バス

 西日が差してきた頃、僕はバスに揺られていた。

 時間帯のせいか田舎のバスだからか乗客は、僕と高齢者の方が数人乗っているだけだった。乗客は少ないので、当然殆どが空席で座らない道理はない。けれど、僕は空席をしり目につり革を握って直立していた。本当は椅子に座って、目的地のバス停まで待つ方がいいけど、僕は、どうしてもソワソワして結局、立っていた。


 それからバスに揺られること数十分が経過した。目的地まではまだ距離があるのに、相変わらずつり革は握って立ったままだ。僕はふと数日前の出来事を思い出していた。それは本当に些細なことから始まった彼女との喧嘩だった。どうしてあんなことを言ってしまったのか分からない。だからとにかく謝りたくて仕方がなかった。


――本当は彼女のことが好きだったのに。


愛おしくて胸が苦しくて、我を忘れるくらいの気持ちだった。

初めて誰かを好きになったんだ。最初はこの気持ちが何なのか分からなくて、うざったいで終わらせて、でも、彼女のことをふと思い出すともっともっと苦しくなって。

それなのに僕は、彼女に酷いことを言ってしまった。自分が情けなくて不甲斐ない。

早くバスが着いてほしかった。彼女の元へ早く行って謝りたい。一瞬でも早く君の待つ場所へ。


目的のバス停まで残り二駅となった。車窓から覗ける風景は、すっかり帳が下りていた。もうすぐで彼女と会える。突然、『この先自動車事故が発生したようで、到着時刻が遅れます。大変申し訳ございません』とバスの運転手さんがアナウンスした。よりにもよって、こんな日に限って事故が起こるなんて。田舎なので、めったなことでは渋滞しない。けれど、事故は別だ。しかし、まさかこんなタイミングで起こるなんて思いもしなかった。どうしよう、このままじゃ会えない。彼女とは別に集合するという約束をしたわけではない。とある知り合いから、彼女の所在地を教えてもらっただけに過ぎない。故に入れ違う可能性がある。焦る僕は、無意識に貧乏ゆすりをしていた。高齢者からの訝しげな眼で見られている気がした。このままじゃ埒が明かない。すると無意識に体が動いていた。そして、運転手さんにここで降りる意思表示をした。口から自動で言葉が出た感覚だった。


運賃を払って降りたと同時に全速力で僕は走った。スニーカーのひもがほどけるのなんか気にしている暇はない。とにかく全力で駆け出した。

一秒でも早く君の待つ場所へ行くために。



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