第1話 とある電車内でのこと

俺、松木大吾の朝は早い。四時半に起き、支度をする。

駅まで全速力で走り、いつもどおり始発に乗り込む。めずらしく誰もいない車両に心地よさを感じながら、いつもと同じ席に座る。よし、本の続きを読もう。ちょうど一年後は受験なので、電車内は数少ない本を読める時間なのだ。学校までは二時間はかかるので、たっぷり読む時間はある。

今話題の推理小説だ。

ふと視線を感じて横を見ると、見慣れた顔があった。どうやら次の駅で乗ってきたらしい。

「どうした、今日はやけに早いじゃないか。」

「大会が近いんだよ。最後のチャンスだ。今年こそ全国行ってやるよ。」

視線の主は、サッカー部の前田樹だ。サッカー部のエースで、彼がいる今年はうちの学校が全国に行ける最後のチャンスといわれている。そんな彼と帰宅部の俺とは接点がなさそうだとよくいわれるが、あることがきっかけで知り合い、意外と馬も合うので、一緒にいることが多い。

樹は朝練のためだというが、グラウンドを使えるのは先生が来てからなので、この時間は使えないはずだ。

何か、嫌な予感がした。


そこから数分はお互いなんでもないような言葉を交わしていたが、どこか本題にはいるのを避けているように感じた。

「お前、西川の見舞い行ったか?」そんな空気に耐えかねたのか、樹がボソリといった。

「・・・行けるわけないだろ。どの面下げていけばいいんだよ。」

西川恵は俺たちにとっての恩人だ。彼女は三か月間ずっと眠っている。

彼女はその日、俺たちに集まるように呼び出し、その近くで事故にあった。

現場に着いた時にはもう何もかもが終わった後だった。

「だよな。俺もだ。ただ、ちょっと気になることがあってな。この三ヶ月調べてたんだよ。」

「何をだよ?」

なにか不穏な空気に、気を引き締める。しかし、周りに聞こえないように耳元で紡がれた言葉は、予想をはるかに超えるものだった。

「いいか、よく聞け。・・・あの事故は、仕組まれたものだ。」

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灰色の世界にみたものは @yamayuu68

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