12. マリアンヌ、君と一緒に進んでいけたら少しは楽しいかもって思えたんだ
「何から何まで勝手に決めちゃったけど。
これで良かったんだよね、聖女様?」
森の中を歩きながら。
デューク殿下は確認します。
「何がですか?」
「ヴォン殿下たち」
「ああ……。
デューク殿下が決めたことですからね。
その意志を尊重しますよ」
「寛大な措置、感謝しますよ聖女様。
聖女様に対するあの者たちの態度は、本当に取り返しのつかないものだった。
全員一族郎党皆殺しにしろ、と言われてもおかしくないほどなんだ。」
――この国では、聖女の地位はどうなっているんでしょうかね!?
小心者の私は、ちょっと恐ろしくなってきましたよ。
「ねえ」
「なんですか、聖女様?」
「その……。聖女様っていうの、止めてくれない?」
距離を置かれてるみたいで寂しいから。
しょんぼりしながら、そうお願いしてみると
「もちろんだ。
もともと、そのつもりだった。
言っただろ。"公の場"ではちゃんと猫を被るって?」
あの場は公の場だったのでしょうか?
曲がりなりにも罪人の処置を独断で決めたわけで、確かに公の場とも言えますね。
「マリアンヌって呼んで良い?」
「ええ」
「僕のことも『デューク』って呼び捨てでお願い」
キラキラっとした無邪気な笑顔で、そんなことを言ってきました。
たかだか、呼び方1つですが距離が一気に縮んだような気がしますね。
「デューク」
「なーに?」
「……お腹がすきました」
「焼けるまで時間かかりそうだから、もうちょっと待ってね」
くるり、くるりと。
デュークは串刺しにされたドラゴンにお肉をひっくり返します。
そう、目の前ではデュークが惨殺した例のドラゴンが焼かれています。
ぱっと見、美味しくはなさそうですが……。
まあ食べてみてのお楽しみ。
「マリアンヌは、優しすぎるんじゃない?」
「なにがですか?」
「ヴォン殿下たちの罪状だよ」
さっきの話の続きですね。
「デュークが変わりに怒ってくれましたから。
私のこれまでの頑張りを認めてくれた。そのうえで、あの扱いを起こってくれる人がいた」
――それだけで十分報われた気がしたんです。
だから、罪の中身なんて何でも良かったんですよ。
あなたの優しさに、心から感謝を。
「マリアンヌはさ、もう王子の婚約者なんて立場はこりごりかもしれない」
「急にどうしたんですか?」
「真面目な話……」
デュークが深刻な表情を浮かべています。
そのくせ、肉の焼き加減を見る手は止めないのが見ていて面白いです。
「ヴォン殿下がこの国になる可能性は、実質ゼロになっちゃったからさ。
被りたくもない王冠を被らないといけなくなっちゃったわけよ」
――でもさ、継ぎたくもない地位だけどさ
「マリアンヌ、君と一緒に進んでいけたら少しは楽しいかもって思えたんだ。
この国は、これからもっと良くなる。どうかな?」
「それって――」
そういうことでしょう。
それは、とても彼らしいお誘い文句でした。
だから、私も満面の笑みで。
「喜んで」
そう返事を返すのでした――
婚約破棄、果てにはパーティー追放まで ~事故死すら望まれた私は、第二王子に聖女の力を見出され性悪女にざまぁします~ アトハ @atowaito
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