繊細な彼女
彼女を守れるのは、俺しかいない。
突然の夕立。土砂降りの雨の中、俺は、彼女を腕に抱いて走り続けた。
彼女と出会ったのは、去年の夏。
俺の、ひと目惚れだった。
前の彼女との別れを、その時の俺は、すでに予感していた。
俺からのアクションに対しての反応が、明らかに鈍くなっていたからだ。全く反応がない日もあり、いよいよだなと、覚悟も決めていた。
そんな時だ、今の彼女に出会ったのは。
別に、新しい彼女を探そうなんてことを、本気で考えていたわけじゃない。
でも、心のどこかで、俺は求めていたのかもしれない。そうでなければ、あんな場所を、フラフラ歩きはしないだろう。
そして俺は、出会ってしまった。
運命とも言うべき、俺好みなハイスペックの彼女に。
即座に彼女を求め、その日の内に、前の彼女とはケジメをつけた。
あっさりとした別れ。淡々と事務的に、形式的なお別れ作業は終わった。五年も付き合ったのに、最後はあっけない。
俺は前の彼女も大切にしてきたつもりだし、彼女も尽くしてくれていたとは思う。もっと、何かしてあげられることが、あったかもしれない。
でも、彼女は疲れてしまった。そして俺も、新しい彼女を見つけてしまった。
最低だと言われようと、俺はもう、今の彼女に惹かれる自分を止められない。これまでの歴代彼女たちの中でも、これほど俺の理想に叶う彼女はいない。
それほどに惚れ込んだ彼女が、今、危機に瀕している。
俺のせいで。
彼女がとても繊細だということは、出会った時から知っていたのに。
特に、暑さと湿気には弱く、夏場は気をつけてあげないと、ダウンしてしまうこともある。
それなのに、どうして俺は、こんな酷い雨の日に、彼女を連れ出してしまったんだろう。
ゲリラ豪雨を予期できなかった俺が悪いのか。そう、傘を持たずに家を出た、俺がバカだったのだ。
彼女に何かあれば、俺は、もう生きていけない。
大粒の雨に叩かれながら、後悔ばかりが浮かぶ。
彼女とカフェで過ごしたい。そんな考えを起こさなければ。
こんな雨になると知っていたら、俺は、彼女を家から出さなかったのに。こんなことになるのなら、家に閉じ込めておくべきだった。
いつものように、家で愛でていればよかったのだ。今までもそうしてきたように、一歩も外に出さないで。彼女を見るのも、彼女に触れるのも、俺だけの特権。
俺と二人きりの世界で、彼女も満足してくれていたのに。彼女は、外へ出たいなんて、きっと考えもしなかっただろうに。
なんで俺は、出かけようなんて、思ってしまったのだろう。
どんなに許しを乞うても、取り返しはつかない。
ああ、神様。
どうか、どうか、
俺の愛する
―了―
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