第8話 試 練 ~銃≦ナイフ<<<魔法~
「近接戦闘においては銃よりナイフの方が有利な場合がある。それはよく聞くだろう。
しかし!逆も然りだ!襟着きのボディアーマーで露出部分の少ない装備をしている相手にナイフを使うのは有効か?
明らかに対ナイフ用の武器を用意している相手にナイフで向かうことは有利なのか?
近接戦闘のスキルが自分より高い相手にわざわざナイフで立ち向かうか?
大事なのは状況判断、そして自分に有利な態勢を確立することだ。・・・」
スポーツ、ゲーム、格闘技。様々な勝負事において有利な態勢の確立は勝敗に直結する。自分の苦手な部分を責めさせないこと、自分の有利な攻め方を強要すること。対人戦闘においてもそれは同様である。
しかしながら、どうしようもない場合が存在する。
それは、『圧倒的な戦力差』である。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
「うーん、庄野さんね。あんた、魔法を使わない相手だと強いけどね、魔法相手だとはっきり言って子供以下だね。」
「はぁ、はぁ。」
「あとね、どーらん?だっけ。塗ってもいいけど探知サーチの魔法使ったらどこにいても見つけられるからね。意味無いからね。」
「はぁ、・・・ふぅー。」
「ワシが今使っている防御壁は物理的な攻撃を防ぐ種類の魔法だね。けど、魔力を
「はい。」
「ちなみに、闘技場で勝てたのは相手が戦闘経験の浅い異界人で強い使い魔と狭い場所で戦えたからだからね。だだっ広い平野で勝負してたら、ドラゴン相手じゃ何万回やっても負けるね。運良く勝てたってのを忘れないでね。」
(・・・突然特訓に付き合うって言ってくれたから何かと思ったら、いきなり薄い壁に覆われて『どんな手使っても良いから一時間以内に出てね』って言われて、何とかやってみたが・・・。ナイフでもマチェットでも傷一つつけられなかった。
分かってたことだが魔法が強すぎる。・・・ただ、銃の威力が通用するかどうか試したいが残弾を考慮すると試し撃ちなんて出来ないな。
しょうがない、現状は戦力外か。)
アルフから魔法の力とその戦術について様々な説明を受けた。伊達に年はとっておらず、丁寧な説明は分かりやすいものであった。それは同時に今の庄野の戦闘能力は全く役にたたない、という現実が鮮明になっていった。
(索敵魔法、
俺がこの世界の戦いに参加したところで戦術的な変化をもたらすことは出来ないだろう。)
庄野はアルフの話を聞いて納得をした様子であった。
「ショックを受けてるように見えないし、開き直ってる様子でもないね。」
「戦闘で役に立てないのはサリアン王に散々言われて納得してましたので。でも、俺に出来ることはそれだけじゃないですから。」
「そうかね。ま、頑張ってね。」
「ありがとうございました。」
(・・・。俺が自衛隊で培ったものは白紙になった。
これが現実だ。異世界で簡単にレベルが上がって強くなる世界なんて漫画の中だけだ。それに、自衛官として出来ることは戦うことだけじゃない。出来ることをやる、その為には・・・。)
ちらりと傍らで寂しそうにしているコピードール達に目を向ける。庄野は3匹の頭をわしゃわしゃと撫でた。
(時間は経ったが、こいつらの運用方法がわからないままだ。このままじゃただの可愛いペットで終わってしまう。とりあえず色々試してみたいが・・・何をすれば良いのやら。)
庄野はコピードールを撫でながら空を見上げ今後について考えるが具体的解決策が出てこない。
(・・・先人達が全てを諦めて西の都を出ていった気持ちが何となくわかる気がする。だが、俺は諦めるわけにはいかない。この世界で出来ることを全部やったわけじゃないからな。)
自衛官として最強だった男は異世界では最弱だった。
それでも彼は諦めて全てを投げ出すことは決して無い。何故ならば彼は自衛官だから。
(誰かを殺したり、倒したり、勝ったりする必要はない。生き延びて、退けて、負けなければいいんだ。
まだいける。『士気旺盛』だからな。)
尚、士気については旺盛であります! 固太 陽 @nao_shiki
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