神々の嘆き

流々(るる)

2020年・夏

 まったく。

 暑くってやってらんねぇなぁ。

 しかもこんなことになっちまうなんて……。

 あんただって同業者みたいなもんだから分かるだろ?


 十年前にこの街へ赴任してきたときには、ちょろい仕事だとたかをくくってたんだ。

 狭いところに大勢の人間がひしめき合って暮らしているんだから。

 あの頃の俺に言ってやりたいよ。

「油断するんじゃねえぞ」ってな。


 思ったよりこの街の人間は賢かったんだな。

 なかなか成績が上がらなくて、色々な方法も試してみたんだよ。

 年寄だけを相手にしたり、逆に若い奴らにターゲットを絞ったり。

 それでも思うようには数字が上がらない。


 しまいにゃ、も怒っちまってさ。

「お前には任せておけん!」って、こってり絞られたよ。

 配置換えも覚悟してたところへ、この騒ぎさ。




 ウイルスだか何だか知らねえけどさ、これは意図的に造られたものじゃねえかって気がしてんだよ。

 だって、あまりにタイミングが良すぎるだろ?


 あっという間に世界中へ広まっちまって。

 おかげで途端に仕事がやりやすくなったよ。

 俺の仲間じゃあまりの忙しさでてんてこ舞いなヤツもいるくらいだ。

 あんたんところもそうだろ?



 馬鹿な人間を見つけやすくなったし。



 さて、と。

 もう一仕事するか。

 悪かったな。無駄話につき合わせて。



 腹の底からめんどくさそうなため息をつき、はギラリと光る大きな鎌を右肩に担ぐ。


「あんたの仕事も溜まってるんだろ。じゃ、またな」


 そう言うとフードを深くかぶり直して左手を軽く上げ、歩き出したに背を向けた。

 

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