求愛に染まる

 あたし、なんで、ついてきちゃったんだろ。こんなオッサンに。

 ナンパされた時は、ちょっとカッコイイとか思っちゃったけどさ。

 よく見たらフツメンだし、オッサンだし、サイアク。

 しかも、縛られるとか、マジ聞いてないし!


 駅前で、可愛い女の子を見かけた僕は、即座に声を掛けた。

 女の子を誘うのは、それほど難しいことじゃない。渋る子を無理やり連れていこうなんて、バカなことをしなければいいだけだ。

 食事に付き合ってくれる子は、だいたい、ホテルや自宅まで来てくれる。多少のお金を渡したっていい。

 それが、僕のルール。これさえ守っていれば、揉め事とは無縁だ。

 今日お誘いした子も、レストランで食事をした後、当たり前のように家まで来てくれた。

 さあ、深く深く、愛し合おう。

 今までの経験から、儀式の時は、女の子を拘束させてもらっている。みんな、逃げようと暴れるからだ。

 ああ、そんなに怖がらないで。その可愛い顔で、僕を受け止めて欲しいだけ。


 なにこいつ。マジキモイんだけど!

 ヤバイ。脱ぎだしたよ。勝手に盛り上がってんじゃねーよ。

 え? カッターとか、待って、なにそれ、ホントやめて!

 やだ怖い、だれかたすけて。


 大丈夫、そんなに怯えないで。

 恐怖におののく顔も、もちろん愛らしいけれど。にっこり笑ってくれた方が、嬉しいな。

 さあ、ずっと僕を見つめていて。ふたりを結ぶ、愛の儀式だ。


 ちょっと待って、なにこいつ、マジでヤバイって。

 自分の手首にカッター当てて、うわっ、マジで切った!

 なんで今リスカなの? 意味わかんないんですけど。

 やだ、こっち来た!


 ほら、これで、君は僕のもの。

 僕の血で彩られた君は、なんて美しいんだろう。

 ああ、もっと切らなくちゃ。しっかり証を刻印しなきゃ。

 僕の血で、君が染まっていく。

 ねえ、お願い。僕の全てを受け止めて。


 むり、マジむりだって。

 なんか、あたし、血だらけなんだけど。いや、あたしの血じゃないけどさ。オッサンの血なんだけどさ。

 べったべた。キモっ。マジキモイって。

 なにしてんの、このオッサン。こんなに血が出たら、死んじゃうんじゃないの?

 バカなの、死ぬの?

 ほんと、やめて。もうむり、吐きそう。


 もっと、もっと、もっと、もっと!

 さあ、僕に染まって!

 もっと笑ってよ。もっと喜んでよ。

 まだ満足してくれないの?

 いいよ、たっぷり愛してあげる。

 ああ、血が足りない。

 でも大丈夫。限界まで頑張るよ。

 そうしたら、君も僕を、愛してくれるよね?



―了―

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【 短編集 】狂愛シリーズ 渡瀬 富文 @tofumi

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