語らない人
はなのまつり
語らない人
私の中にある「お父さん」の記憶は
あるとすれば、
食卓についたからといって、旨い不味いの言葉もなく、ただ食料としてのそれを
母がいくら語りかけても頷くだけで、心ここにあらずといった様子。
なにも言葉を発さないロボットのような人だと、子供心に感じていた。
私がいくら話かけても返事もくれない。きっと嫌いなのだろう、そう思っていた。
確かに不便な事は多々あった。
けれど母が快活に父のことを色々話してくれるおかげで、私は彼の事をおおよそ知る事ができた。
そんなあるとき、父の訃報を受けとった。
田舎ながら立派な仏壇の前、急すぎる死に、なにを伝えるべきかも分からないまま、私は手を合わせる。
お勝手から、母のすすり泣く声が静かに響く。
母が落ち着いた頃、父の遺品を整理する彼女に伴だって、一度も入る事のなかった彼の部屋に入った。
入って最初に感じた事は「黄ばんでいる」だった。
壁は黄ばみ、掃除も行き届いていないその部屋。
物をどかせばそれを
片付けもある程度進み一段落といったとき、あるブリキの箱が目にとまる。
クッキーの絵で彩られたそれを母が、大事そうに開ける。
そこには子供の頃に撮ったであろう、私の写真が沢山入っていた。
それを手に母は呟く。
「お父さん……。大好きなあの子には会えましたか?」
語らない人 はなのまつり @hanano_matsuri
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