第13話 真価を見せる時
「よし、まずは初心者相手だからね。この
「は?」
すると、突如、ヴェネッタからそう言われると、俺は呆気ない声を上げる。
「まぁ、早く受け取れ」
「は、はぁ」
とはいえ、ヴェネッタに渡された依頼が書かれた書類を受け取る。
そこに書かれていたのは、『
討伐証明に死体及び確認できる部位、と書かれているために、解体技術の会得も視野に考えられている。こう依頼書のよく読んでみると、最低限の冒険者として必要な技術が書かれているために、勉強になる。
「これって、初心者用の物ですか?」
「うん、そうだよ。これで失敗するってなると、冒険者としては必要ないね」
「バッサリ言いますね」
「冒険者には手加減なんてしたら、待っているのは死だけだよ? それを忘れてはこの業界はまともにやっていないさ」
確かに冒険者と言うものは、楽してできる仕事ではない。
生き死にを賭ける職業。それがこの職業だ。ほとんどが、アウトローを何一つ変わらない職業でもあるが、人の為にやる何でも屋の仕事だ。
中には冒険者として名声を手に入れる者はいるが、ほんの極僅か。英雄譚にでてくる人間なんて、そんなの片手で数えるくらいしかいない。
「そうですね。この依頼、受けますよ。最低限の力が手に入りますから」
「ふふっ、そうかそうか。なら受けたまえよ。こっちで受注は済ませているから」
「受注は済ませているって、それ、断らせるつもり無いですよね」
「うん」
正直者。
俺はヴェネッタのその発言に、内心、そう答えるが、事実なのが更に腹立たしい。
まるで年相応の女性が子供のような笑顔で、此方を見てくるというものは、何というか、人の堪忍袋に容赦なく触れてくる。
とはいえ、既に決まった現実を塗り替えるとなるとそれは、無理な神性だろうし、少々、面倒くさい。だからこの女が勝手に申請した依頼を断れば、依頼を出した人にも迷惑がかかるだろうし、何より俺にはまともな持ち金を所得していない。
「………分かりました。しょうがないから受けます」
「大丈夫大丈夫、君に拒否権は無いから」
「そう言う所が分かったから言っているんです!」
「はっはっは、気にしないでくれ。既に申請済みだから」
「だから………!」
あぁ、もうこれ以上の会話には頭に血が回る。
そのせいでか、頭が痛くなってくる。この
「あぁ、もういいです。これ以上の会話は心労に来ます」
「ほほぅ、そうかい」
「………」
理解していないんじゃないか?
そんなことを思いながらも、俺は静かにヴェネッタの事を睨みながら、その場を去り、依頼場所にへと向かった。
「いってらっしゃ~い」
ヴェネッタのそんな、呑気な事を聞きながら。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「いや、初心者向けには少し難易度が高くはないか」
そんなことを感じたのは、依頼場所についてからだ。
初心者向けのごく普通の依頼場所かと思っていたのだが、そう思ったのはほんの一瞬で、今現在、俺自身、深く後悔していた。
依頼現場は、表記されてている書類には、【アオの森 日指の道】と書かれていたのだが、俺が今いる所はどうも、そんな場所ではないような気がする。
「確か、記載されている森は少し明るいはずだよな。地面に光差し込むことで有名なはずだが………」
そうして、視線を下げる。
真っ暗。
何も映っていないというわけでは無いが、森全体に影が掛かっているように見える。
地面には陽の光が差し込んでいない証拠か、木々の音が深くまで根を這っており、長い雑草が生い茂っている。
その為、歩くにも一苦労かけてしまう。
足には何か引っかかるし、木の枝が服などのいるに引っかかったりするのだ、とてもじゃないが歩きなれていない人じゃない限り、ここを余裕と言える心構えは持ち合わせてはいない。
それに、一応、森で生活したことがある俺でも、この森は面倒くさい。
先ほどの雑草など生い茂りや木の枝がきちんと剪定されていない所から、ここはあまり人が通らないだろう場所だと判断できる。
「こんな所が初心者向けな訳ないよなぁ」
もし、ここが初心者の森と言うのなら、冒険者が次々、引退だとか挫折を感じるはずだ。
にしても、このような場所に案内されると、冒険者の近年の死者数増加も何となく理解はできる。
「人の叡智が素晴らしくても、経験が物語る職業だからなぁ」
とはいえ、ここからの離脱を考えなければいけない。
ここが確実に書類に紹介されたところでは無いというのなら、今すぐにでも引き上げた方がよろしいはずだ。
「きゃあ!」
そんな声を聞かなければ。
急な女性の悲鳴に俺は何かと思い、薄暗い森の中、それが何なのかさえも見分けられるはずがない。
「嫌だなぁ」
悲鳴を聞くと、何というべきか面倒事しか頭の中に過る。
とはいえ、女性の悲鳴を聞いてしまえば、身体が勝手に動いてしまうのは男としての性。自身より弱いものを助けてしまうという、何時得たのか分からない本能に誘われる様に、俺は悲鳴のする方に向かう。
「誰ですかぁ?」
俺はそんな小さい声で、悲鳴を上げた本人を探そうとして見るが、誰も反応を示しはしない。
それはそうだ。小さな声で言ったんだから。
普通なら、大きな声と言うが人と話すことが苦手な人間が初手から大声で叫ぶことなんてできるのだろうか。答えは無理、シャイな人間にとっては初手から大声を賭ける事なんて無理に決まっている。
とはいえ、悲鳴を出している証明として、相手が危機的状況だと頭の端っこでは理解している。
だからこそ、ほんの少しでも良いから打開策を講じるしかない。まぁ、打開策と言える打開策らしいものはないのだが。
「どこですかぁ?」
そんなことを考えながらも俺は、薄暗い森の中を必死に歩き続ける。
元より目がよろしいとは言える物か分からない俺にとっては、この場所は正直言うと、あんまり長時間居たくはない。とはいえ、声の主を見つけられず、次の火にはしたいとして見つかるのは何というべきか、目覚めがよろしくない。
だが、巻き込まれてその被害者になるのは更によろしくない。
だからこそ、俺が選んだのは状況読んで逃げる事だった。
それ以外の事をもし、探そうというのなら思考回路が一気に理解不可能領域までに飛ぶ。
「にしても本当にどこにいるんだよ」
もう数十分近く森の中を歩いたというのに、声の主は見つからない。
辺りも暗くなっていき、足場もさらに悪くなる。
ここまで探したのに、誰も見つからにと言う現実が、俺の中で本当は罠なのではないか? と仄かに疑問を抱かせる。
「いないなら本当に戻ろうか?」
もしこれが悪戯であるのならばもう我慢できない。
逃げの一手を使わせて貰おう。そう思った時、
キィン! とどこか甲高い音が聞こえる。
「なんだ?」
甲高い音につられるまま、俺は音の鳴る方に向かうと、そこでは必死に剣を振るう白髪の女性と、それを追いかける三頭の野犬が目に入った。
「あれって、
薄暗い小さな崖の上から静かに眺めていた俺は、呑気そうにそう言ってみるが、目の間の状況は正直言うと、あまり宜しくない。
じりじりと女性を追い詰めていく野犬は、その口から小さな唸り声を上げながら、女性の事を更に詰め寄っていく。
「………ま、よりよい朝の目覚めの為だ。少し、協力しますか」
木陰の下から俺は静かにその手を伸ばすと、一度も使ったことも無いはずなのに、本能が知らぬ間に俺の持つ力を使用する。
「貸してやる」
そう俺は言うと、腕の先に徐々に力がたまっていき、ゆっくりと糸のように解き放たれ、女性の体に俺の力が絡みつきくっついて、吸収されていく。
「……?」
女性からしてみれば、急に湧き上がる力に少しだけ不思議に思いながらも、目の前に置かれた危機的な状況を打開するためにその剣を振るう。
まぁ、俺の妄想であるが。
見ている俺からすれば、次々と野犬を切り倒していく女性の姿を見ると、先ほどの言葉が羅列し始めるように俺の視界から見える女性の姿が物語っていた。
キャイン! と可愛らしい叫び声を上げながら最後の一匹が切り倒されるとこまで見ると、俺はもうここにいる必要がないために血に塗れた女性をその瞳に焼きこむと、静かにその場を去った。
結局のところ、俺の真価の発揮とかされていなくないか?
異世界で『借用』Skillを使ってどこまでいけるか試してみませんか?(打ち切り) 山鳥 雷鳥 @yamadoriharami
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