされた時のショック死だろうと推定された。ゲーム中ではその死体がオレリアだとは断定してないけれど、オレリアによく似た背格好の金髪碧眼とは出ていた。あ……(察し。


 メインヒーローさあ。

 徹夜明けの頭にはこんな話でも「まあ私(プレイヤーキャラ)のためにそこまで(ウットリ)」 ってなった自分の馬鹿さ加減に笑えてくる。

 その狂気が自分に向けられるのだ。正直気が狂いそう。


 他のルートだってメインよりはマシだけど追放とか修道院送りとかろくなものじゃない。


 なんで? なるなら主人公じゃないの? 私何かした? いやまあ学生の分際でゲームに夢中になって、とか言われたらそうかもだけど。

 嫌だ嫌だ死にたくないし酷い目に合いたくもない。今日から心を入れ替える!


 そうは思ったけれど遅すぎたらしい。


 まずは使用人を苛めない。当たり前だけど。そして感謝の心を示す。最初のうちは驚かれるかもだけど。


 けれどオレリアの暴君ぶりは凄まじかった。

 貴族の娘に仕えることになって緊張した侍女が粗相をすると、ブチ切れて熱々のお茶を顔にぶっかけたりしてたくらい。今は何でそんなことが出来たんだと思うけど、当時の自分の記憶も残ってる。貴族じゃないなら人間じゃないから何しても良いの。本気でそう考えていた。

 だから態度を改めてはみたものの、何もしないだけでガタガタと怯えられ、お礼を言うと新しい死刑宣告かと必死で謝られた。

 侍女だけがこうならまだ救いがあった。

 オレリアの家庭環境は地球の日本基準で言ったら良くないものだった。

 両親は政略結婚でお互い好きな人がいたのに無理矢理別れさせられて結ばれた。

 子供が生まれたら義理は果たしたと言わんばかりに二人は昔の恋人の家に入り浸っている。子供は乳母に任せて年に数回会うだけ。

 オレリア、ゲームプレイ中は何であんな暴君なんだろうと思ったけど、ずっと寂しかったのかなと思わせられた。かといって苛めは許されないことだし、殺されるのはいくらなんでも可哀想。というか死にたくない。


 ……ゲーム開始までもう数か月もない。侍女達の信用を取り戻すのは無理そうだし、婚約破棄も不可能に近い。

 なら、私が幸せになるためにすることは……。


 ……ヒロインを落とせばいいんじゃね?



 学園入学式。婚約者のシャルルが壇上で挨拶している。それをうっとりと見つめているオレンジがかったピンクの髪の可愛い女の子。

 ゲームの主人公、ノエル・バシェ。

 田舎では見たこともない美しい建物に美しい美少年。うっとりするのも無理ないか。見たところヒロインも異世界人ってこともなさそうだし……。

 私は意を決して放課後、ノエルのもとに行く。早く学園に慣れようとどこに何が有るか見て回ってるのはさすがにヒロインというところか。ちょうど誰も居ないし……よし!


「御機嫌よう。貴方がノエル・バシェね?」

 話しかけられたノエルは驚いていた。見るからに貴族の中でも上位だろうと思われる人間が訪ねて来たのだから。

「は、はい。私がノエルですが……貴方様は?」

「私はオレリア・アンペール。ここの生徒会長も務めている第一王子、シャルルの婚約者ですわ」

 それを聞いたノエルはいよいよ萎縮した。無理もない。いきなり雲の上の人が来たんだものね。けど引いてもらっては困る。

「え、ええと、あの、私、何か粗相をしてしまったでしょうか……」

「そんなことないわ。私、貴方にお願いがあって来ましたの」

 ここが正念場だ。権力使ってお願いする手も考えたけど原作通りの主人公ならむしろ悪手。だから素直に言うことにした。

「ノエル。貴方……私とお友達になってくださらない?」


 主人公はポカーンとしていた。ですよね。自分でも何言ってんだと思ってる。

 でもこれが最善なんだ。このゲーム、比喩でも何でもなく主人公が中心になって世界が回ってる(平面大地だけど)。

 それなら主人公と仲良くなればゲームの強制力なんてのがあっても無効化されるんじゃない? と足りない頭で考えたのだ。

 頼む。いいよと言って。そうでなければ私は終わる。

 ちらりとノエルを見ると、彼女は嫌そうではなかったがただただ困惑していた。


「あの、理由を伺ってもよろしいでしょうか。オレリア様のような方が私となんてその、現実感がなくて」

 ふっと悲し気に目を伏せて答える。唸れ私の演技力。

「こういうことを言うと怒られるかもしれないけれど、私、貴族社会が好きではないのです」

「え……」

「私のいるべき場所はここではない、ずっとそう感じて生きてきました」

 これは本当。原作オレリアは誰からも愛されない(自業自得でもあるけど) 鬱屈を抱えながら生きていた。貴族でなければ普通に幸せだったんじゃないだろうか。

「もっとを広い世界を見たい。知りたい。けれど普通に生きていたらそれは叶わない願いでした。けれど、貴方が来た」

 ノエルをじっと見る。

「貴方の知っていることを私に教えてほしいのです。そうしたら私、変われそうな気がするから」

 破滅エンドからな。


 ノエルは話を聞くと、にこっと笑って言った。

「そんな、私なんかでよければ……ううん。友達になるから対等だから、これから私が話しやすいように話すね。オレリア、じゃあ早速だけど、この後遊びに行かない? 私ね、学校帰りの寄り道に憧れてたの!」


 心の中でコロンビアポーズを取った。やったぜ。フラグは一つ折れた気がする。


 

 友達になることには成功した。あとはゲームの攻略キャラと接触させないことに気をつけないと。


 周りは一流の貴族令嬢とぽっと出平民少女が友人になったことにぎょっとしてたけど、三日も経てば慣れたらしい。親切のつもりで「お友達はよく選びませんと」 と言ってくる令嬢(ゲームでは取り巻きだった) も居たけど余計なお世話ですっての。

 友達になったんだから相手の行動に口を挟むのは容易だった。


 まずシャルルルート。


『幸せを、貴方に』 は三年間ひたすらパラメーターをあげて攻略キャラを惚れさせるゲームだ。メインヒーローのシャルルは入学してひと月後にはイベントが発生する。

 ホームシックになったヒロインが緑の匂いのするほうに歩いていくと、そこは王子管轄の庭園だった。シャルルは無断で入ってきた主人公を咎めるけれど、平民出身と聞いてまあ一度の失敗は仕方ないと大目に見てくれた。何より、ノエルの目元が濡れていたのに気づいたから。彼女の故郷にだけ咲く花を一輪渡して終了するロマンチックなイベント。


「ノエル、そちらは王子の個人的な庭園ですわよ」

「あ、そうなんだ……。入ったら、駄目だよね。故郷の植物とかあるかなって思ったけど」

「あら。それなら私から王子に言って貰ってくるわ」

「え、でもいいの?」

「花一輪くらいなら簡単よ。それに、友達が落ち込んでるの見たら何かせずにいられないもの」

「オレリア……ありがとう」


 ノエルはシャルルには会わずに終わった。これでメインヒーローフラグも折れただろう。

 なお私ことオレリアはシャルルに「花を貰いたいのですが」 と言ったら「貴方にも花を愛でる心があったのですね。どちらかというと花荒らしがお好きそうなのに」 と嫌味を言われた。正確には私が憑依する前のオレリアのことを言っているのだろうけど、仮にも婚約者だろお前。そりゃ今までの評判聞いたらまあ……まあ、そう言いたくもなるか。けどここ数週間は問題起こさず地味に堅実にやってきたじゃん。ほんの少しでもいいから考え直してよ! 一応未来の伴侶相手によくそこまで突き放した態度取れるな。家庭環境最悪で婚約者からも雑な扱いでそりゃグレるわ。何となく人格を乗っ取ったことに罪悪感はあったけど、せめてこの身体が酷い目に合わないようにするくらいは……と半分義務感のようなものがある。



 『幸せを、貴方に』 はヒロインが中心のゲームである。

 何故そう言い切るかというと、ヒロインが選ばなかった攻略キャラは全員不幸になるから。

 シャルルはいわずもがな、オレリアの婚約者をしていたことがトラウマになり重度の女性不信に。王族でありながら結婚の話を全て蹴ってしまう。一生独身を貫くが、よりにもよって王族で王位継承者がそんなことをすれば批判も出てしまう。具体的には「あいつ不能じゃないの?」 とか。矢面に立つ立場だからそういうことを一生言われる訳で……。不幸ではないかもしれないが幸福であるとも言えない人生を送ることに。

 知的眼鏡なアドリアンというキャラは、ヒロインが選べば無事に国の宰相にまで上り詰めるが、それは優しいヒロインが献身的にアドリアンに尽くした結果である。選ばなかったら元々気が弱くて本番に失敗しがちなアドリアンは、何をやっても成功しなくてみるみるうちに落ちぶれて……最終的には酒場で卒中おこして死ぬらしい。

 ナンパキャラのベルナールは、ヒロインが選べばついに理想の女性に会えたとヒロイン一途になるのだが、選ばなかったら女性関係で修羅場になり、相手に刺されて死亡する。

 騎士然としたクロードというキャラは、エンディング後戦場に行くことになるのだが、ヒロインがお守りにペンダントを持たせていたことで魔法の矢から守られ生還する。選ばれなかったらそのまま死亡。

 あとは年下キャラのセドリック。最初からヒロインにべた惚れの可愛いキャラだ。この子だけは安全圏なキャラだと思ったファンも多かったのだが、エピローグでとんでもない事実が発覚した。

 実はヒロインのノエルは幼い頃に弟が行方不明になっていた。家族が貴族の避暑地で、そこで弟と二人で過ごしていた時、弟と同い年の子を亡くした女性が弟を見て魔が差し、ノエルの目が離れた隙に誘拐したのだ。その時の弟は三歳でノエルは四歳。両親は急がしくて二人だけで遊ばせていた。

 なんでこのエピソードが出て来たのかっていうと、エピローグがセドリックの母(実は誘拐した女性) 視点で、あの時一緒にいた姉はセドリックと身体の同じ場所に花模様の痣があったことを覚えていた。婚約の挨拶に訪れたノエルにその痣があったのを彼女は見てしまう。

「私達同じところに痣があるんです。本当に運命的ですよね」

 お前ら実の姉弟やんけ! とも言えないセドリックの母。だって言ったら昔の自分の悪事も話さないといけなくなるもんね。

 だから一言。そうね、と力なく言う未来の義母の言葉でそのイベントは終わり。


 おい開発者何考えてるんだ。

 ちなみに例に漏れずヒロインが選ばないとセドリックも不幸になる。どうしてか分からないがヒロインが恋しくて恋しくて他の女に興味が持てないのだそうで。

 一説によると人間という生き物は同じ共同体で過ごした人間には性的魅力を感じなくなるらしい。そうやって近親相姦を回避しているのだそうだ。だが逆に近親が幼い時に離れ離れになり成長後に再会すると逆転現象が起こる場合があるという。近親故に共通点が多く、それがかえって伴侶に迎える相手として相応しいと思えてしまうらしい。つまりセドリックは……。


 ノエルを攻略キャラに近づける気はないが、特にセドリックはない。うん。


 ともかく、テンポの良さと声と絵もさることながら、このヒロインが選んだ者だけが幸せになるのよという選んでやった感はその筋の人達の性癖に大いに刺さった。かくいう自分もその一人だ。


 ……ノエルには誰か一人を選ばせるべきかもしれない。

 けどそうしたら私は破滅するかもしれない。

 でも選ばせないということは数多の男キャラが不幸になるのを黙って見ているということ。前世であんなにキャーキャー言ってたキャラ達を見捨てる。

 我が身可愛さとはいえ醜悪だろうか。


「オレリア、新しくできたあの店に行こうよ」


 そう言って笑いかけてくるノエル。ふと、前世の自分を思い出した。

 陰キャで友達なんかいなかった。それどころか持ち物に落書きされたり隠されたりで苛められていた。身分も何もない環境だったのに。

 ノエルは庶民が貴族の令嬢と、という周りの冷たい視線も気にせず、私を誘ってくれる。問題が解けなくて困っていたら教えてくれる。美味しいものを半分こしようって言ってくれる。私が黙っているとつまらなくならないようにとぽんぽん喋ってくれる。


 初めて出来た友達だった。

 周りは釣り合わないって思ってるけど、本当に釣り合っていないのは自分のほうだと思う。

 でも、それでも。

 ノエルの手を離したくない。

 

 そして三年後。

 ゲームではどのルートでも卒業パーティーで盛大な婚約破棄が起こるけれど、ヒロイン苛めてないしシャルルとの関係は良好だし。

 ノエルは魔法の研究成果が認められて王立魔法科学研究所に就職が決まっているらしい。私はこのままならシャルルと結婚して無難な王妃になると思う。愛情はないのかって? だってシャルルってブチ切れると怖いとこあるし結婚しても距離置きたい。浮気とかはしないからさ。王妃として優秀かと言われてたら微妙だけど……でもまあ型通りのことなら出来るし。それに王妃が優秀な研究員と会うのは問題ないし。私、まあまあ理想の社会人になれそうじゃない?

 と油断していたら思わぬ方向から被弾した。


「オレリア、未来の王妃という立場を弁えずに平民と毎日遊び歩いていたそうだな。貴様は婚約者に相応しくない!」


 ……はい??? 意味分からないんだけど。もしかしなくてもゲームの強制力なんだろうか。

 ノエルが抗議しようとしてぐっとこらえている。下手に何か言ったら私の立場がますます悪くなると思っているのだろう。

 シャルルの後ろでは困った顔をしながらも口元はほくそ笑んでいる令嬢がいた。見たことある。三年生になってからシャルルの周りをうろうろしていた貴族の子。一国の王ともなれば愛人を作るのも仕事のうちだし、そもそもシャルルって地雷物件なとこあるのによくやるよと思って放置していた。ノエルはこのことを心配してたけど「あれも貴族の嗜みの一つですから」 と言ったら心配そうな顔をして黙ったっけ。そのせいで見くびられられたのかもしれない。あの子、邪魔な私を蹴落として自分が王妃になるつもりか。


「分かりました。お好きになさいませ」

「なっ、開き直るかこの浪費家が……」

「言っておきますけれど、ノエルと出かけた時に使った費用は国庫から出したことはありません。全て私の個人的なものです」

「どうだか。どちらにせよお前は貴族に向いていない。ここを去れ」

「そうさせて頂きます。では御機嫌よう」


 カーテシーを一つ、優雅に決める。去る際にノエルの手を取って一緒に出る。学園の外に出た時にノエルはボロボロと泣いた。


「ひ、酷い……。買い食いだって週一くらいだし、出かける場所も図書館とか日用品の雑貨屋なのに。高いものなんて買ってないし、あんな一方的に……」

「私のせいで貴方まで、ごめんなさいね」

「そんな! オレリアは悪くないよ! それよりごめんねオレリア。私今まで完璧な令嬢のオレリアが貴族に向いてないっていうのがずっと疑問だったけれど、今日ので納得した。確かに嫌だよね、こんな社会……」

 嘘からでた真。今になってぞっとする。いや、それよりも今はこれから先どうするか……。


「今頃、家族に伝わってるかしらね。勘当しかなさそうだわ」

 実子に何の興味も無さそうだった両親。月に一度顔を合わせるか合わせないかの関係だったら追い出すのにも躊躇はないだろう。

「オレリア……あの、私の故郷に来ない? 貴方一人くらいなら養えると思うの。貴族の避暑地だから、知り合いと顔を合わせることはあるかもしれないけど」

「……いいの?」

 というか巻き添えで貴方の就職話も潰れてるような気がするんだけれど。

「もちろん! ずっとつらい思いをしていたオレリアに、貴方に、幸せをあげるんだから!」


 カチリ、と音がしたような気がした。

 ――思い出した、ゲームがエンディングに入る時の独特な音だ。

 

 そうだ、エンディング前にヒロインがタイトルをもじった台詞を言うのがお決まりだった。ということは無事ヒロイン友情エンドになれたんだろうか。

 けれどこれ実質追放エンド……いや、着の身着のままあてもなく他国に飛ばされるより万倍もマシか。


「オレリア、ほら早く」

「待って。そんなに強く引っ張らないで」

「だって早くこんなところから出ていきたいんだもん。あの人達酷いよね。人を簡単に陥れる人なんて全員不幸になればいいのよ!」


 ノエル、ごめんね。本当は貴方の幸せを邪魔していたし、追放したあの人達は全員不幸になるって分かってるの。それを教えたら優しい貴方は何とかして止めようとするのだろう。でも私が貴方と一緒に居たいから絶対に教えない。


 ゲーム後がどうなるか分からないけど、この仮面は一生被っているから、貴方の良い友人でいさせてね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幸せになりたい悪役令嬢はヒロインを攻略する 菜花 @rikuto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ