黄金の右足

「クラブへの入団おめでとうございます。高校を卒業し新たにプロの選手としてプレーすることになりますが、今のお気持ちをお聞かせください」


「とても嬉しく興奮しています」


記者会見で大量のフラッシュを浴びる男子の表情は緊張でいっぱいな様子。


「監督にお聞きします。監督が彼の獲得を強く希望したため入団が決まったとお聞きしましたが?」


記者が男子の隣で誇らしげにしている監督に尋ねた。


「ええそうです」


「それはなぜですか?」


「私が高校生の全国大会を視察したときに試合に出ていた彼の右足が目についたんだ。もう一目惚れだったよ彼の右足に。私は彼の右足が欲しくなってね。それで彼の右足を我がクラブに入れようと決めたんだ」


「しかし彼は全国大会では1点も決めていません。クラブ首脳陣は獲得に難色を示したのでは?」


「確かに上は渋ったが『どうしても彼の右足が欲しい』と必死に説き伏せたんだ」


「そうですか」


記者は今度は男子に向かって質問を投げかけた。


「監督の期待が大きくプレッシャーもあると思いますが、今後どのような選手としてプレーしていきたいと思っていますか?」


「そうですね。全然目立たなかった僕を拾ってくださった監督。そしてクラブのためにも恩返しが出来るような立派なストライカーを目指してプレーしていきたいです」



「監督。やりましたね。今シーズンの最優秀賞新人選手賞に彼が選ばれました。周りの反対を押し切って獲得した選手が今シーズンの大変な活躍ぶりでしたね」


「やはり私が見込んだ通り。彼の右足は素晴らしい」


授賞式の会場でスーツをめかしこんだ監督に祝福の言葉を記者が投げかけると、監督は満足そうな笑顔を浮かべて応えた。


「高校生のときはまったくの無名だった彼がここまでの選手になることを予想されていたんですか?」


「ああそうだ。彼の右足を初めて見たとき黄金に輝いて見えたからね。予想はついていたよ」


「来年に迫ったワールドカップ。A代表入りも噂されていますが」


「彼の右足なら当然だろうね」


「今後の活躍に期待したいですね」


「もちろん彼の右足なら期待以上にやってくれるさ」


◇ 


「ワールドカップで日本代表はベスト16入りを果たしました。中でも監督が見染めた彼の活躍は目を見張るものがありましたね」


「ああ。すごかったな~。私も大会期間中テレビに張り付いていたけど、やはり彼の右足に目が釘付けだったよ~」


「海外では『黄金の右足』の異名で呼ばれているそうですよ。その活躍ぶりで海外のビッグクラブも目を付けたと噂されていますが」


「噂がホントだとしても我がクラブに残ってくれるだろう。彼の右足は我がクラブ、いや私にとっても必要不可欠だからね」


そう言って誇らしげに笑う監督であった。



「監督。クラブ首脳陣が彼をあのビッグクラブへの移籍で合意したと発表されました。それについてどう思われますか?」


悲痛な面持ちを浮かべる監督は記者の質問に応えられなかった。

しばらく経ってから口を開いたがその口調は悲しそうであった。


「正直、さみしいよ・・・。あの右足が我がクラブ、いや私の元から離れていくなんて・・・」


「彼は本場で挑戦したい気持ちが強くなったと言っていました。もっと強くなりたいとも」


「そうだね・・・。あれほどの右足だ。日本では収まらないのは遅かれ早かれ分かることだった。けどやはり、そうは言ってもね・・・」


「彼は監督に非常に感謝していました。無名だった自分をプロの選手としてくれたのも監督が自分を見付けてくれたからこそだと」


「あの右足との出会いは今想い出しても衝撃的だったよ。それこそ頭を右足で蹴られたみたいにね」


「彼は明日ヨーロッパに発たれるそうですね」


「ああ。急だけどね。だから今日はこれから二人っきりでお祝いの食事をする予定なんだ」


そう言った監督の目はどこか遠くを眺めているようだった。



「・・・ん? こ、ここは? ホテルのベッド? た、確か、監督とお祝いにって一緒に食べに行ったんだっけ・・・うっ。頭がもうろうとする。起きないと・・・」


くらくらする頭を押さえてなんとかベッドから身を起こそうとするとなにかに縛られているのか体を起こせず、目を凝らしてみると両手がベッドの柵に手錠で繋がれており、さらに両足も同じ状況であった。

ベッドにに大の字で繋がれていたのだ。


「え? な、なにこれ? なんで俺の両手両足がベッドに手錠で繋がれてるんだ? え、ちょ、ちょ、なにこれ!? なにこれえ!?」


かなり焦った様子で必死に両手両足を動かすが手錠はビクともしない。すると部屋の奥の暗がりから声がした。


「ようやく起きてくれたようだねえ」


「え? その声・・・か、監督? え、あの、なんで俺手錠で・・・あとその手に持ってるのは? え、チェ、チェーンソー?」


「私は止めたんだ・・・」


監督はまばたき一つせず選手をジッと見据えながらブツブツと呪文のように口にする。


「え?」


「私は止めたんだ・・・。だけど、だけど、どうしてもって・・・」


「か、監督?・・・か、監督!?」


「私の右足・・・私の右足・・・置いてってもらうよ」


そしてチェーンソーのエンジンをスタートさせるのであった。

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シュールクリーム 有金御縁 @69de74hon

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