第三話 俺たちの名を呼ぶな

 ちゃちゃちゃちゃー

 ちゃちゃちゃちゃー

 ちゃららららーん


 秘密戦隊カクレンジャーのカク・レッドは、世界征服を企む悪の秘密結社『クリムゾン・ヘル』――その最高幹部である『世界最恐・最悪の三つ子』斎兄弟と対峙していた。


「くっ、やっと現れたな斎兄弟」

 三人並んだうちの右側の男が小さく笑いながら言った。

「くっくっくっ、我が名は運国斎。お初にお目にかかる」

 三人並んだうちの中央の男が微笑みながら言った。 

「ふっふっふ、儂の名は陳国斎。初の邂逅だな」

 三人並んだうちの左側の男がほくそ笑みながら言った。 

「ほっほっほ、儂の名は萬国斎。御目文字叶って光栄だ」

 最悪の相手を前に、カク・レッドは冷や汗を流しながら――その、なんだ、流すはずの場面であるにもかかわらず、どちらかというと微妙な空気を感じながら、言った。

「あの、その、右端のあんた」

「なんだ」

「その、名前なんだけどよ。その、『うん』」


「俺たちの名を気安く呼ぶなあああああああああ!!」


「はあ?」

「だから、俺たちの名を気安く呼ぶなと言っているのだ!」

「は? だってさっき自分たちが名乗ってたじゃん、『うん』」

「だーかーらー、俺たちの名を呼ぶなって言ってるじゃん! 日本語わかんないの? 『運国斎』とテキストを一体として認識したらいいじゃん。わざわざ口に出して読まなくてもいいじゃん。なに、嫌がらせかなんかなの?」

「そうだよ、俺達がこの名前を呼ばれるたびにどれだけの苦渋を味わってきたのか、お前には……お前なんかには……」

 左端の男が泣き始めたので、中央の男がそれを宥める。

「兄さん、大丈夫だよ。俺達がいるじゃないか」

 右端にいた男も駆け寄る。

「そうだ、俺たちはいつも一緒じゃないか、弟よ」

「有難う、兄者。俺、頑張るよ」

 そうして、絆を確かめ合った三人は、再び横に並んでカク・レッドと対峙した。

「さあ、かかってくるのだ、カク・レッド!」


「あの……」


 カク・レッドは戸惑いの声をあげた。

「……あんた、どれだっけ?」

 いったん密集したせいで、誰が誰だか分からなくなったのである。

「どれ、とは失敬な。我が名は運国斎」

「我が名は陳国斎」

「我が名は萬国斎」

「その――『まん』」


「だから、俺たちの名を音声で呼ぶなあああああああああ! テキストで認識しろって言ってんじゃん!!」


 史上最恐・最悪の三兄弟を相手にどうやって戦うんだ、カク・レッド!

 世界の平和は君の方にかかっているぞ!

 一人しか隊員いないのに秘密戦隊カクレンジャーのカク・レッド!

 頑張れ、われらのカク・レッド!


 ちゃちゃちゃちゃー

 ちゃちゃちゃちゃー

 ちゃららららーん 


「と、言われてもなあ……」


( 終わり )

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トロイの回転木馬 阿井上夫 @Aiueo

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