小さな物語達

鏡の世界

　数年前にある女子高校で事件が起きた。事件とは、生徒が鏡の世界、いや中へと引きずり込まれるという事件だ。とりわけ女子生徒が被害に遭った。

　ある女子生徒が、トイレの鏡の中に映る自分の動きとこちら側の動きが一致しなかったらしい。女生徒は友達や先生たちにこのことを話したらしいが、最初は無碍にされたらしい。けれど数日後、その女子生徒は鏡の中へと姿を消した。この事件の一部始終を見ていた女子生徒の友達が、助けようと試みたが途端に体が硬直して動けなくなってしまったと涙ながらに話した。それからというもの一週間周期で女子生徒が鏡の世界へ引きずり込まれる事件が起きる。まさに惨状と言ってもいいほどであった。　

　学校側は、流石に状況が状況だと判断し、1ヶ月全校休校とした。それから1ヶ月経ち、事件は起きなくなった。しかし、それから別の学校で同じ事件が起きるようになってしまった。次もやはり女子生徒だった。

　それから数年が経った今も、事件は起こり続けている。品を変え学校を変え、けれど標的は女子生徒。なぜだろう。いや、なんでだと思う？　

──それはね、女子生徒の方が栄養分が豊かで美味しいからなんだよ。

ネタバラシして上げるよ。差しあたっては、まず最初の事件、動きと鏡の中にいる自分の動きが一致しないという証言。あれは彼女の錯覚だ。僕の能力は、鏡の世界から現実世界への数センチ干渉できる程度でしかない。さらにそれはトイレの鏡の中でないといけなかった。全力を出しても腕いっぱいを露出することしかできない。つまりこちらから現実世界の鏡の映り具合を変えることはできないんだ。きっと彼女は、疲れていたんだろうね。しかし、もしその証言を大人たちに鵜呑みにされては困る。だから殺した。そして、その一部始終を見たと大人たちに報告した。私に疑いがかからないようにした。それから当分は女子生徒を思うように喰らい尽くした。女子高校の生徒はどれも男の味を知らなくて何の汚れもなくて美味だったよ。けれどそんな日々も呆気なく終わった。だから、狩り場を変えることにした。別の女子高校を転々とした。でも、次第にトイレの鏡が原因だと気付かれ、トイレの鏡を撤去されたり、トイレ自体を封鎖されたりした。悲しかったなあ。ただ、食事をしていただけなのに、現実世界の人間の勝手な都合の所為で。だから、復讐してやることにした。次は鏡に映った男子生徒を殺そうと思う。食べはしないよ、だって汚れているもの。でも別にいいよね。所詮人間だしね。

　さて、次はどこへ行こうか。