隠し事

すんず

隠し事

ねぇ、話したい事なんてたくさんあるの。間があいてしまうほどどんどん増えて、薄れて、こぼれ落ちてしまうのがもったいないとは思わない。


今日の君はとても楽しそうね。少し久しぶりにとる一緒の食事は、敷居の高くないイタリアンにして正解だったかな。2人で注文したのは、サラダ、パスタ、ピザ、デザートを各一品とドリンクが2つ。そのどれもを私達は、

「半分こしよう」

そう言って分け合って食べる。

サラダ、頼んだんだからちゃんと食べなよ。あぁほら、ソースが跳ねるじゃん。取り分けるからかして。ピザのカットは性格が出るね。幸せそうに頬張る君を見ていると、食事の味なんてすっ飛びそうなのにとても美味しく思えるの。


そんなに見つめてどうかしたの。君の視線は、私を身動きできなくさせる。

「あのさ、私子供できたんだ。」

頭が真っ白になり、わずかの間沈黙する。

「うん、上手く…いってるよ。それでね!結婚、しようって言われたんだ!私…嬉しくて。覚悟決めちゃったよ。」

畳み掛ける様に話す君が、不安でいっぱいなのはお見通しだけどね。

「あ、そうそう。今それ話そうとしてたの。入籍は来月しようって話なんだー。式は…あげられないかな。これから子供産まれたらお金足りなくなるばっかりだろうしね。」

いつかはこの日が来ると覚悟していたはずなのに、喜ばしい気持ちと同時に怒りにも似た激しい感情が湧いてくる。君の事なら誰よりわかっている。誰よりも寄り添う自信も、どんな手を使っても守る自信だってあるのに。私では昔の様に、ずっと君の隣には居られない。私もまだまだ子供だね。

「どうしたの。なんだか浮かない顔してるよ。」

君は私に対して変に鋭い。

「好きな人でもできたとか!」

目の前にいるじゃない。ずっと。

「えーでも、あんまり恋バナとか聞かないよね。彼氏とか作らないの。その気になったら引く手あまただと思うんだけどな…」

男なんかに君の代わりがつとまると思うの。そもそもそんなものは要らない。

「またそんな事言ってー…私も心配してるんだよ。女1人生きていくには、なんだかんだと世知辛い世の中だからねぇ。」

私の心配してないで、自分のこれからの不安解消に徹しなさいだなんて言えない。この優しさが私には、嬉しくて突き刺さる。

「とか言って…実はこうやってかまってくれてるのがすごい嬉しかったりする。彼氏できたら女友達はだんだん離れたりするもんね…。」

よくその口で言えたものね。君は時々、本当に天然なのか、私を見透かした上で的確にわがままを通すのかわからなくなる。

「ずっと、友達でいてくれるかな。」

当たり前よ。

「うん。結婚しても、子供産んでも。私に大事なものが増えても、ずっと私を大事にしてくれる友達なんてきっと他にいないね。いつもありがとう。」

私はいつも、君の前で仮面を外す事はできないまま。こうやってドラマの話をしていても、新しく発売された化粧品のレビューを語り合っても、隣町のカフェにある人気スイーツを、今度は食べに行こうと約束している時だって、私は一つ一つを大事に愛おしく思う。君が子供を連れ歩く様になっても、旦那で悩んで相談してきても、幸せいっぱいの時も。これからもそれは変わらない。


こんなに思ってくれる友達が今までいた事なんてなかったよ。私が結婚しても、子供を産んでも…きみは本当にずっと変わらないんだろうなあ。そう思うと、どうしても試してしまいたくなるのは私の悪い癖だね。そんなことしなくても、きみが私から離れたりしないのなんてわかっているのにね。

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隠し事 すんず @snz00

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