エピローグ
全て思い出した俺は後悔と
次に目覚めたとき、俺は夏休みに入っていた。
当然であるが、クロはもうこの世にいなかった。そして、妹も。
そう、あの終業式の日、俺は双子の妹を失った。
俺と妹は家の前でオレンジ色のトラックにはねられた。二トンの重量の直撃を受けた彼女は上半身を吹き飛ばされ、そのまま五百メートル引き
半身ずれて
母はあまりに
俺は、母に謝辞を述べた。
「ごめんなさい、心配をかけた」
そう言うと母は俺の肩を優しく抱き、
「いいの、生きていてくれただけで本当によかった。本当に」
と言って大粒の涙を流した。
母は、妹は、ずっと心配していた。
忘れもしない、クロがこの世からいなくなった、六月十二日。その日から、俺はみるみる
母と妹は、俺の日々おかしくなる言動に根気強くずっと調子を合わせ、心の傷に触れないよう優しく気を遣ってくれていた。
彼女たちは、ときに俺が俺に向けた呪詛の言葉を書き連ねた日記を隠した。ときに壁中に貼った呪いの言葉を黙って剥がした。
そして、七月二十二日。
妹の死に俺は耐えられなかった。
故に、拒否した。
ループの中で、彼女を妹ではなく幼なじみにしたのは、恐らくそう勘違いしないと脳が矛盾に耐えられなかったからだ。
以上がことの
あれから十二年経った。
俺は二十歳になる年に性転換手術を行い、肉体的にも男になった。その間、クロと妹に助けられた恩義を返すため、死に物狂いで勉強し、一流大学の物理学科に進んだ。
大学院の博士課程のテーマは「磁覚」だ。あのとき、クロや妹や道ゆく人々に見えたあのモヤを、いつか解き明かしたいと考えている。
今わかっていること。それは睡眠時、特にレム睡眠時に磁波に対する脳の反応が大きくなること。
また、睡眠時に磁波を浴びせると、時に被験者から興味深い証言が得られる。
そして、忘れられない夏の日から、実は俺にも大きな変化があった。
あの時からずっと、学校にいる時も、旅行に行く時も、食事をする時も、時に辛くて部屋で泣いている時も。どこへ行っても、よく何かの視線を感じる。
それは、視界に入れようとすると驚いたように物陰に隠れる、四本足の黒いモヤ。カギのようなしっぽが
ただ、それに恐怖を感じることは、もう、なかった。
そう、願わくば、ずっと。
俺がシワシワのお爺ちゃんになってそちらに行くまで。
そばにいてね。クロ。
黒に捧ぐ 了
黒に捧ぐ 蓼原高 @kou_tatehara
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます