第1672話 山菜

 旅は順調だった。


「なにも起きないわね。つまらないわ」


 プリッつあんといい、みっちょんといい、なんで妖精と言う生き物はなんで波乱を求めるのだろう。平和がなによりじゃねーか。


「こんな長蛇の列を組んで襲う魔物もいなければ盗賊もいねーよ」


 護衛もついている。巨大魔物か五十人規模の盗賊でもねーと、あっさり撃退されて終わりだわ。


「どちらかと言えばこそ泥に用心だな。これだけの人数がいると顔を覚えるのも大変だし、野営地では他の隊商とも遭遇する。仲間の振りして商品を盗まれることが多いそうだぜ」


 大きい商会でもメンバーは固定してねー。旅で体調を崩したり、逃げたりする者が絶ないとか聞いたことがある。


 メンバー集めは紹介屋的なところを通して引っ張ってくる。履歴書もなければどこの誰とも知れねー。外敵より内敵に苦労するそうだぜ。


「いつもならトラブルがやってくるのにね」


 まるでオレが引き寄せているような口振りである。いつもだったらオレは村に引きこもるわ。


「暇ならキャンピングトレーラーで漫画でも読んでろよな」


 レイコさんやそばかすさんは、ゼロワン改にこようともしねーよ。まあ、狭い中でピーチクパーチクしゃべられたらうるせーだけだがよ。


 マリンベルの王都を出発して六時間。もう昼なのに列が止まることはなかった。昼は食べねーのかな?


「そう言えば、進みながら食べるとか言ってたかも」


「隊商もそれぞれなんだな」


 朝はパンに魚が入ったスープの質素なものだった。こっちの隊商は過酷なんだな~。


 まあ、オレは三食いただく派なのでゼロワン改の運転をドレミに任せてキャンピングトレーラーに移った。ちなみに隊商の進みは駆け足ていど。普通に降りて、キャンピングトレーラーのドアを開けて入りました。


「お前ら、ちょっとはっちゃけすぎじゃね?」


 誰だよ、カラオケなんて持ち込んだの? てか、前世の音楽を普通に歌ってんな! 


「いや、なにもすることがないんで歌ってました」


 それでカラオケになる流れが意味不明だよ。とうでもイイから流しておくけどよ。


「メイドさん。運転しながら食えるもんはあるかい?」


 ここにいたら歌わされそうだわ。オレ、人前で歌うとか絶対に無理や。


「いなり寿司でよろしいですか? 山菜の天ぷらも揚げました」


 またコアなもんを作ってんな。まあ、嫌いじゃないから構わんけどよ。


「それで頼むよ」


「畏まりました。少々お待ちください」


 どこでも部屋(厨房)に入り、しばらくして三段重箱と水筒を渡された。


「ベー様。わたしもいっていいですか?」


 こんなに食えねーよと思いながら風呂敷に包んでいたらアダガさんが声をかけてきた。


 女率が高いキャンピングトレーラー。男一人でいるのは辛いんだろう。好きにしなと、重箱抱えてゼロワン改に戻った。


 後部座席に座り、風呂敷を解いて昼食とする。


「アダガさんも食いな。食べてねーだろう?」


「いえ、わたしは大丈夫です。皆さんが歌っている間、飲んでるか食べているしかなかったので」


「それはご苦労さん。じゃあ、一人……ではねーな」


 みっちょんがいましたわ。


「美味しいわね、いなり寿司」


 自分の胴体はありそうないなり寿司にかぶりつくみっちょん。オレに用意されたんじゃなくてみっちょんのために用意されたんだな。なんでもイイけどよ。


「そうだな」


 酢飯だけじゃなく五目飯のもある。これは赤飯か。いなり寿司もいろんなのがあるんだな。


「山菜はなんだ?」


 前世のこごみかぜんまいに似ているが、苦味がまったくない。カイナーズホームで買ったものか?


「それは、この辺の山菜でヨゴと呼ばれているそうです。隊商広場にたくさん生ってました」


 へー。それは全然気がつかなかった。知ってたら採ったのにな~。


「この辺に生るって言ってたかい?」


「ええ。マリンベルでよく生っていると言ってました。今が時期だそうですよ」


「それはイイな。目的地に着いたら探してみるか」


 これなら胡麻和えや味噌、マヨネーズをつけて食うのも合いそうだ。たくさん生るならたくさん採っても文句は言われねーだろうよ。


 まずはこの天ぷらを塩で食うとするか。


「天つゆはないの?」


 そう言えば、塩はついているのに天つゆがねーな?


「あ、水筒が天つゆか!」


 お茶かと思ったら中身は天つゆだった。


「お、天つゆもなかなか旨いな」


 オレとしてはもっと苦味があったほうが好みだが、天つゆにはこのくらいが合っているかもしれんな。

 

 重箱の九割をみっちょんに食われたが、まあ、満足いく昼食だった。


 食後のコーヒーを一杯。なんか眠くなってきたな。


「マイロード。右を見てください」


 ん? バスガイドごっこか? なんて思いながら右を向いたら馬が数頭通りすぎていった。なんだ?


「風の勇者たちでした」


 風の勇者たち? なんか緊急依頼か?


「トラブルとかごめんなんだがな」


「いつものことじゃない」


 いつものことだからって受け入れられるとは別問題だわ。


「まあ、風の勇者たちに任せたらイイさ」


 ここは陸地。なら、大抵のことは片付けられるだろうよ。


 目的地には夕方に着く。昼寝するには充分な時間だろう。


 重箱を片付けたらキャンピングトレーラーの上に移動し、暖かい日差しを受けながら眠りについた。


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