第10話 混 ②
ざわざわざわ。
過去一ざわついた。
俺はそれなりに驚いたが、衝撃的という程でもなく(おそらく勘の良い方なんだろう。武器の研修を受けている時から、それを言うなら、いい条件で求人が掛けられている時から何となく、只では終わらない気がしていた)一緒にざわつく相手もいないので、永水愛羽が可愛い声で怒鳴ったり、船曳七穂が冷たい目で自分のチームのメンバーを一瞥するのに期待しつつ、杉堂の話の続きを待った。
なんせ、話は最後まで聞かないと分からない。
各CL達が管理者層に背中を向け、各自のチームのメンバーに静かにするように働きかけているが、あちこちで、「危険って聞いてた?」「マジ嘘だろ?箱の地図を作るって聞いてたんだけど」「いや、ありえないっしょ」「危険て、道が舗装されてないとか?」等々、てんで好き勝手に会話がされている。
俺は、ちらり、と永水ULを見た。
特にそういう趣味がある訳でもないが、ショートカットの可愛い顔した女子が、一生懸命怒鳴り散らしたり罵声を浴びせているのを見るのは、それはそれで悪くない。その罵声の対象が、自分個人限定でない限り。
だが、見ると永水ULは青白い顔で、唇を噛み締めたまま、前後に揺れている。
あれは、貧血なんじゃないか?
そう思って、土海に伝えようとしたが、SVの倉橋も気づいた様で、永水愛羽に近づくと、肩を抱くようにして奥に連れて行き、常に後ろに控える美少女二人組に永水を託した。
パン、パン、パン。
今回ざわつきを押さえたのは、大きく三回打ち鳴らされた手拍子だった。
ゆっくり大きく鳴り響いた音に、自然、視線が集まる。
管理者層、中心にいてのんびり構えている杉堂から少し離れて、顎を上げ、こちら側を見下すようにしている冷たい目をした女性が、音の発信源だった。
しーん。
静まり返ったコマンド、CLを見て細い顎を満足げに頷かせると、柊SVは、杉堂に右掌を差し出す仕草で先を促した。
杉堂が頷く。
「ええ、ん、と。どこまで話しましたっけ?」
杉堂が言うと、後ろから「危険、です」と七川がフォローを出した。
「ああ、そうそう。危険、ですね。まあ、箱の奥か、はたまた、途中にあるかは分かりませんが、何か物を取って来るのはいいとして、危険があることはお伝えしたい。そう思って行動して欲しいし、そう思って命令に従って欲しいからです。ちなみに、何かあるのはほぼ、確かですが、何があるのかは、私も知りません。それと、危険なことも、多分そうだろう、と思われますが、何が危険かも知りません。ただ、さっきうっかり外で言いかけたのですが、今回のプロジェクト、通称PBPJと言うのですが、実は今日箱に入った第13までの部隊より以前に、入った部隊がいるのです。そのころは、こんな大掛かりなことになるとは思っていなくて、プロジェクトの名前も付いていませんでしたし、部隊に番号も振られず、単に、『富士南エリアにおける未知の建造物探索用特務部隊』とか呼ばれていました。その部隊は、1か月ちょっと前に箱に入り、それきり帰って来ませんでした。その部隊が、実際どうなったかは、私も知りません。一応、今回の探索の対象に含まれていないこともないことはないのですが、プライオリティーは低いです。プロジェクトの上層部の見解では、全滅したのだろう、と言われています。最後の通信に、激しい戦闘音が入っていたとか、いないとか。まあ、そういうことです。なので、皆さん、これから先は、我々の指示に従って下さい」
杉堂はそう言うと、言い切ったことに満足したように大きく頷いた。
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