第11話 混 ③

 俺は正直混乱していた。

 が、同時に納得もしていた。

 官民一体プロジェクトの求人。 

 研修込でおおよそ3か月。

 採用祝い金、破格の100万円。

 また、成功報酬100万円。

 守秘義務、場合によっては更に2か月の拘束期間在り。 

 社会保険なし。但し、傷病時、専守防衛隊付属病院にて無料で治療あり。 

 食事補助あり。 

 拘束期間中は、宿泊施設、あるいはそれに準じる場所を用意。

 生活消耗品類、完全支給。

 こんな条件、何かない訳がない。

 俺だって、冒頭の一行が無ければ全く信用しなかった。

 間違いなく、チラシを丸めて捨てていた。

 官民一体プロジェクト。

 だったら、少なくとも金は貰える、詐欺だとしても、金を取られることはない、そう思ったから応募したのだ。

 だから、まあ、やっぱりな、とは思った。

 詐欺、ではないだろう。

 ただ、不親切の度合いが過ぎると言えば、募集要項に『命の危険在り』の一文が抜けているぐらいか。

 だが、最近身に染みて思うのだが、世の中、個人に対してそこまで親切に出来ている訳じゃないし、知らない、気づかない、と騒いだところでどうにもならない事もあるのだ。実際、ほとんどそうだと思った方がいい。

 紫音に唐突にフラれた俺は、世の中の理不尽さにある程度耐性が出来ていた。

 だが、中には人生初の理不尽さに直面した人間もいたようだ。

「あ、あの!杉堂さん!いえ、PL!すいません!」

 声がした方に視線が集まる。

 お隣のお隣。

 №6チームの最前列。

 ふんわりカットのセミロングをした、背中、あるいは下着に世間知らずと書いてあるような気の弱そうな女子が中途半端に手を挙げていた。

 杉堂はその女子を知っているようで、名前で呼んだ。

「なんです?中浜さん」

 中浜と呼ばれた女子は、戦闘服で強調された細身の割りに存在感のある胸の辺りでお願いするように手を組み直すと言った。

「あ、あたし、そんな危険があるなんて知らなくて…い、今から辞める、契約解除するって出来ますか?」

「それは…銃器の研修受けといて、危険だと思わなかったと言われても…」

 杉堂が七川を見た。

 どうやら、七川は杉堂、いや、この部隊のブレーンらしい。

 七川が一歩前に出ると言った。

「中浜さん、杉堂さんが言った通り、研修を受けている以上、ある程度承知でなくてはここまで来れないでしょう?また、あなた、契約書読んでサインしてますよね?全て含みで我々は進行しているので、そう言われても困るんですが。まあ、一応、ここでリタイア出来ないこともありません」

「えっ、じゃあ…」

 言いかけた中浜を、七川が右手で制した。

「最後まで聞いてから決めた方が、あなたのためです。中浜さん。まず、採用祝い金ですが、全額返金してもらいます。また、採用から研修までかかった諸経費も、実費で請求します。これは、契約書に書いてあります。自己都合でプロジェクトを辞退するとき、全額補償します、とね。ちなみにこのお金については、ご自身の口座から強制的に徴収すると共に、不足分はご家族に請求致します。そして、ここからが重要ですが、この箱の入り口は、中からは開かない構造になっています。開けるためには、外に待機している14、15部隊にPL、SVから連絡する必要があるのですが、これは、最低一週間経過後でないと、実行できません。つまり、あなたがプロジェクトから抜けるのは勝手ですが、200万近いお金を返金し、なおかつ、最低1週間かそれ以上、独りでここにいる必要がある、そういう事になります」

 全員が静まり返った。

 中浜は、両手で口を抑え「おえっ」とえずいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る