第5話:殺し屋は悪魔城を目指す

――01――


数十分前。田園地帯の川の畔に聳え立つ悪魔城、アテナ薬品本社ビル。正面ゲートに立つ守衛の前に、マイクロバスが停まって影を落とす。運転席の窓が降り、スーツにサングラスの運転手が、首に巻いた赤バンダナを白手袋で正して、守衛を見遣った。

「今日は。アテナ薬品本社工場でございます」

守衛は奇妙な物を見る目で、運転手を見上げた。守衛を見下ろす運転手の、スーツの胸元には金文字で『东信研』と記された、赤い横長の徽章バッジが光っていた。

「お世話になります。『东方信贷研究公司オリエンタル・クレジット・リサーチ・カンパニー』です」

運転手は白手袋でサングラスを正し、笑みを浮かべて、そうとだけ言った。日本語の発音は訛りが強く、英語の発音はやけに流暢だった。一方、守衛の顔は緊張で僅かに強張った。運転手の述べた会社名が、に含まれる名前だったからだ。

「では、入館証を拝見させていただきます」

守衛は気取られぬよう、強張った顔で無理矢理に笑い、詰所の窓から身を乗り出してバスの全体を窺った。窓は運転席以外全てスモーク張りで、街宣右翼めいた威圧感を放っている。驚いたことに、赤いバスは二台、前後に連なって停まっていた。

守衛は表情を凍りつかせ、素早く身体を引き戻した。もはや笑みとも呼べない表情で運転手を見上げ、さりげなく片手を机の下に、警報の隠しスイッチへと伸ばした。

というのは、これですか?」

スーツに赤バンダナの運転手が、右手を車内から窓の外に突き出す。白手袋が握るは細身の一体型消音器インテグラル・サイレンサーを持つ拳銃、67式微声手枪! 守衛が驚きに目を見開く!

「アッ!?」

ブシュッ! 拳銃の固定されたスライドが火薬の爆音を封じ込め、消音器の銃口から硝煙が立ち昇るのみ! 7.62mm弾で撃ち下ろされた守衛は、顔を貫かれ即死!

運転手は笑みを浮かべつつ、バスを発進させた。遮断機のポールをバスのバンパーが圧し折って転がし、二台のバスは何事も無かったようにゲートを通過していく。




二台の赤いバスが噴水を取り巻くロータリーを半周して、悪魔城へと続く石段の前に横付けされた。ブザー音と圧縮空気の排気音の後に自動ドアが開かれ、スモーク窓に隠された車内より、足音を連ねて無数の男たちがバスの外へと降り立った。

集団の構成員は五十名を優に超えた。男たちは人種も体格も様々であったが、同一のスーツと徽章バッジ、サングラスと赤バンダナを身に着け、組織の一体感を示していた。

暴力団? 諜報員? 否、探偵! 彼らは『东方信贷研究公司オリエンタル・クレジット・リサーチ・カンパニー』、19世紀のピンカートン探偵社めいた、調査会社の皮を被ったチンピラ集団だ!

スーツに赤バンダナの人波が左右に割れ、小太りの男がロングコートを翻して先頭に進み出る。男は一人だけサングラスをかけず、素顔を曝していた。懐からの赤い包装箱パッケージを取り出して紙巻を咥えれば、手下が歩み寄ってタバコに火を点ける。

集団の指揮官たる小太りの男は紫煙を燻らし、残忍な眼差しで悪魔城を見上げた。

「準備はいいか、野郎ども。やるぞ、野郎ども。戦争おっぱじめるぞ、野郎ども!」

「「「ウオオオオオッ!」」」

ボスの背後に居並ぶ、五十有余人のスーツ男たちが一斉に声を上げた。彼らの両目はサングラスの下で異常興奮パキパキに輝いていた。覚醒剤メタンフェタミン系の混合麻薬カクテル『黒蛇牙』をキメてインスタントに戦意高揚ブレイブし、気分は

「お前たちは無敵だ。撃たれても死なねえ、目的を絶対に達成する最強の戦士だ!」

「「「ウオオオオオッ!」」」

「行くぞ! 殺人ウィルスは俺たち『东信研トン・シン・イェン』の物だ!」

「「「ヤルゾオオオオッ!」」」

指揮官が振り返り集団を見渡してアジれば、スーツ戦士たちは怒号めいた声で応える。指揮官は満足げに頷くと、悪魔城へと続く石段を、先陣を切って上って行った!


――02――


悪魔城めいて聳える洋館、アテナ薬品本社ビル。燦々と降り注ぐ太陽光が、南向きの正面玄関とその頭上に伸びる塔を照らす。塔には神話風景を描いたステンドグラスが施され、神秘的な威容を陽射しに輝かせて、見る者全てを圧倒した。

『我々は友の死を悼み、過去の失敗を乗り越え、以って未来の糧とする』。

悪魔城の玄関ホールに続く、鈍色に輝く合金製の自動ドアの上部には、ギリシャ語の標語が、文字の下にはギリシャ神話のレリーフが描かれていた。それは幼いアテナと親友パラスの槍試合、アテナが誤ってパラスを突き殺す一幕だった。

それらには薬学の進化で避けられない犠牲者への哀悼の意が籠っていたが、东信研のスーツ集団には一向関心が無かった。スーツに赤バッジ、赤バンダナにサングラスの奇妙な一団は、自動ドアを通過して靴音を響かせ、玄関ホールへとなだれ込む。

壁掛けの電飾に煌々と照らされたエントランス。カーペットは赤く、木目調を模した壁には油絵の巨大な額縁がふんだんに配されていた。至る所にギリシャ神話の石像や銅像が並び立ち、光り輝くショウケースには会社の歴史が記されていた。

吹き抜けのホールを貫いて屹立する巨大な女神像が、意気揚々と迫るスーツの一団を待ち受けていた。それは社名の由来、ギリシャ神話の女神・アテーナー。

「いらっしゃいま……」

受付嬢は唐突に出現した大量の人山に、目を見開いて語尾を窄ませた。东信研たちは瞬く間にホール全域へと展開、女神像の足元のカウンターを中心に円陣を描いて並び全方位に視線を向ける。ホールを歩く者たちが、怪訝な顔で一団を見つめた。

女神像の背後には、ショウケースを挟んで二階へと伸びる逆Y字階段。スーツ戦士の半数ほどが、本体から分かれて階段を上がった。二階には女神像を取り巻きホールの壁を一巡する、回廊が張り巡らされていた。




エントランスの一階と二階に立つKSSの警備員……『コディアック警備保障セキュリティー・サービス』の傭兵たちが、ホールを飲み込まんばかりに溢れる东信研のスーツ集団に狼狽、各々が携えたDDM4 300Sカービン銃を構え、スーツ戦士を消音器サイレンサーの銃口で威嚇した。

「おい、何だ貴様らッ! なぜ首に入館証を下げていないんだッ!?」

「止まれ、不審者ッ! それ以上近寄るんじゃあないッ!」

「妙な真似をしたら撃つぞッ! これは警告だッ!」

东信研たちは、KSSの傭兵たちの数メートル手前で立ち止まり、無言で正対した。

一階カウンター。硬直した受付嬢の前に、东信研のボスが咥えタバコで立ち、室内で平然と紫煙を燻らせつつ、残忍な視線で受付嬢を見据えていた。

「我々は『东方信贷研究公司オリエンタル・クレジット・リサーチ・カンパニー』だ。荷物の受け取りに来たと社長に言いな」

小太りの男はカーペットの足元にタバコを放って紫煙を吐き、冷酷な表情で受付嬢に淡々と命じつつ、タバコを靴底で踏んでにじり消した。

「か、かしこまりました。しょ、少々、お待ちください……」

受付嬢は表情を凍りつかせ、内線電話の受話器を上げて社長室を呼び出す。

「社長に来客です。はい……『东方信贷研究公司オリエンタル・クレジット・リサーチ・カンパニー』という方が……」

受付嬢は対面する小太りの男を視線で一瞥し、縋るような仕草で電話に語る。そして二言三言話した後、驚きと絶望の入り混じった表情で受話器を下ろした。

「それで? 返事を聞こうか、お嬢さん」

受付嬢は身体を震わせ、瞬きして生唾を飲み込み、ゆっくりと口を開いた。

「しゃ、社長より、伝言です……『そのような者たちは知らない』、と」

东信研のボスは無言で肩を竦め、コートの下からLS2ブルパップSMGを取り出す。

ヴァララララッ! 乾いたバースト連射が、受付嬢を無慈悲に射殺!




指揮官の銃声に呼応して、傭兵たちと対峙するスーツ集団が、上着の内側から一斉に銃を抜いた! 50連の螺旋ヘリカルマガジンを背負う长风冲锋枪、またの名をLS6 SMG!

「「「サブマシンガンッ!?」」」

KSSの傭兵たちが狼狽し、カービン銃の安全装置を弾いて引き金に指を伸ばす!

接敵エンゲージ! 接敵エンゲージ!」

戦闘開始オープン・ファイア!」

バババババスバスババスバスバスッ! ヴァララララヴァラヴァラヴァララララッ!

300BLKブラックアウト弾と9mm×19弾、至近距離で撃ち合う傭兵たちとスーツ戦士たち!

东信研のスーツ戦士たち数人が、心臓や脳を撃たれて即死! 貫通弾が他の者たちを傷つけ、倍々ゲームで死傷者が増える! しかし、殆どの者たちは倒れない!

东信研のボスはSMGを携え銃撃戦の渦の中心に佇み、空いた片手で新しいタバコを咥えて火を点け、四方八方に銃弾が飛び交う中で、のんびりと紫煙を吹かした。

「「「ウオオオオオッ!」」」

麻薬で痛覚を殺したスーツ戦士たちが、圧倒的な頭数の差と13発毎秒を誇るSMGの瞬発火力で、濃密な弾幕を全方位に展開! SMGの弾は1挺で50発、50名を越えるスーツ戦士が一斉射を行えば、4秒弱の間に撃たれる弾は2,500発以上!

东信研の形成する壮絶な弾の雨が、KSSの傭兵たちを問答無用で蹂躙する!

ヴァラヴァラヴァラヴァラヴァラヴァラヴァララララララララララララララララッ!

「「「ウギャーッ!?」」」

夥しいSMGがミンチ製造機めいた轟音を伴い連射! 傭兵たちは手足や顔から血を噴き、屠畜めいた断末魔を上げて死亡! 防弾ベストを着ていようが無意味!


――03――


ホールに聳える女神像アテーナー。『遍く人の健康を守り、遍く病を制圧する』。青銅の名板に標語を記した巨像の、右手が握った馬上槍の穂先の上、吹き抜けの遥か高み。透明な防弾ガラスの床から下界を睥睨する、悪魔城の尖塔の頂。

そこはアテナ薬品の代表取締役社長で『女帝』こと、安中芙美江ヤスナカ・フミエの居室だった。

女帝はルイ・ヴィトンのキャメルカラーのツイードスーツで装い、ミニスカートからすらりと長い脚を覗かせて立ち、セミロングの髪の下の物憂げな顔にケ・ドルセーのハバナ葉巻を咥え、防弾ガラスの下の人だかりを無感動に見下ろしていた。

「形振り構わぬ人海戦術……小金欲しさで寄り集まった烏合の衆、で命を使い捨てにされる奴隷たちも、山のように押し寄せれば充分な脅威だわ」

芙美江は葉巻を燻らせつつ、低くしわがれた老女のような声で呟いた。彼女は後腰に手を伸ばし、ヴィトン柄をプリントしたP938小型拳銃を抜くと、マガジンの装填を確認してスライドを引く。安全装置を親指で弾き、装填した銃を後腰に戻した。

部屋にはスーツ姿の秘書が二人、窓際に女、扉の前に男が立っていた。二人は懐からP320-M18拳銃を抜き、スライドを引いて装填を確認。芙美江に目配せする。

の名折れだわ、コディアック警備保障セキュリティー・サービス。高給取りが呆れたものね」

芙美江は靴音を鳴らして執務机に歩み寄ると、天板下の隠しスイッチを押した。机の背後の壁に飾られた油絵の額縁がに上にスライドして、隠し武器庫を露わにした。

芙美江はワックスめいてネイルの輝く手指を伸ばし、長物銃ロングガンを次々と取り出す。

オリジン12半自動散弾銃セミオートショットガン、XCR-Mマイクロ短縮型ライフル、それからヴィトン柄をプリントしたMCXラットラー超小型ライフル。男の秘書には散弾銃、女の秘書には短縮型ライフルを手渡し、自分はヴィトン柄の超小型ライフルを携える。

三人は、それぞれの銃にそれぞれのマガジンを装填し、ボルトを引いて弾を込めた。




その頃、女神像の足元では、东信研のスーツ戦士たちがエントランスを完全に制圧。

小太りの指揮官がコートの裾を翻して歩き、構成員たちに次々と指示を飛ばす。

「一班は社長室を制圧! 二班は地上階を検索! 三班は二階から上を検索せよ! 何としてもウィルスを探し出せ! 四班はこの場に残って玄関ホールを確保!」

「「「ウオオオオッ!」」」

スーツ戦士たちはSMGの筒型マガジンを再装填し、十数人ごとの班を組んで靴音を響かせ、空薬莢と敵味方の屍を踏みしだき、それぞれの目的地に進軍していく。

指揮官が一班に随行してエントランスから去ると、ホールのスーツ戦士たちは周囲を警戒しつつも、互いに雑談したり、タバコに火を点けるなど雰囲気を弛緩させた。

「見ろよ、このイカした銃! 高そうだぜ!」

「いい道具使ってんなぁ。俺たちとは大違いだ」

「SIGの拳銃だ! こいつは高値で売れるぜ!」

「銃も弾もマガジンも、売れば金になる! 持てるだけ持って帰るぞ!」 

「ヒヒーッ、役得だ役得!」

スーツ戦士たちは傭兵の屍から武器弾薬を剥ぎ、ポケットに入るだけ詰め込んだ。

その時、玄関ホールの自動ドアが開き、新たな闖入者を迎え入れる。

「「「誰だッ!?」」」

スーツ戦士たちがLS6 SMGの前方グリップを握り、次々と構えた。視線の先で歩む男一匹、不破定フワ・サダム。黒い戦闘服姿で、ドラムマガジン付きのSG553Rを携え登場!

「カーッ、趣味悪ぃ。美術館か何かと間違えてるんじゃねえか?」

不破は呟きつつホールを見渡して呟き、破壊の痕跡と点在する死体、そしてフロアに陣取る东信研たちへと視線を移し、カービン銃のドットサイトを覗いた。


――04――


居並ぶスーツ戦士たちが、異常興奮パキパキに輝いた目で不破を睨み、SMGを構えた!

「侵入者だ、殺せッ!」

「「「ウオオオオッ!」」」

「遅ェよ」

シュボボボボボボボボボボボボボボッ! 不破は消音器サイレンサーの銃口を横滑りさせた!

7.62mm×39弾がスーツ戦士たちを直撃し、300BLKの亜音速サブソニック弾とは比較にならない衝撃力で人体を破壊! 麻薬で痛覚を殺そうがお構いなし、力づくで薙ぎ払う!

「「「グギャーッ!?」」」

一階で応戦するスーツ戦士たちは、立て続けに急所を貫かれ、血をしぶいて倒れる!

ヴァラヴァラヴァラヴァララララッ! シュボボボボッ! シュボボボボッ!

二階に陣取るスーツ戦士たちが不破に連射! 不破は女神像の足元に滑り込む!

シュボボボッ! シュボボボッ! 不破はカウンターの影から二階に射撃!

ヴァラララヴァラララヴァラララッ! 数倍の勢いでSMGが撃ち返してくる!

射線に挟まれた女神像を銃弾が穿ち、石片と跳弾が天使の羽めいて舞い降りる!

「死ねエーッ!」

スーツ戦士の一人が機転を利かせ、傭兵の屍から奪った破片手榴弾フラグ・グレネードを投擲!

「あっぶねぇッ!」

不破は尻を蹴り上げられたように素早く銃を抱え、カウンターの中に飛び込んだ!

ズド―――――ンッ! 炸裂の衝撃で、石造りのカウンターに亀裂が走る!

「「「やったか!?」」」

スーツ戦士たちがSMGを手に回廊上に立ち尽くし、女神像の足元に目を凝らした!

不破が無精髭の顔で口端を吊り上げて笑い、カウンターから乗り出して射撃!

シュボボボボボボボボッ! シュボボボボボボボボッ! シュボボボボボボボボッ!

右を撃ち、左を撃ち、前を撃つ! 二階のスーツ戦士たちを目がけ、次々と連射!

手足が千切れ、心臓が破裂し、頭が吹き飛び、东信研たちが一人また一人と倒れる!




ヴァラララララッ! ヴァラララララッ! ヴァラララララ――ガチンッ!

弾切れだ! 二階で一人しぶとく奮戦していたスーツ戦士が遂に手を停める!

「チクショーッ!」

不破の上体がカウンターから乗り出し、シュボン! スーツ戦士をヘッドショット!

頭の弾けたスーツ戦士は、もたれかかった手摺が崩れ、一階に墜落!

不破はSG553Rのドラムマガジンを外し、箱型マガジンに付け替えて姿を現した。

右、左、前。カウンター上下の死角も確かめ、敵が居ないことを確かめて息をつく。

「ハァーッ……どこの団体様か知らねえが、随分と大人数を連れて来るじゃねえか」

両手に携えたカービンの銃口を下げ、背後に聳え立つ女神像を振り返った。

「何とまあデッケー女神様。しかし図体がデカい割に、オッパイは小せぇのな……」

片手を単眼鏡めいて丸め、左目に翳して前後させ、女神像の胸甲の膨らみを見遣る。

「……ン? 何だ、目の錯覚か? 上に何か見えるような……」

不破の片手が停まった。女神像の胸甲の上、頭に被った鶏冠のような飾りを持つ兜の更に上。女神の頭上に穂先を向けた、馬上槍の切っ先の上、吹き抜けの天井。

「ガガッ……グゥッ!」

這いずる物音と、荒々しい呼吸。不破は即座にSG553Rを構え、芋虫めいて床を這うスーツ戦士に、シュボン! 赤いバンダナを巻いた顔が、血煙と共に弾ける!

「チッ、油断の隙もねえな……」

不破は周囲を見回し、敵の生き残りが居ないことを再確認。黒い戦闘服のポーチからケルンの小型双眼鏡を取り出すと、カウンターから離れて天井を見上げた。

不破は古ぼけた軍用双眼鏡のレンズ越しに、家具が浮遊する不思議空間を視認した。

「スパイ映画の悪党? 下界を見下ろす神様気分かよ!? 気に入られねえなぁ! あんなとこでエバってる貴族様は、引きずり降ろしてやりたくなるねェ!」

不破は冷笑して独り言ち、双眼鏡を仕舞って走り出した。硝子の居城にふんぞり返るようなヤツは、悪党と相場が決まっているのだ。目的地は決まりだった。


――05――


高速道路上を、メルセデス・ベンツの白い配達用デリバリーバン、208D T1トランスポーターが息せき切って走る。『椛谷ソーシャルコミュニケーションズ』の戦闘員六名を乗せた鈍重な車体を、ディーゼルエンジンのトルクが引っ張って加速させ続ける。

運転席では長谷川がハンドルを握り、助手席には高橋が後頭部に手を組み、お気楽に口笛を吹いていた。車体後部に座席を増設したカーゴ室には、互いに向き合う配置で左右に二席ずつ、野村と山田、林と佐々木とが隣り合い、座っていた。乗員の全てが濃紺の作業服姿で、防弾ベストを重ね着し、重改造Vz58ライフルを携えていた。

「あーあ。どうせなら、左近司さんと一緒が良かったなぁ」

「頼んでみたら良かったのでは?」

「フツーに断られました」

「『何を考えてるんだ、野村! 遊びじゃないんだぞ!』とでも言われましたか?」

「チッ……似てねーし」

「然様で」

野村が眉を顰め、奇天烈な風貌の山田を睨んだ。山田は戦闘ベストの背中に湾曲した鉄骨を背負い、覗き窓付きの大盾を頭上の鉄骨からワイヤー懸架していた。簡易的なクレーン構造で盾の重量を支え、腕の負担を和らげる外骨格補助エクソスケルトン・サポートシステムだ。

「ね、ね、ねぇ……盾持ちって本当に一人じゃ駄目なんですか? これどう考えても死亡フラグですよね。長谷川さんとか、高橋さんとか、他に適任者は……」

反対側の席で、佐々木は青白い顔に引き攣った笑みを浮かべ、譫言のように呟いた。彼の身体にも山田と同じ、外骨格補助システムが取り付けられていた。

「肚を括ってください、佐々木くん。愛しのガールフレンドが守ってくれますから」

「ハッ、ガールフレンドだって。例えが一々昭和なんだっつーの」

野村が鼻を鳴らし、佐々木の盾を一瞥した。黒い盾には、蛇の髪と石化の邪眼を持つ怪女『メドゥーサ』の恐るべき顔が、白い塗料でペイントされていた。




運転席の長谷川が、ドアミラー越しに後ろを一瞥。バンの後方に銀色の小型セダンがピタリとつけていた。メルセデス・ベンツ 190E コスワース 2.3-16。乗っているのは運転席に左近司と助手席に雨宮、バンに乗り切れなかった二人であった。

「二人だけいい車に乗っちゃってさぁ。俺だって運転したいよね、ああいうの」

「ありゃMTマニュアル車だよ、高橋。残念だがお前の免許じゃ転がせねえわな」

「マジで!? ベンツったらATオートマって相場が決まってるでしょ。何でMTマニュアルなの!」

「今度乗せてもらえるように、主任サマに頼んでみたらどうだ!」

「ハァッ!? バッカでぇ、誰があのサル女にそんなこと言うか!」

「わーったからもう静かにしろ、そろそろ到着だ!」

「んだよ、オジンが先に因縁つけてきたじゃんよ、ったく……」

高橋が愚痴りながら車窓に視線を移すと、190Eが175馬力のチューニングエンジンを唸らせて、ドンガメのトランスポーターを追い越し、前方へと躍り出た。

「無意味な追い越しなんかしちゃって。サル女のヤツちょっと楽しんでねえか?」

高橋の言葉に長谷川は鼻を鳴らし、インターチェンジまでの距離を示した道路標識を一瞥する。暫し後に現れた出口に向かい、190Eと208Dが続々と左折して行った。




アテナ薬品本社ビル・正面ゲート。銀のセダン・190Eと、白いバン・208Dが連なり遮断機を通り過ぎる。圧し折られたポールを見て、高橋が眉を顰めた。

「遮断機がぶっ壊されてんぞ。誰か強引に突っ切って行ったヤツが居るんじゃ」

「そんなの、殺人ウィルスを欲しがる火事場泥棒しか考えられねえだろ」

「例えば、俺たちみたいな?」

高橋の切り返しに長谷川が顔を顰め、鼻で笑う。190Eの後を追って川の畔の石畳を走れば、辿り着くは噴水のロータリー。石段の前に横付けされた赤いマイクロバスが二台、その後ろに銀色のボルボのセダンが一台。長谷川は眉間に皺を寄せて唸った。

「何だこのデカブツは。随分と大所帯で来てやがるじゃねえか!」

「何か嫌な予感。俺もう、今から帰りたいんスけど」

長谷川と高橋が口々に愚痴をぶち、ロータリー上に車を停めて次々に降車する。前に停まった190Eから左近司と雨宮が降車し、周囲を警戒しつつ本隊と合流した。

「おい、何だアレ。この状況で突っ込むのはヤバいんじゃないか?」

「じゃどうする。怖いから尻尾撒いて逃げ帰るってか? 別にそれでも構わんがよ」

「そうは言ってないだろう!」

「はーいはい、二人とも作戦前に喧嘩すんのは止めてね」

高橋は双眸を細め、言い合う左近司と長谷川に呆れつつ、後部の観音扉を開いた。

「やだ、やだ、やだ……もう本当絶対無理だって……」

車内から盾持ちの山田に続いて野村が降車し、山田同様に盾持ちの佐々木は、病院を嫌がる犬猫のように全身で拒否しつつ、林に無言で押し出されて降車した。

左列に山田、野村、左近司、林。右列に佐々木、雨宮、高橋、長谷川。ソーコム隊は二列縦隊を組み、ライフルの装填を確認。盾持ちは拳銃を構え、悪魔城に進んだ。


――06――


ソーコム隊の到着と同時刻。白いフルサイズバン、シボレー・エクスプレスが山合の幅広な対面通行道路を猛スピードで駆け抜け、曲がりくねった山道を上る。急斜面の峠道を暫く走ると、道端に近代的なゲートが姿を現した。

白いバンは林道からゲートに進路を曲げて、遮断機前で停車する。助手席の窓が開きKSSの傭兵が守衛に入館証を提示。ここはアテナ薬品の裏面ゲートなのだった。

遮断機のポールが上がり切らぬ内に、シボレーのバンはアクセルを吹かし、急加速でゲートをパスして山道を突っ走って行く。森深い斜面に開いたトンネルを駆け抜けた先は、悪魔城ことアテナ薬品本社ビルの北側に広がる製薬工場の敷地であった。

広大な敷地に立ち並ぶ、現代的な製薬プラントには目もくれず、白いバンは工場群の後方に屹立する悪魔城を目指して走り続けた。殺人ウィルスの研究は社内でも極秘で工場での製薬事業とは完全に切り離され、悪魔城の地下にて行われていたからだ。

悪魔城の北側にも尖塔は聳え、南側の正面玄関に聳える尖塔と対照的な形はあたかも双子のようであった。しかし陽射しで燦々と輝く南側とは対照的に、北側の塔は常に影をまとい、周囲は昼でも薄暗く、苔むした壁は不気味な雰囲気を漂わせていた。

中世の農村を思わせる朽ちかけた土壁、目隠しを兼ねた境界線を通過し、シボレーのバンは悪魔城の裏口へと走り込む。点々と雑草の生い茂る駐車場を通り抜け、廃材の散乱する立入禁止区域へ。蔦の這う外壁の途上に、分厚い木の観音扉が現れた。

車が速度を落として扉に近づくと、観音扉が物々しい音を立てて開かれた。操作する者は扉の内側には居ない。車が城内に乗り入れると、モーター駆動の音を伴って扉が閉ざされた。橙色の非常灯が頭上を照らす隘路を、バンは徐行して進んでいく。




聖羅は真っ暗闇の視界、車が停まり、ドアが開かれる音を感じた。目隠しされたまま車外に引きずり出される。まず感じたのは湿っぽく埃っぽくて、黴臭い空気だった。

「聖羅ッ! 聖羅あッ!? どこに居るんだッ!?」

「ここはどこなのッ!? 私たちをどうするつもりッ!? 家に帰してッ!」

「静かにしろ!」

「お父さん、お母さんッ!?」

視界が暗黒に包まれたまま、踏み出そうとした聖羅の歩みが背中で引き留められる。

「お前はこっちだ、百目鬼聖羅ドウメキ・セイラ

暗闇の中で、冷酷な声が響いた。聖羅たちの誘拐を企てた張本人、安中惣一郎ヤスナカ・ソウイチロウだ。

「聖羅ーッ! 聖羅を返せ、クソーッ!」

「放してーッ! ここから出してーッ!」

聖羅の両親の叫び声と、足音が遠ざかって行く。聖羅自身もまた、何も分からぬまま唐突に引っ張られ、どことも知れぬ場所を歩き出した。鎖で繋がれた犬の姿が聖羅の脳裏を過ぎる。普通は犬に目隠しなどしないから、犬よりも酷い扱いだ。

「襲撃犯たちに一刻も早い対処が必要かと」

「『ホプリテス』を出せ」

「ハッ。しかしあれはまだ試作型で……」

「性能試験には丁度良い機会だ。あれを使えば、普通の人間はカカシも同然。大群で押し寄せようとも容易に薙ぎ払える。コソ泥どもに格の誓いを見せつけてやれ」

「……かしこまりました。直ちに準備します」

「今度は一体何の悪巧みかしらッ!?」

「殺人ウィルスに集ってきたゴキブリどもを、一つ残らず叩き潰す秘密兵器さ」

聡一郎は喉の奥で低く笑い、聖羅を引きずって歩きながら愉快そうに答えた。


――07――


ソーコム隊が自動ドアを潜った時、聳え立つ女神像の周囲は死屍累々の惨状だった。东信研にられたKSSの戦闘員、不破に殺られた东信研のスーツ戦士。一階と二階を併せて二十名を優に超える男たちが屍を曝し、床の方々に血溜まりを描いている。

「佐々木くんは右側を回って。私は左を。頭上と死角に用心して行きましょう」

山田が視線で示し、佐々木が頷き、一行が盾に守られつつ歩き出す。女神像の足元に辿り着くと、山田班は左へ、佐々木班は右へ迂回して進み、全方位を索敵。

玄関ホールにあるのは死体だけだった。中華街の爆竹祭りを思わせる銃声が、どこか遠くのフロアから断続的に聞こえることを除けば、周囲は殆ど静まり返っていた。

山田班と佐々木班は、二手に別れてエントランス一階を巡り、逆Y字階段前で合流。

「殺人ウィルスのサンプルってヤツぁ、一体どこにあるんだ?」

「虱潰しに探していくしかないな。下からと上から、二手に別れるべきだ」

長谷川の問いに左近司が提案すると、佐々木が青白い顔で口を挟んだ。

「二手に別れるんですか? 挟み撃ちとか……敵が押し寄せて来たら危険では?」

「何のための盾だと思ってる! 効率優先だ、挟み撃ちは根性でどうにかしろ!」

「そんな、ご無体な……」

「ああもう鬱陶しい、私たちで下から、お前たちは上から攻めていくぞ!」

「ま、待ってください! 僕たちが地上階を行きます!」

「お前な……」

「では下はお任せします、佐々木くん。口論は時間の無駄です、行きましょう」

声を荒げかけた左近司に山田が口を挟み、議論を強制終了させた。山田班が階段から上を目指し、佐々木班は一階フロアの奥の扉を目指し、ソーコム隊が移動を始める。




女神像の直上。尖塔の最上階に位置する社長室では、防弾ガラス張りの透明床の上で銃弾が激しく飛び交っていた。扉の奥の通路には东信研のスーツ戦士たちが連なってSMGを構え、室内には芙美江が執務机に、秘書二人がソファに隠れて対峙する。

部屋の壁や建具は著しく損壊していたが、執務机とソファに損壊は見られなかった。執務机の背板は防弾鋼板で補強され、ソファには防弾繊維バリスティック・ナイロンが仕込まれていた。

「「「オラアアアアアッ!」」」

ヴァラヴァラヴァラヴァラヴァララララララッ! 殺害も辞さぬSMGの弾の雨!

ズガッズガッズガッ! ズドドドドッ! 男秘書のオリジン12が九粒散弾バックショットを撃ち、女秘書のXCR-Mが7.62mm×51弾を放つ! スーツ戦士の頭数と火力で張り合う!

「ウィルスのサンプルを寄越せえええッ!」

「お前たちのような下郎ごときに渡すものですかッ! 死になさい!」

バラタタタタッ! バラタタタタタッ! 芙美江が執務机の影からMCXを連射!

「「「ウオオオオオッ!」」」

社長室前で大量に倒れるスーツ戦士たち! ある者は片手を千切られ、ある者は穴を開けられて内臓を食み出させつつも、異常興奮パキパキの笑みでSMGを撃ち続ける!

「何なの、あいつら! いくら撃ってもキリがない!」

「何回撃っても起き上がってくるぞ! ゾンビか何かか!?」

「結構な事よ! 死なないなら、バラバラになるまで撃ちまくるまで!」

女秘書と男秘書が口々に呻き、芙美江のヤケクソの言葉がそれに続いた。三人は残り少ないマガジンを次々と銃に再装填し、ボルトキャッチを叩いて銃を構える。


――08――


不破がSG553Rを携えて、社長室まで続く階段を駆け上がる。階段を制圧下に置いた东信研のスーツ戦士たちが、突っ込んでくる不破に気づいてLS6を構える!

「おい、何だあいつは!」

「撃ち殺せ!」

「「「ウオオオオオッ!」」」

ヴァラヴァラヴァラヴァラヴァラララララッ! 激しい銃撃が上階から降り注ぐ!

不破は慌てて後退すると、催涙ガス手榴弾を取り出してピンを抜き、慎重に前進して階上に放り投げた。バボッ! ブシュウ―――――ッ! 階上に満ちる白煙!

「ゲボゴボオッ!? 何だッ!?」

「目が痛いッ! 息が苦しいッ!」

「チックショウ! あの野郎ッ!」

ヴァラヴァラヴァララララッ! スーツ戦士たちが激昂、涙や鼻水を垂らしながらも一人また一人と白煙を突き抜け、SMGを乱射しつつ階下に攻め込んでくる!

「な、何だあいつら! 催涙ガスが効かねえだとッ!?」

悠長にガスマスクを被ろうとしていた不破は、泡を食って更に階下まで駆け下りる。シュボボボッ! シュボシュボシュボッ! 深追いしてきた者たちを各個撃破!

「ったく、ガスは効き目に個人差があるから面倒なんだよな、チクショウ!」

不破はガスマスクで顔を覆って悪態をつき、再び上階を目指して歩き出した。

「「「オアアアアア゛ッ!」」」

ガスの苦痛に当てられ、意味不明な叫び声を上げつつスーツ戦士たちが駆け下りる。

ヴァラヴァラヴァララララッ! シュボボボッ! シュボボボッ! シュボボボッ!

けたたましいSMGの連射音に被せて、不破がカービン銃を断続的にバースト射撃。

一人また一人と現れるスーツ戦士たちを、順々に急所を射抜いて屍に変えていく。




不破が階段を昇り詰めて社長室に繋がる一本道に差し掛かると、銃撃の交差する音が不破の元まで響いて聞こえた。不破はカービン銃を再装填し、慎重に歩みを進める。願わくば撃ち合いに夢中な敵に気づかれず、背後から急襲して漁夫の利を……。

ヴァラララッ! ヴァラララッ! ズガッズガッ! ズドドドッ! バラタタタッ!

「おうおう、滅茶苦茶やってんなァ」

不破が曲がり角越しに窺うと、まだ生き残っているスーツ戦士たちが数人、全身から血を噴き、身体のどこかしらが欠けた凄惨な姿で、社長室めがけて撃ち続けていた。

「何だあいつら、ゾンビか何か……もしかしてヤクでもキメてんのか?」

不破は呟き、彼らに催涙ガスが効かなかった理由を思い至った。

「じゃあまあ、お疲れさん」

身体を壁から半身を乗り出し、SG553Rのドットサイトで东信研のスーツ戦士たちの後頭部に狙いを定めた。シュボンッ! シュボンッ! シュボンッ! 三人の頭部を立て続けに血煙に変えると、残った二人が異変に気付いて背後を振り返った。 

「何だ、後ろかッ!?」

「挟み撃ちかッ!?」

シュボンッ! ズガッズガッ! ズドドドッズドドドッ! バラタタタタタタタッ!

不破の一撃が一人の頭を吹き飛ばした直後、弾の雨が残る一人へ立て続けに命中。

最後のスーツ戦士がズタズタに引き裂かれて倒れると、周囲には静寂が訪れた。

「……やっと援軍が着いたか」

「ちょっと遅すぎたみたいだけど」

秘書たちが防弾ソファから慎重に身を乗り出して様子を窺い、言葉を交わした。

「外の様子を確認してきます、代表」

「充分注意して」

男秘書が、散弾銃の残弾を確認して扉に近づき、壁から身を乗り出して前方を覗く。

周囲に見えるのは死体だけ。では、援護射撃は一体誰が? 男秘書は訝った。


――09――


不破は廊下の影で壁に半身を隠しつつ、敵が歩み出てくるのを辛抱強く待った。

スーツ姿の男が一人。手には散弾銃。死体を踏み越えてこちら側に歩いて来る。

「おーい! そこに誰かいるのか? ……あッ!?」

男秘書が銃口に気づいた瞬間、シュボンッ! 既に銃弾は放たれていた。SG553Rがサイレンサーから硝煙を噴いて、7.62mm×39弾は男の顔面を直撃、爆ぜさせる。

ズガッ! 男秘書の握るオリジン12が暴発し、跳ねて床に転げ落ちた。社長室内で女秘書と芙美江が目を見合わせ、女秘書がXCR-Mを抱えてドアへと駆け寄った。

戸口から慎重に覗き込むと、廊下に倒れる男秘書。どう見ても死んでいる。

ズドドドッ! ズドドドッ! 女秘書は反射的に、7.62mm×51弾を廊下に連射!

「味方……じゃない!? お前は誰だッ!?」

ズドッズドッズドッ! ズドッズドッズドッ! 女秘書が叫ぶも一切反応なし!

「追いかけますか、代表!」

「迂闊に出てはダメよ、深追いは敵の思う壺だわ!」

ズドッズドッ! ズドッズドッ! ズドッズドッ! 女秘書は苦い顔で撃ち続ける!

「もう残弾がありませんッ!」

ズドッ! ズドッ――ガチンッ! ライフルがホールドオープン! いよいよもって追い込まれた女秘書は、XCR-Mを足元に放り捨て、懐のM18拳銃を取り出した。

「来るなら来いッ!」

その時、崩れかけたドアの影から投げ込まれた塊。閃光手榴弾だ!

「なッ!?」

バボッ! ギ―――――ン! 閃光と大音響が社長室に充満! 女秘書は前後不覚!

ガスマスク姿の不破が、SG553Rを手に社長室へ突入! 戸口で立ち尽くす女秘書に至近距離から、シュボンッ! その時、執務机の影から覗くMCXの銃口!




不破は咄嗟に危機を察し、透明な防弾ガラスの床に身を投げた! そして次の瞬間、バラタタタタタタタタッ! 超小型ライフルが5.56mm弾を滅茶苦茶に撒き散らす!

不破はソファまで匍匐前進で近づいて身を隠し、テーブルの下から銃口を突き出す。

「武器を捨てろ! 蜂の巣になりたくなかったらな!」

「やれるもんならやってみなさい!」

「ああそうかよ!」

シュボボボボボボボッ! ガキョキョキョキョキョキョ! 弾頭が跳ね返される音!

「かってぇ! 机に鉄板でも仕込んでんのか!」

「ご名答!」

バラタタタタタタッ! 5.56mm弾が防弾ソファに食い込み、繊維片を撒き上げる!

「つかぬことをお聞きするが、ご婦人! 麻薬をやる趣味はあるか!?」

「無粋の極みね! 万一売る側にはなっても、使う側になるなんて有り得ないわ!」

「ああそう、いいこと聞いたぜ!」

不破は懐のポーチからガス手榴弾を抜くと、執務机の奥を目がけて投げ込んだ。

バボッ! ブシュウ―――――ッ! CSガスの白煙が噴出、芙美江に襲い掛かる!

「ゲボッ、ゴボオッ! なッ、なんですってえッ!?」

バラタタタッ! バラタタタッ! バラタタタタタッ――ガチンッ! 弾切れだ!

「ゴボッ、ゴボボオッ! ゲッホ、クソッ、こんなところで、悔しいッ!」

芙美江は催涙ガスに巻かれて涙と鼻水を垂れ流し、ライフルを放り出して苦悶する。

「やれやれ。漸くチェックメイト、って感じかねェ」

不破は防弾ソファの影から芙美江の様子を慎重に窺い、ゆっくりと執務机に近づく。

「それじゃあ、殺人ウィルスの在り処を吐いてもらうぜ……社長さんよう」

不破は白煙をかき分け、床に転がったMCXを蹴り飛ばすと、俯せに倒れた芙美江をタイラップで後ろ手に縛り、襟首を掴んで強引に引き起こした。




不破 the Desperado VS 山田 the Killer

【第5話:殺し屋は悪魔城を目指す】終わり

【第6話:窮鼠猫を噛む】に続く


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Written by 素浪汰 狩人 ~slaughtercult~


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