第12話 青年の絶望と恐れ

 俺は乱れた荷物もそこそこに電車で震えていた。悪事がバレてしまったこともある。

 しかし、俺はあの話が本当ならとんでもない事を知ったことになる。


 

 母方の叔父は古書店を経営していた。

 酔っ払うと「俺は若い頃、本を四冊も出したんだ。一時はペンネーム二つ使ってまで活動してたんだぞ」とよく話していた。酔うと俺や母に絡む叔父は嫌いで軽蔑していたし、虚勢を張ったホラ話と信じていなかった。

 その叔父は数年前に震災で亡くなった。震度五弱の地震で店内の本が崩れて圧死したのであった。

 いや、圧死ではあったが、不審な点があった。確かに震度は強かったが、本の転落防止処置のベルトが全部切れており、しかも体中の痣が本の落下痕というより投げつけられたような強い衝撃痕、手の形に酷似したものもあった。検死した警察も首を傾げていたがベルトはちぎれたものであり、震度五弱でも本は崩れる恐れは充分にあること、本に埋もれたのは叔父だけであり、他人がいた痕跡は無かったので震災死と認定された。

 母と遺品整理していたら「藤井五月」のサイン入りの本がいくつか出てきた。サインの筆跡は叔父のものだった。

 二巻までと三巻四巻の出版社が違うことを不思議に思ったが、母も事情は知らなかったようだ。俺と同じように「ホラ話では無かった」と驚いていたくらいだ。

 そして、先程の女性の話はことごとく一致する。ペンネームも同じ「藤井五月」だ。叔父は作家だった。同時に沢山の嫌がらせをして恨まれていたこともわかった。

 女性の話からして叔父の死は恐らく。創作を諦めざるを得なかった者達が生霊となり、リンチした後にとどめに本を大量に投げつけたのだ。それでこれまでの謎が解けた。

 創作を止めよう、叔父のような死に方はしたくない。電車の中で俺は一心不乱に退会手続をし、仲間にクラスタ解散を告げるのであった。


 ~完~



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Web小説の闇 達見ゆう @tatsumi-12

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