第44話 輝きを宿して
ヤマダと合流してすぐに教会に向かうと、すでに教会には多くのプレイヤーがいた。魔術師系統はサブで近接を取るかあるいは聖職者系統でさらに遠距離に特化するかになるので、信仰が密接に関わってくる聖職者達は大変だっただろう。
教会内は祈りを捧げるプレイヤーの姿が多く見える。
「登壇してる司祭に話しかけるんだっけ?」
「そうそう、それでレベル上限が解放される」
「ういうい」
二人で横並びになり祈りを捧げるプレイヤーの横をぬけながら司祭の元へと向かう。司祭の前にも何人かのプレイヤーが並んでおり、おそらく目的は俺と同じだろう。
装備やインベントリの中を確認したりして待っていると、すぐに順番が回ってきた。
「司祭様、おはようございます」
「おや、これはご丁寧にありがとうございます。本日はどのような……ふむ、貴方様も新たな力をお求めですね?」
「あ、はい、そうです」
メタな事を言うとレベルを参照して出た発言なのだろうが、なかなか驚いた。よく創作では相手の実力を一目見ただけではかれるような能力持ったキャラクターが出てきたりするが、これはそういったのに近いものを表現しているのだろう。
そもそも教会自体、大昔に女神様から星人の事を任されていることもあり、そういった星人の状態を知るのに長けた者がいてもおかしくなどない。
司祭が俺を手招きし、それに従って司祭の側による。彼が俺の頭に手を触れる何かを唱えると、ウィンドウが表示された。
『レベル上限が解放されました。30→99+』
「司祭様、ありがとうございます」
「いえいえ、貴方に女神様のご加護があらんことを」
祈りを捧げる司祭を背にヤマダと教会を後にする。
晴れてレベル上限が解放されたのでステータスを確認すると、レベルが34になっていた。ボス撃破の経験値、シナリオクリア経験値や昨日の経験値稼ぎも相まってかなり蓄積していたようだ。ヤマダのレベルも抜いたのでそれもポイントが高い。
ヤマダにやいのやいのと何かを言われたがとりあえず無視してインベントリから取り出したあのアイテムを確認する。やはり、テキストが変化しているようだ。
『星の結晶
"隠しジョブ:星輝士の修得。レベル上限解放一段階が必要。
界外の闇に棲まう世界を喰らう者の力を封じた結晶。渦巻く力は輝きを示し、力の新たな方向性を現す。身に宿した輝きは、闇を誘い打ち砕く力。"』
「なんだそれ?」
「ん?隠しジョブ修得アイテム。多分他にも手に入れてる人居るしこれからもどんどん手に入るけどな」
「はぁ!?」
まあ、ヤマダの驚きも分かるがこれはシナリオクリア者の特権だ、許せ。
新たなジョブ、星輝士。発音はせいきしだろうか?星の輝きなんて名前から聖騎士とはイントネーションが多少違いそうだが、発音する者がいないのでわからない。
それはともかく、響き的には騎士系統のようであり、おそらくは俺がアイテムを受け取った時点でのジョブに影響を受けていそうだ。
変化したフレーバーテキストも気になる点がある。女神様の話を聞いていた時は受け取ったこの力が目覚めるのだと思っていたが、誘うという事は俺の力に反応して封じられていた側が目覚めるという事だろう。そしてそれを打ち砕けるだけのポテンシャルも秘めている、と。
おそらく目覚めるのはワールドエネミーとして。ワールドエネミーが星輝士でないと倒せないなんて事はないだろうが、何か世界を喰らう者関連に対する特攻スキルでも覚えるのかもしれない。
とにかく、何かを期待させるジョブだ。迷わず結晶の使用を選択する。
パリンと結晶が砕け、塵のようになって消えてゆく。砕けた結晶から出た星喰いが纏っていたオーラのようなものが、俺の体に吸い込まれるように流れ込む。
『ジョブ:星輝士を修得しました。ステータスを確認してください』
ウィンドウに促されステータスを確認すると確かにジョブが星輝士になっていた。サブジョブに騎士が移動しており、新たなスキルも覚えている。とりあえず獲得したステータスポイントを振り分け、メニュー画面を閉じた。
「いいなー隠しいいなー」
「隠しつっても今まで隠されてただけでこっから先誰でも手に入れる機会あるっての」
女神様の言葉が確かなら、という前提ではあるが。
十中八九ワールドエネミーは世界を喰らう者と関わりがあると予想できるので、その撃破報酬で星の結晶は出るだろう。これから先の最前線はワールドエネミー討伐がメインコンテンツになりそうだし、就職者も増えそうだ。
隠しもクソもない。
「とりあえずレベル上げ行こうぜ」
「そうだな。アリー、パーティメンバーどうする?増やす?」
「まあ増やさなくてもいいんじゃない?経験値分散もするし二人でなんとかなるでしょ」
「そうだな」
二人で話し合いながら街門へと向かう。昨日は時間もなかったので行けなかったが、今日はピャーチ近郊にある遺跡へと向かう。
異世界といえば遺跡といった風に、遺跡はこういったRPGではポピュラーなダンジョンだ。
これから向かう遺跡は内部は複雑になっており、複数階層に分かれているらしい。階層ごとにボスが配置され、地下第八階層が最終地点らしい。下へ向かうほど敵のレベルが上がり、すでに第一階層時点でピャーチ周辺に出現するエネミーのレベルを超えているとか。
そしてこのダンジョンのはいま流行のインスタンス形式ではない。
昨今のゲームではインスタンス形式をとることが多くなっている。
フルダイブが普及し始めた時代、その時に最もリリースされたのは当然といえば当然だがオープンワールド型のゲームだ。ユーザーははその没入感から世界そのものに入り込む事を望み、開発者がそれに応えた結果だ。数多のオープンワールドゲームが世に産み出され、市場を席巻していた。
エリアの全てを全てのプレイヤーが共有し、インスタンス形式は基本的にとられていなかった。流石に複数サーバーに分けられるという事はあったが、基本的に全てのエリアがシームレスに繋がりサーバー内のプレイヤーは同じ大地に立っていた。
当然ゲーム故に人が多く集まる場所ができて人間同士の問題が多く発生。そもそもの問題としてサーバーリソースなどの少なさからマップも狭くなりがちだったオープンワールドは急速に廃れていく。
現在のフルダイブの主流は特定エリアのみを共有スペースとし、ダンジョンや戦闘フィールドはインスタンス形式が採られている。ディスプレイ式のゲームとの違いはフルダイブで自らが動くという以外にさしてないという状態にまでなってしまっていた。
その風潮に真っ向から喧嘩を売る形で世に出たのがこのゲームだ。
当然として発表当初は廃れたオープンワールドへの無謀な挑戦だとかなんだとか叩かれていたが、あるゲーム記事のβテストのレポートが全てを変えた。
β時点での行動可能範囲は、当然現在よりも狭かったのだが、その時点で過去にオープンワールドとしてリリースされたゲームの広さを上回っていたのだ。そもそも行動可能範囲としたが、それ自体も間違いであり実態はレベル制限がされていたせいで誰もその先に進めなかったというだけである。
それらの事や出来ることの多さ、細かさを詳細に書いたレポートは多く拡散され、そういった追い風を受けてこのゲームはリリースされたのだ。
だからこそ、
経験値の美味しい特定の狩場に居座って稼ぎ続けるということに対しても対策がされているらしく、そういった人気になりそうなスポット自体も多くあるようで徹底的に人同士のぶつかり合いを少なくしようという努力が垣間見える。
「やっぱすげえな」
「なんだよいきなり」
ゲームの歴史に想いを馳せていたんだよ。
「まあとりあえず行こうぜ、それなりにシナリオ自体はまだ期限あるしレベル上げしちまおう」
「そうだな」
そうして俺とヤマダはピャーチ近郊にある遺跡、『忘れられた墳墓』へと向かうのだった。
ネバーエンディングワールド トラツグミ @Erddrossel
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