『寝ながら学べる構造主義』の紹介

マゼンタ

読書で考える新型コロナウイルスとの共存

 コロナ禍。休業要請や外出自粛により繁華街や観光地から人々が遠ざかりました。ゴーストタウンと化した街を目の当たりにして私は、まるで物語のようだと戸惑うほどでした。

 パンデミックを扱った小説といえば、カミュの『ペスト』が有名だと思います。その他にも、小松左京の『復活の日』という作品もあります。新型コロナに関する作品であれば、湊櫻の『ダイヤモンド・プリンセス乗船手記 ~あの日、船内で起きていたこと~』が面白いです。


 小説の題材になるような空想めいた世界設定が現実を支配しました。渦中の手記は早々に電子書籍化されました。

 私を含めほとんどの人が、家に閉じ込められ、趣味を自粛され、娯楽を奪われたと思います。

 悉皆、巣籠りを余儀なくされましたが、2020年6月下旬ともなると、休業要請は概ね解除され、大手を振って県外へ移動できるようになりました。じわじわと、ではありますが窮屈な生活を脱しつつあるようです。


 前置きが長くなってしまいましたが、ここで紹介する『寝ながら学べる構造主義』は哲学の本です。コロナ禍で行動が規制されても、思考は規制されない。だからこそ、自由に考え、コロナ禍に適応しようというのが、この文章の趣旨です。

 哲学というと難しく感じるかもしれませんが、わかりやすく解説した本がたくさんあります。『寝ながら学べる構造主義』もその一つで、読めばコペルニクス的転回、待ったなし! です。


“たしかにすべての出来事は単線的な「進化」という「物語」の中に整序されるでしょう。私たちは無意識のうちに歴史は一直線に「いま・ここ・私」をめざして進化の歴程を粛々と歩んできた、という考え方になじんでいます。(中略)

 しかし、ほんとうにそんなふうに考えてしまってよいのでしょうか?”

引用:内田樹著 寝ながら学べる構造主義 第三章 「四銃士」活躍す その一 ──フーコーと系譜学的思考


 この文を読んで、私は、考え方が180度変わりました。戦争や天災から学んだ教訓を活かして日本もしくは世界は進化していると信じて疑いませんでしたが、それは幻想でした。過去に、スペイン風邪やSARSの流行があったにも関わらず、今回、新型コロナウイルスは大混乱を引き起こしました。

 現代社会は意外と繊弱でした。


 不幸中の幸いですが、このコペルニクス的転回を私達は、自粛生活を通して経験しました。国に引きこもれといわれ、生活は180度、とは言わないまでも、大きく変わりました。その中で、意外な発見をした人は多いと思いますし、楽しさを再認識した人も多いはずです。私個人としては、スポーツの観客導入が恋しい限りです。良いことばかりではないと思いますが、ここでは利点に目を向けて頂きたいと思います。


 外出自粛は、つまり、考え方におけるコペルニクス的転回です。

 老若男女問わず、身をもって経験した今だからこそ、誰もが『寝ながら学べる構造主義』から得られる感動を味わえると思えます。また、その価値をわかって頂けると思います。この本を手に取れば、目から鱗が落ちること間違いなしです。


 頭の中で、コペルニクス的転回が起きるということは、自由に考えているつもりでも、意外と思い込みが激しいということの証左でもあります。前述の私の体験がいい例です。しかし、現代社会は繊弱であるということに一度気付いてしまえば、無人の街に戸惑うこともありません。そして、これこそが、コロナ禍に適応した心境であると思います。


 新しい時代に順応するためには、私のように、まずは知らず知らずと信じている何かに気付く必要があります。私の言いたいことは融通無碍という言葉に尽きますが、実践するためには、哲学が役に立ち、特に『寝ながら学べる構造主義』がおすすめですので、この場を借りて、紹介させて頂きました。

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