第13話 困 ➁

「難しいことを言う」

 隣を歩いていた人懐っこい目をした童顔の男が言った。

「えっ?」

「いやさ、さっき配られたポーチに入ってる食料、歩きながら食え、ってけっこう難しくない?」

「いやあ。あんまり…」

「えっ?そう?オレだけかな?初めまして、でもないけど、何回か顔見てるけど、一応、初めまして。オレ、水沢数馬みずさわかずま

 水沢はそう言うと、棒状に加工されたバーベキュー味のペーストを齧った。

 朝8時に富士南ベースを出発して、早4時間弱。

 部隊は箱の入り口から奥に向かって歩き出していた。

 と言っても、歩き出してまだ10分程度。

 周りの風景は何も変わらない。

 延々と草原が広がっているだけ。

 僅かでも差を見つけるとすれば、進むごとに少し草丈が高くなり、樹木の量も増えたぐらい。 

 各チームは適度な距離を取りながら散開し、歩いている。

 昼時ということもあって、支給されたポーチ(貸与された、か)の中に入っていた携行食料をめいめい食べながら。

 食べながら歩くのは、難しくはない。

 この仕事に応募する前は、そんなに機会もなかったが(屋台で買って食べる時ぐらい)、「4時間歩いて1時間休憩を3セット」という研修生活中、携行食料での食事が義務付けられていたから、すっかり慣れてしまった。

 ポーチの中から取り出した、レモン味のエネルギーゼリーを吸い込む。

 空腹感はあったが、遥か上空から照らす太陽の光を浴びながら、これから100㎞歩くことを考えると余り食欲が湧かなかった。

 レモンゼリーも半分ほど吸っと、キャップをし直し、すぐにポーチに仕舞った。

 右肩に背負った銃がなんとなく居心地が悪く、左肩に背負い直す。

 相変わらず、適温に保たれた服の中は涼しいが、首から上は箱の中でもそれなりに暑い。

 風でも吹けば、少しは違うのだろうが、箱の中は、外界と違い、ほとんど風がない。

 少し右斜め前を行く、チーム№4の面々は、支給されたタオル(白地に青でMDTと書かれている)でお互いの顔を煽りながら歩いている。

 嬌声も聞こえる。なんだか楽しそうだ。まるで散歩だ。

 それに比べて俺達は…

 チーム№8は、№4と違い、男性オンリー。 

 左右を見ても、そっぽ向いて歩いているか、探し物でもあるのか、地面を見ながらふらふら歩いている連中ばかり。

 唯一、リーダーの土海だけが、前を向いて、ふうふう言いながら真っ直ぐに歩いている。

 自分の所属するチームだけ、男子が多く、部隊全体では、いくらか女性の方が多い。 

 なんだか不思議な感じがした。

 自然災害や、克服出来ていない伝染性の病気で、失業率は徐々に積み重なり、直近では15%に及ぶ。それでも、仕事がないわけではない。俺だって、大学卒業以降、派遣会社に登録して、いくつかの職場で働いてきた。つい最近だって、失恋のショックで無気力になるまでは、短期で飲食店のキッチンで働いていた。

 周囲10mのコミュ障どもはともかく、他のチームの人間は、全員いいとこ20代、普通に仕事がありそうな気がする。中には、ちょっと真剣に悩まざるを得ないくらいの、美形も何人かいる。

 例えば、チーム№4の佐々堂柚希ささどうゆずきなんかがそうだ。

 透明というより、クリーム色に近い滑らかな肌をして、軽くパーマがかかった茶色い髪を持つ、360度、どこから見ても華奢な彼女は、物静かだが、髪よりも少し薄い茶色い大きな目をキラキラさせて、いつも愛嬌のある笑顔を浮かべている。

 チーム№は「4」所属だが、中学でも高校でも、少なくともクラスでは№1だろう。

 他にも、各チーム一人は、擦れ違ったら振り返るレベルの女子がいた。

 男にも、いろんなタイプがいて、いわゆる顔面偏差値高めも何人かいたが、正直興味がないので、名前までは把握出来ていない。

  

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