理想的な彼女

 四番目の棺に、彼女を横たえた。

 彼女に相応しい、繊細な装飾を施した棺。その中に、臙脂色えんじいろのカバーを掛けた、柔らかな布団を敷いてある。もちろん、シルク製だ。

 彼女に合わせて、彼女のためだけに作らせた、彼女専用のベッド。重厚な深みのある濃い赤が、彼女の色白な肌を、よく引き立ててくれる。

 その頭上に、名前と年齢を記した札を掲げ、全体を眺める。


 蒼褪めた裸体が、本当に美しい。

 蝋人形のような、するりと滑らかな肌だ。

 ゆるく閉じられた瞼の下、長いまつ毛が淡い影を作っている。

 柔らかな弧を描く唇が、とてもチャーミングだ。

 我ながら、彼女の死体防腐処理エンバーミングは完璧に施せたと思う。


 新入りの彼女を堪能してから、一番目の棺へ目を向ける。

 一番目の彼女は、とても苦しそうな顔だ。

 眉間にしわが寄り、目は固く閉じられ、唇はへの字に曲がっている。

 その激しい苦悶の表情が、また味わい深い。

 肌も浅黒く変色してしまったから、一段と凄みを増してきた。

 生き生きとした形相で、彼女は終わらぬ苦痛を伝えている。


 二番目の彼女は、腹の刺し傷が痛々しい。

 もう治ることのない傷が、彼女の永遠の命を誇示している。

 その傷の酷さに見合わぬ、静謐な無表情も魅力的だ。

 彼女は、恒久の時を、誰よりも強く訴えている。


 三番目の彼女は、ちょっと幼い。

 ぷっくりと丸い頬が、なんとも愛らしく、まるで天使だ。

 小さな口が少し開き気味で、いまだに呼吸しているよう。

 彼女の細く繊細な髪を維持するのは、とても大変なのだ。

 この手間のかかる感じが、子どもらしくて愛おしい。


 それぞれに特徴的で、色香あふれる彼女たち。ひとりひとりを眺めながら、共に眠りにつく。

 何よりも、至福の時間だ。


 彼女たちほど理想的な恋人が、ほかに存在し得るだろうか。

 彼女たちは、一切の反抗も、口答えもしない。ベチャベチャと無駄なおしゃべりもしないし、グダグダとくだらない嫉妬もしない。

 図々しさに幻滅させられるような事態は、決して起こり得ないのだ。夢想のままに、彼女たちは全てを受け入れてくれる。


 今日も、私が終わる。

 薄暗く肌寒い、この部屋で。



 ―了―

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