第12話 困
惑うばかりだ。
先に何があるかも、どれほど危険かも分からない道を、歩け、と言う。
未知の世界にワクワクするなんて、小中学生じゃあるまいし、ましてや、あえて危険に飛び込みたがる高校生もとっくに卒業した。
ゲームや物語の題材にはなりそうだが、あいにくこれはゲームじゃない。
改めて考えるまでもなく、ゲームや物語では、死は、自らに訪れない。
危険や強敵、死や魔法は、自分の身に起こることじゃないから、楽しめるのだ。
一人だったら絶対に拒否している。
いつかは死ぬにしても、こんな強制的な形で死にたくはない。
だが。
待てよ。
流れ作業で無造作に手渡された銃のカメラに自分の顔をスキャンさせ、登録認証を行いながら考える。
今、この箱の中には、1,300人からの武装し、装備を整えた人間が居る。
しかも、13部隊は最後尾だ。
「おいっ、早く受け取ってくれ。後がまだいるんだ」
CLの土海が差し出した、ショルダーベルト付きのポーチを考え事をしながら受け取る。
ベルトを右肩に背負うように掛け、同じようにしている100人の群れを見直した。
眠気と戦いながら受けた座学研修では、一部管理者層を除く、全ての部隊が同様の編成で、チーム1から3までと、6から8までが探索部隊で、チーム№4が、衛生部隊、チーム№5が、輜重隊。チーム№9が管理者直属、10はない、と言っていた。
UL3人、SV4人、PLが1人にSDSが2人。合計10人は管理者層だからだ。
全100人の内、3割が専守防衛隊、国家公務員で、残る7割がコマンドとは名ばかりの、3週間の研修を受けただけの派遣社員(つまり正式な訓練を受けた訳ではない烏合の衆。もちろん、自分を除外するつもりはない)だが、これだけの準備をして、100㎞歩くことにそこまで危険があるのだろうか。
このご時世に?
日本国内で?
杉堂の話によれば、危険があるとされる理由は、先行した部隊が帰って来なかった、ただそれだけ。
さすがに、先行部隊が、箱の奥に黄金郷を見つけて酒池肉林、任務を忘れているとか、道中で温泉見つけてひと風呂浴びたら帰りたくなくなったとか、そんなことを考える程、頭に蛆は湧いていない。
だがしかし。
先行部隊は、箱の中をピクニック気分で探索したら実は雪山登山だった、そう気づいた時には、奥に入り込み過ぎていた、と尤もらしいことは考えられる。
それは、十分に有り得そうな仮説だった。
それが楽観的だとは分かっていた。
でも、その時点では、道の先はまさに未知だったし、人間は、経験したことがない事象に対しては、どう言葉で伝えられても、無知に等しい。
ケンタッキーフライドチキンを食べたことがない人に、あの味を言葉で伝えられるだろうか?
俺は新しい事を始める時にお馴染みの漠然とした不安と、200万からの現金を天秤にかけ、形あるものを失わない方を選択した。
何が正しいかは、後になってからなんとでも言えるが、俺はこの時、それが完全に正しい選択だと思ったし、同じ立場に置かれたら、誰だってそうすると思う。
例え、彼女が実家に帰るのを必死に止めなかった過去があって後悔した経験があっても、だ。
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