第9話 混 ①
「ちっ、まったく何だってんだよ。整列整列って。さっさと行きゃいいのに」
CLの土海の曖昧な手ぶりで再び整列させられた後で、横に立った男が言った。
くりくりした大きな目ときれいな鼻筋、おかっぱ頭が特徴的な男だ。
もちろん、親しくはないが、やたら独り言の多い男だという印象はあった。
しかも、大抵、毒づいている。
「しっ!」
土海が振り返ると人差し指を唇に当て、大きな体の割りに小さな声で葉山を注意した。
言われた事は、素直に従うが、なんだかんだと遅々として進まないことには確かに多少ストレスを感じる。
これから箱内を探索し、最奥部まで行って帰ってくるだけのことに、どれだけ時間をかけるのか。
でもまあ。
このご時世、派遣にしては相当割のいい仕事だし、この仕事が終わった所で、別に次の予定や、日々の予定、人生の予定がある訳じゃない。
じゃあ、まあいいか、そう思って首の後ろを掻きつつ、正面に不規則に並んだ管理者層が何らかの訓示を垂れるのを待った。
「皆さん」
杉堂にカベさんと呼ばれていた無造作に長髪をまとめた眼鏡の男が、後ろ手で胸を張り、話し始めた。
「これから、武器を支給します。一応、知ってるとは思いますが念のため。各自に支給されるアサルトライフルは、プロジェクト特製のライフルで、支給された個人にしか使えません。つまり、生体式個人認証です。あくまで貸与ですので、差し上げる訳でもありません。丁寧に使って下さい。あと、銃に限らず、武器類は勝手に使用しないでください。場合によって、使用命令の権限者は変わりますが、基本的にはCL以上の指示で使用可能です。もちろん、あらゆる武器類には、第1から第13部隊までの全員が登録してあり、誤射や暴発、誤爆発が起きないようにしてはありますが、気をつけて使って下さい。私からは以上です」
カベさんが、一歩下がった。
それぞれのチームのCLの横に銃が運び込まれたBOXから出され、専用ラックに立てかけられている。
その後ろには、おそらくその他の支給品が入っているのであろう、緑色の無骨なリュックが積んである。
わざわざそんなことを言うために整列させたのだろうか。
この社会が如何に無駄で溢れているかの、いい事例だ、そう思った。
そんな俺の心を見透かすように、杉堂が一歩前に出て、話し始めた。
「ええ、と。七川さん、もうしゃべっていいんですよね?」
杉堂は、右斜め後ろを振り返ると、七川に聞いた。
七川が、小さく頷く。
「ええ、と。皆さん、なんでこんな何回も整列すんだ、とか思ってらっしゃると思います。基本的には、これで最後です。多分。さっき言った通り、これから箱の中を探索して、100㎞先まで行って戻って来るのが我々の任務です。もちろん、他の部隊もそうです。ただ、まだ今まで皆さんにお伝えしてないことが二つあります。それは、まず、目的は実は単に箱の探索ではなくて、100㎞先、最奥部にあるであろう物を回収してくること、それと、勘の良い方はすでに気付いているかもしれませんが、箱の中は未知である、だけじゃなく、危険だろう、ということです」
杉堂はごく、のんびりとバーベキューのお知らせでもするかの様に言ったが、聞いた側はそうもいかなかった。
俺も御多分に漏れず、その一人だった。
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