答え
増田朋美
答え
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今日は、とにかく暑い日で、エアコンをひっ切りなしに稼働させて、みんな、暑い暑いと言い続けている日であった。それでも、暑い日々は、続いていくのであるから、子供が歌っている、夏はとっても素敵だなという歌が、何だかむなしく聞こえるなという感じであった。
そんな中、今日は、本当におかしな日だったなと、美姫は思うのだった。美姫は、その日、何をしようか、というより、もうこの世の中で、必要とされていないのだから、どうやって自分の存在を、消してしまおうかと考えた。もし、誰かをやるんだったら、自分をやれという言葉を、しっかり記憶している。だけど、自分を傷つけたりすると、今度はおやからもらった大事な体何だから、などというような、そういう倫理観が持ち込まれてきて、それもダメになってしまう。美姫からしてみたら、そういうことを、してはいけないと言われてもいい迷惑なだけである。他人を傷つけるわけではないのだから、嫌いな自分を傷つけることくらい、やらせてくれればいいのになと思う。
だって、誰かを傷つけたわけではないのだから、自分を傷つけるのを、止めろなんて、そういうことをいうのは、おかしなところだった。自分には、通う場所もないし、行くところもないし、住むところもない。もう、自宅しか、いるところがないという感じだった。美姫は、仕事もないし、学校にも行っていない。学校という所に、戻りたくもないし、かと言って、社会の一員として、生活することもない。それでは、もう何も変わらないし、自分の人生は終わりだと思う。若いうちに死んでおけば、それでよかったことにしてくれるから、もう美姫は、自分の人生を終わりにしたいと考えていた。
その日、美姫は、ちょっとたばこを買いに、近所のたばこ屋さんに出かけた。たばこは、自分を癒してくれる唯一の友だった。それは、つらいと日ごろから感じている彼女の心を、慰めてくれるような気がした。
「いらっしゃいませ。」
と、タバコ屋さんのおばさんが、にこやかに迎えてくれる。
「ああ、あの、セブンスターを一カートンいただけますか。」
美姫は、おばさんにそういうことを言った。去年までは、マイルドセブンを吸っていた。でも、だんだん、それでは、心が落ち着かなくなるようになって、さらにニコチンの量が濃い、セブンスターを吸うようになっている。
「はい、セブンスターね。」
と、おばさんは、にこやかに笑って、たばこを一カートン取ってくれる。美姫は五千円札を出して、代金を支払い、お釣りをもらって、商品であるたばこをもらった。おばさんは、やれやれという顔をしている。こんな若い女の子が、こんな濃いたばこを買っていくのかと、あきれているのだろうか。でも、美姫にはこれが必要だ。三日で一カートンは空になる。
「ありがとうございました。」
と、美姫は、そういって、袋に入ったたばこをもって、おばさんの店を後にした。
おばさんの店から少し離れたところに、バラ公園があった。美姫は、そこのベンチに座って、思う存分たばこを吸った。そこでたばこを吸うのが、彼女の唯一の楽しみである。
しかし、美姫が来たのと反対方向から、一人の男性がやってきた。美姫は、その彼がちょっと普通のひととは違うなあということを、すぐに感じ取った。その人の目は垂れ下がっていたし、口は半開きに開いていた。そして、歩き方も、何だかアシカみたいに、よたよたと歩いてくるのであった。頭には、野球帽をかぶって、子供っぽいキャラクターのTシャツと、半ズボンをはいて、子供っぽい色のスニーカーをはいている。彼は、にこやかな顔をして、美姫に何か言ったが、何を言っているかということは、わからなかった。何か自分に好意的なことを話してくれているのはわかっているけれど、美姫には何をしていいのかわからない。彼は一生懸命話しかけているけれど、美姫はただ、わけのわからない言葉を話しているだけのようで、何もわからなかった。それでは、彼にとっていけないことなのかもしれないが、彼のことを好意的には思えなかった。ただ気持ち悪い顔をして、何を言っているのかわからない。しかし、言葉の発音が、なんだか疑問点を述べていたのか、ちょっと上がり気味のイントネーションだったため、美姫は、あ、はい。とだけ答えた。
すると、その男性は、美姫にぴったり抱き着いてきた。美姫がたばこを吸っていたら、彼は間違いなくやけどするだろうが、そういうことはなかった。たばこが熱いということはわかっていたのだろうが、わかっているのは、少なくとも、それだけだったのかもしれない。
「ちょっと!何するんですか!」
と美姫は口に出していったが、その人は、抱き着いてくるのをやめなかった。美姫の顔をべたべたと撫でまわして、とても気持ちが悪かった。
「やめてください!」
と思わず彼を殴って突き飛ばすと、彼は、どしんと仰向けにひっくり返って、小さな子供みたいに、わーんと泣き出すのだ。それを聞きつけたのか、一人の男性が、彼のもとにやってきて
「ほら、佐藤さん、そうなるんですから、ちゃんとみんなの中にいてください。どっかに行ったりしないでくださいよ。」
と言って彼を抱え起こして、足についた擦り傷を確認して、
「ほらあ、こんなことして。擦り傷だけでよかったですね。すぐに、センターに戻って、消毒しましょうね。ほら、立って。」
と、彼を立たせた。彼は、泣きながら立ち上がった。そして、ほらと言って手を差し出した男性に引っ張られながら、元来た道を戻っていった。
「私には、謝罪の言葉もないのね。」
と美姫はぼそっとつぶやく。彼女には、確かに、男性指導員は、彼女に対しては何も言わなかった。かれが、美姫に何をしたのか、説明することもなかったし、もし彼が話せる人であったら、男性指導員が、彼に対してどういうだろうか。なんで私には、謝罪もないし、彼のしたことも、簡単にああやってなかったことにしてしまうのだろうか。何だかそんなことを考えると、美姫は、何だか怒りのようなものが生じてしまうのだ。なんでああいう人は、私に対してしたことに、叱られるどころか、話をさせてもくれないのだろうか。もちろん、言葉がしゃべれないのはわかるが、せめて状況を説明して、私に謝ってほしい。障害のあるからと言って、そういうことまで免除されるの?違うでしょう?人間は平等ではないの?それでは、おかしいじゃないの。なんで私にしでかしたことを謝ってもくれないの?
と、美姫の思いは、頭の中を頷く。
「そうなんだ。ああいう人は、特別なんだ。」
美姫は、そういうことを口の中で言った。以前、図書館で借りた本に、知的障害のある少女が、学校に転校してきたという小説を読んだことがあった。その小説では、知的障害のある女の子がまるで学校崩壊を救った、救いの天使みたいなイメージで描かれていたが、今の現状を眺めたら、美姫は、そんなイメージがまるで持てなかった。知的障害のある人なんて、意思も伝えられないどころか、こういう犯罪的な行為をしても自分で説明できないし、そして、被害者に謝罪することもできない。そういう存在だった。美姫は、そんなのが、あの小説と同じようにふるまえることはまるでできそうにないと思った。本ではきれいごと見たいに書かれているけど、そんなこと、障碍者にもちゃんと教育しなければ、いけないと思う。そうなるためには、たたいたり殴ったりしてもいいのではないか。美姫はそう思ってしまった。
まあ、今日あったことを、話をする人もいないんだし、自分自身も、家に帰ればただの定職についていないダメな人間と言われ続けるんだろうなと思う。怒りを表す場所もない。美姫は自分のほほを左手でぱちんと打って、たばこを吸いながら家に帰っていった。
家に帰ると、やっぱり、お母さんが、美姫に嫌味を言う。美姫、何をフラフラしているの、お母さんたちだって働けるのもあとわずかなのよ、と、いう。美姫は、自分も消えたいとおもった。その前に車の免許を取らせてくれと言えば、お母さんは、反対する。だって精神科の薬を飲んでいるじゃないのという。そういう時に限って、医者のいうことは絶対的なのだ。そうなると、美姫はまた怒りがわいてくる。親は嫌味を言うくせに、医者や学校の先生には頭を下げて猫かぶって。誰も、信じることなんてできやしないわよ。と美姫は思った。お母さんに、もうそれ以上言わなくていいわ、仕事なら探すからと言って、とりあえず自分のほほを打って、部屋に入るのだった。
美姫は、うるさいヒップホップを聞きながら、布団に横になった。毎日、ワイン一リットルと、睡眠薬が眠気を誘ってくれる。眠っているときが一番幸せである。家の人に、働けとうるさく言われることもないし、自分が働いていなくてみじめだとなく必要もない。美姫は、隠し持っていたワインをがぶ飲みして、睡眠薬を大量に飲む。それが提供してくれる、浮遊感はたまらない。それを求めて一緒に死ねたら最高なのになと思う。うるさいヒップホップの音を聞きながら、美姫は自分の思っているわだかまりから逃げるために、ぐるぐると回るような、何とも言えない気持ちよさを、感じているのであった。
「美姫!何しているの、ボリューム下げなさい!」
お母さんの声で、美姫は目を覚ます。せっかく、世界で一つだけの幸せに入り浸っていた所なのに。美姫は、急いでステレオの電源スイッチを切った。続きをやろうと思ったが、もうワインの瓶は空っぽだっだし、睡眠薬の残りもない。あーあ、結局、こうなってしまうのか。と、美姫は思いながら、財布を取った。まだ今月分の小遣いは、安物のワインであれば買いに行くことができる。美姫は、続きをやるために、買いに行くことにした。たばこは三日間で一カートンが空になるが、酒瓶は一日で空になる。だから、二万円もらっている小遣いはすべて、酒とたばこを買うために用意されているようなものだ。
美姫は部屋を出て、お母さんに仕事を探してくるわと言って、家を出た。お母さんももしかしたら自分が嘘をついていることを知っているかもしれない。でも、お母さんは見逃してくれている。現実問題、今の生活はろくなことがないし、楽しいことも何もないから、嘘の世界では、自分はうんと活躍していることにしている。だから人に話すときは、工場で事務をしているとか、そういうことを話している。其れのせいで、余計に、社会のひととの距離を取ってしまうようになるのだが、親は先に死んでしまうのに、なんで自分の将来を考えないんだというお説教を聞くよりよほどいい。そのお説教ほど、美姫が聞きたくない言葉はない。そんな言葉を聞かされるんだったら、美姫は自殺しようと思っている。
とりあえず道路を歩いて、大きな酒屋さんに行って、安物のワインを一瓶買う。それだけでいい。おいしいとかまずいとかそんなの関係ない。本当は毒でも入っていてくれればいいのに。そう思いながら美姫はお釣りを払う。
美姫は、家にすぐ帰る気にはならなかった。すぐに、家に帰ったらまたお母さんが変なことを言いそうな気がする。せめて嘘の世界では、仕事を探していることにしたい。本当は、できていないのに。あやしまわれないようにするために、美姫はまた公園に行った。そこで、また、安物のワインの栓を開け、がぶっと一気に飲み干した。もう現実を変えることもできないし、自分を変えることだってできないのだ。変われるというのは、経済的に余裕があって、しっかり話ができる人だけだ。自分は車がないから、家を出てどこかに行くことも、つまり支援センターのようなところに行くこともできないので、変わることもできない。
早く死にたい、と美姫は思いながら、またワインを飲んだ。もう私の人生はおしまいなんだ。早くこんな人生終わりにしてしまいたい。もしよかったら今日実行してしまおうか。ああそうだ、そうしよう。確か、この近くに立てかけのショッピングモールがあったはずだ。どうせ私は、そこで物を買うしかできることもないだろう。買うしかできない人間のつらさは、人にはわからないと思う。ものを作るとか、ものを売るとか、そういう立場になることになったら、また人生も変わるだろうけど、ものを買うしか社会参加できないというのも、つらいものがあるのだ。そうだ、そうしよう。よし、これだけ気持ち良くしてくれたお酒とたばこに感謝して、私は、もう人生を終わりにしよう。美姫は、立てかけのショッピングモールに向かって歩き始めた。そこの機材に巻き込まれるか、たてかけのショッピングモールに侵入して、人目のつかないところで飛び降りる。それで自分の人生を終わりにできる。それでは、やっと悪人だった自分は、もうこの人生から解放されるんだ。ああよかった。それでは、やっと楽になれるのではないか。もう、いるだけでつらい思いをすることもないし、誰かにお説教をさせられる心配もない。どうせ、知り合いなんて、スマートフォンを通して知り合った、性交渉と、彼女の自慢をするためだけに、しつこく会ってと言ってくる男性しかいない。だから私がいなくたって、悲しむ人なんていない。よし、やっとこの人生を終わりにできる。ああ、うれしいなあ。なんてうれしいでしょう。
そんなことを思いながら、美姫は建てかけのショッピングモールに向かった。
美姫がふらふらしながら横断歩道を渡ろうとすると、
「あああああああ、ああああああ、」
という声が聞こえてくるのである。誰かがしゃべっているのだろうか。まあ、誰かが立ち話でもしているのか、と美姫は思ったが、その声がどんどん大きくなり、誰かが、走ってくる音が聞こえてくるので怖くなって、横断歩道を渡ることができなくなった。
「あああああああ、ああああああ、ああああああ、あああああ、」
と、声は聞こえてくる。ちょっとまって佐藤さんという声も聞こえてきた。今度は、男性であった。美姫は、誰がしゃべっているのか、うるさいと思って後ろを振り向いた。その時、車が、すごいスピードで走り去っていった。
「あああああああ、ああああああ、あんなああんなああんなあ、」
と男性はそういうことを言いながら美姫のそばに駆け寄ってきた。美姫は、何を言っているのかわからない。その男性は、先日、自分に抱き着いてきた、あの時の男性だ。美姫はそれを見て、逃げようという気持ちがなぜか起こらず、その場にとどまってしまった。なぜかというとその男性が、本当に真剣そのものだという顔だったからである。
「あんなあ、あんなあ、あんなあ、あんなあ、」
どうやら言葉を伝えたいようだが、意思が伝えられないらしい。なんの単語を言おうとしているか、正直わからないのだろうか。それとも、伝えたい気持ちがあって、それを言いたいが言葉が探せない状態だろうか。
「ああ、すみません、すみません。」
そういう事を言いながら、もう一人の男性がやってきた。彼も足が悪いのか、右足を引きずっている。なんだ、健康な人が介助しないのか。言葉がまったく言えないのなら、ちゃんとそのように、介助すればいいのにと、思ってしまうのであるが。そういう人のなり手がいないということだろうか。
「申し訳ありません。彼はあなたが赤信号なのに道路を渡ろうとしていたので、危ないと思って、あなたを止めようとしただけです。それだけのことです。」
と介助していた足の悪い人は、そういうことを言ったのだ。よし、こうなったら、私が、しっかりとあったことを言ってしまおう。と思って美姫は、
「こないだはひどいことをしてくれましたね。私を強姦して、お金でも取ろうと思ったんじゃないですか?私は、それで、ひどい目に合ったんですよ。それをどうしてくれるんですか!」
と、介助していた人にそういった。
「ああ、申し訳ありません。ちゃんとあなたに事情を説明するべきでした。彼はあなたが、一人ぼっちでたばこを吸っているのを見て、かわいそうだと思って声をかけただけのことです。彼には何も悪いことはありません。ちゃんと伝わらずに申し訳ないです。」
と、介助していた人は、申し訳なさそうに、美姫に謝った。美姫は、介助している人が謝るのではなく、彼自身が謝ってほしいと思ったのだが、美姫は、それを口にできなかった。
「あの、よろしかったらの話ですが。」
と、介助していた男性が、にこやかな顔をして、美姫に言った。
「お茶代はこっちで出しますから、公園のカフェでお茶でも飲んでいきませんか。先日あなたにしたことも、彼は謝りたいというと思います。」
「ああ、、、。そうですか。」
美姫は、彼に従わなければだめだと思った。その男性は、本当に真剣そのもので、美姫のことを実の家族以上に心配していることが分かったのである。
そして美姫も、そんな風に、真剣な顔をされたことは、今まで一度もなかったのだ。美姫はうれしいやら、悲しいやら、悔しいやら、複雑な気持ちを抱えながら、はいとその二人にしたがって、お茶を飲みに行くことにした。
美姫たちは、バラ公園の中にあるカフェに入った。ちょうど、晩御飯の支度をしている時間帯でもあり、客はあまりいなかった。美姫と、二人の男性は、マスターに連れられて、一番奥の席に座った。
「まず、名前を名乗らなきゃなりませんね。僕は吉田素雄と申します。一応、これでも、訪問介護人をやっています。」
そういって、介助していた男性は、名刺をちらりと見せた。ということは、何だか老々介護みたいで、
おかしな話だよなと思う。
「ああそして、この人は、名前を佐藤信二君と言います。佐藤君は、ダウン症を持っていまして、かなり重度の知的障害がございます。」
と、素雄さんは説明した。美姫は、
「あの、知的障害があるからと言って、私にこの間したことを、謝らないで済むかということはないと思うんですけど。あなた、私に、無理やり性交渉しようと、求めてきたでしょ。それを、しっかり謝罪してくれませんか。私は、被害者なんです。知的障害があるからと言って、それを許してやってくれということは到底できませんね!」
と、ちょっときつい口調で言った。それが佐藤君に伝わったかどうかは不詳だが、佐藤君は美姫の表情を見て、その顔が一気に涙をこぼした。
「あのですね、泣けば解決するとか、そういうことは大間違いですのよ!私にしたことを謝ってください!そしてもう二度とやたらと女性と性交渉を求めてこないように、あなたも指導して下さい。」
美姫がそういうと、素雄さんは、では、本人に聞いてみましょうかといった。そんなこと言葉が出ないから、できるはずがないと美姫は言ったが、素雄さんはそんなことはかまわず質問を開始した。
「佐藤さんは、今ここにいる女の人に、なぜ、声をかけたんですか?彼女が、かわいかったから?」
佐藤さんは、激しく首を横に振る。
「では、彼女と恋愛関係になって、彼女の体に触りたいと思ったのですか?」
また佐藤さんは激しく首を振った。なぜあなたはそのようなことをしたのか、という形態の質問はできないらしい。それができないのが何ともじれったかった。
「彼女のことを、かわいそうだと思いましたか?」
と素雄さんが言うと、佐藤さんは、すぐに涙が止まって、にこやかな顔になった。気持ちをわかってくれると思ったら、受け答えは、比較的楽になるのだった。
「彼女が、一人でいたので、友達になりたいと思ったのですか?」
素雄さんが聞くと、佐藤さんはさらににこやかな顔になる。
「そうですか。確かに佐藤さんも、家に一人でいるわけですからそういう気持ちになりたいですよね。」
素雄さんはそういうことを言った。美姫はえっという気持ちになる。だって知的障害があるとなると、必ず誰かの手を借りなければ生きていけないだろうし、複数の介助者がチームを組んで障害者にせっすることもあると思う。そういうことを理解しないで生きている知的障害者に、美姫は嫉妬さえ感じたことがある。其れなのに、佐藤さんは家に一人でいるというのだろうか。
「ええ、佐藤さんは、知的障害があるからと言って、お父様から勘当されてしまいましてね、ずっとアパートで一人暮らしなんです。健康な人は、そうやって逃げることができますよ。でも、彼にはそんなことができませんから、僕たちが、こうして世話をしなければならないんですよ。」
と、素雄さんが、静かに言った。それを聞いて美姫は、佐藤さんがかわいそうになった。自分も、家の中にいる。そして居場所がない。
「そうなんですか。」
と、美姫は、にっこり笑っている佐藤さんにそういうことを言った。
「あなたも、一人ぼっちで、寂しい思いをしていたんですね。」
佐藤さんに通じたかどうかは不詳だが、美姫は、それだけは伝えておきたかった。
「私たち、仲間なんですね。」
佐藤さんの満面の笑みがその答えだと思った。
答え 増田朋美 @masubuchi4996
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