第14話 困 ③
景色を見るでもなく、他のチームの女子をぼんやり眺めながら歩いていると、後ろから左肩を叩かれた。
振り返ると、青い眼鏡をかけた女子が立っていた。
「遅いっ!追いついちゃったじゃん」
真顔で言われ、咄嗟に口ごもる。
「ごめん」か「すいません」かどちらか言おうと考えている内に、眼鏡の奥の猫目が細められた。
「うっそー」
「へ?」
「あたし、№5の
「あ、ああ。はい。俺は…飛鳥川…猛」
「飛鳥川!カッコいい名前!いいねえ!猛ってのも強そう!んー、でも、名前より、大人しい感じだね!」
「あ、はあ」
としか、言いようがない。
鳳恵那は、何が可笑しいのか、きゃはは、と笑い、アシンメトリーのショートボブを漉くように搔き上げた。
背の低い彼女の後ろでは、№5、輜重隊のメンバーが、疲れた顔で大きなバックパックを担いでいて、その更に後方に管理者層が2つの塊に分かれて歩いているのが見えた。
「…からね。って、おおい、聞いてる?」
鳳恵那が目の前で手を振った。
「えっ?」
「だからあ、君達のチーム、全員男子でしょ?うちらの荷物、ちょっと持ってくんないかな?こんなに要らないと思うんだけど、捨てたら後ろの人達に怒られそうだし。お願い、あっ、いいでしょ?土海君。お願い!」
遅れた俺を気にしてか、いつの間にか土海が横に立って、ふうふう言っていた。
俺は改めて、鳳恵那が率いる輜重隊の連中を見た。
この光景、どっかで見たような…
頭の中で、写メをスライドするようにいくつかの光景が流れて行く。
あっ、これだ、そうだ、多分、昔歴史の教科書で見た、戦時中の疎開風景。
大勢の人が、大きな荷物を背負って列車に乗り込む画像が、頭の中でピタリと止まった。
「しかし…」
大きな体に小さな心(よく言えば生真面目)を持つ土海が困った顔をすると、鳳恵那は、腰に両手を当てて顎を上げた。
「しかし、じゃないわよ!どうせ、ボクたちは輜重隊じゃないから、とかいうんでしょ?知ってるわよそんなの。でも、箱の中に入るまでこんな足場が悪い道だって知らなかったんだからしょうがないじゃない!しかも、思ったより暑いし!」
何がしょうがないのか分からなかったが、鳳恵那がそういうと、土海は「うっ」と言って黙った。不思議なもので、断然鳳恵那の方が小柄なのに、土海の方が圧倒的に弱そうに見える。俺は、猫に翻弄される大型犬を想像した。
「じゃあ…」
「はい決定!」
「えっ?」「えっ?」
土海の言葉の途中に被せた鳳恵那の「決定」に、土海と俺は同時に驚きの声を上げた。
「どうせ、管理者層の許可を得たら、とかなんとか言うんでしょ?ホントちっさ。土海君、自分で責任取りたくない人だもんね。いいから、あたしが責任持つから。ってか、ULにはもう聞いてあるし。須賀川さんが、いいんじゃない、って言ってたから、多分大丈夫。よし。じゃあうちらの荷物の半分を持ってちょうだい」
そう言って、鳳恵那は開始早々へばっている自らのチームを手招きした。
結果、№5(輜重隊)の荷物を俺達№8が半分受け持つことになった。
最終的には、この件がなかったら、もっと早い段階で、発狂していたかもしれない。
今は、そう思う。
パンドラの棺 市川冬朗 @mifuyu_ichikawa
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