第5話 秋のひととき



「やっと終わった……」



 俺は、中間テストを終えて、ひとまず山場を乗り切った。教室の中は、テストから解放された人達が騒ぎ立っている。今回のテストの手ごたえはかなりあったと言えるだろう。ちなみにうちの学校は私立の名門の進学校で一学年300人近くいて、その中で前回の結果だと30位は取れた。一位を取るにはほど遠いが、今回のテストの結果で一歩前進しているだろう。


 そもそも俺がここに進学しようと考えたのは、高校でブレイクする前の中学生の時に俳優やモデルで成功しないときのことを考えて、良い大学に進学して良い所に就職しようという目論見だ。けど、今では思いのほか順風満帆に来ている。まぁ、どのみちせっかくなら良い大学に入ろうと思っている。なので、家と学校やその他の場所で勉強してコツコツと積み上げている。


 そんな中、俺にとって大いに一個懸念すべきところができたわけだが――



「テストお疲れ様!」


「お疲れ」



 皆川さんが俺の前に姿を現した。



「次のデートはいつにする?」


「そうだな」



 俺は、彼女の話を片手間に視線を本に逸らして集中する。



「その本、取り上げちゃうよ?」


「今、ちょうどいいところだから放課が終わるまで――」


「えい!」


「お、おい!」


「これは、没収します」


「一応、俺の本なんだけど…」



 ひとまず、暇を潰すことがなくなって、彼女の話を聞くことしかなくなった。



「それで、いつ空いているの?」



 俺が彼女と知り合ってから、連絡のやり取りもそうだが、俺にデートにいつ行けるのかを毎回LINEで通してくる。それ以外にも毎朝『おはよう』のメールだったり、毎晩の『おやすみ』のメールが来る。なんだか、まるで彼女と付き合っているかのような感じだ。俺にそんな身に覚えはないが……。



「おそらく、半年先は空いていないだろう」


「それ、絶対嘘だよね?」


「それはどうかな?」


「ええっと、この写真をここのメールフォームに送信して――」


「すみませんでした!!」



 彼女に反抗してみたものの結局無駄だった。



「まぁ、再来週の土曜日くらいなら空いてるけど…」


「うん、全然いいよ」



 俺は、どうしてこんなことに付き合わさなければならないのかと頭を抱えてしまう。




 そして、予定していた日曜日のお昼頃。俺は奏絵さんと待ち合わせしていた場所まで赴く。そこは、駅を降りたすぐ近くにある噴水広場だ。



「ここで良かったんだよな」



 スマホで地図を確認して、合っているかを見定める。ちょうど、俺の目の前にマスクとサングラスをかけた女の子が一人、こちらへとやってくる。一見すると怪しい人だな……。



「お待たせ!靖人くん」



 彼女の服装をみると、白のブラウスに下は薄い茶色のフレアスカート。ピンクのポーチを身に着けている。彼女も俺と同じく有名だから、恰好もそこそこ気を使っているみたいだ。


 ちなみに、今日の予定は映画館に行った後、奏絵さんおススメのパフェに行くところまでだ。時間があればどこかで暇を潰すかにする。


 そういえば、このところ外に出歩くことがやけに多くなったな。



「じゃあ、一緒に行こっか」



 俺たちは、そのまま歩いて映画館へと目指す。



「靖人くんが事務所に入ってきたのは、中学二年生のときだったよね。その当時のことを思い出すとなんだか懐かしいね」


「俺がまだ新人の時のことだな」


「ふふ、初めての撮影の時の靖人くんの顔、ものすごく可愛かったね」


「あ、あれは緊張してああなっただけで」


「でも、あの時と比べたら見違えるほど成長したもんね」



 確かにそう言われてみれば、あの時よりも大きく変わった気がする。当時の自分を振り返ればしどろもどろとしていて、撮影がなかなか上手くいかなかった。けど、回数を重ねていくうちに、いつの間にか撮影が順調に捗るようになった。これも、周りの人が背中を押してくれたからだろう。



「そろそろかな」



 俺たちは映画館にたどり着き、早速入場口からシアターホールの中へと進む。



「結構、人来てるな」



 あたり一帯を見渡すと席がほとんど埋まっている。ちなみに、俺たちが見に来た映画は恋愛系だ。休日ということもあり、映画館にたくさんの人が来るのは間違いないだろうな。


 俺たちはポップコーンを片手に予約した席に相席の形で座る。



「こうして映画館に行くのは久しぶりだな」


「そうだね、休みの日はずっと忙しかったからね」



 しばらくすると、照明が暗くなり、映画が始まったようだ。



 ――数時間後



 映画が終わり、映画館の外に出る。



「靖人くんは最後のところで気持ちよく寝てたね」


「わ、悪い、つい気持ちよくなって寝てしまった」



 俺としたことが、ぐっすり映画館の中で寝てしまうとは。



「その代わり映画が終わった後、靖人くんの寝顔を写真に収めておいたから」


「は、はぁ…」



 俺は寝ているうちに写真を撮られていたようだ。そして、俺たちは、次の場所へと向かう。



「ここのパフェ美味しいね」



 ちょうど、駅の近くにパフェのお店があったので、そこを寄ることにした。ただ、ここに来ているお客さんのほとんどが女性だ。なんだか気まずい感じがするのだが。 



「良かったら一口食べる?」


「俺は別に大丈夫だ」


「そっか」



 彼女は、イチゴパフェをスプーンですくって頬張る。ちなみに俺はチョコレートパフェを頼んだ。



「おいしい~!」



 かなりご満悦の様子だ。一応、ここのパフェ専門店は予約がなかなか取れないくらい人気の店である。



「ここに来れて良かった」


「そうだな」



 俺たちは、しばらくパフェを堪能した。




 その後、パフェを食べ終えて店の外に出る。



「今日は楽しかったね」


「ああ…」


「もう少し長く一緒にいられたら良かったのにね」



 意外と彼女と過ごした時間があっという間だった。それだけ、時間を気にせずに過ごせたんだと実感する。



「また、時間があったら一緒に来ようね」



 そういって、俺と彼女は駅のところで解散した。


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学園の美少女達に絶対バレない?変装ラブコメ 久世原丸井 @kuyoharamarui

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