勇者と魔王の、戦闘ではなく『戦争』

 勇者によって滅ぼされた魔族の国の皇帝が、王国再建のために奮闘する物語。
 皇帝一族の勇者への復讐劇でもありますし、また魔族を討伐した勇者の作った王国のお話でもあります。総じて歴史群像劇の一部というか、大局的な視点から歴史を眺めるといった趣の作品で、とても一万字の短編とは思えない壮大さがありました。
 紹介文によれば別の長編作品のスピンオフとのことで、なるほど大きな物語とのつながりを予感させる内容でありながら、でもあくまで単体の作品としてきっちり完結しているところが素敵です。
 個人間の因縁であったり国家の興亡であったり、いろいろな側面から楽しめる物語なのですが、ちょっと本筋そのものからは離れた魅力として、魔族の種としての特徴(設定)が好きです。人と比べて長命であり、また実力に比例して成長速度が遅くなる、という生物的特性。人間である勇者との戦にあたって、必然的にその特性を踏まえた戦略を練るというのもあるけどでもそれ以前にみんな必然的に美少年という、ただ純粋に「YES」と強く頷くしかない設定。好きです。堪能させていただきました。