口下手男子の気になるコ

@kureya

第1話


「ハァ~~~。こんなに上手くいかないなんて。え?何って?会話だよ。ガチガチに緊張しちゃって。いや、さっきまでいつもの喫茶店で話してたんだよ。誰と?ああ、ほら昨日話した同じ常連客だよ。そうそう。二人で話すのは二回目だったんだけどさ…最初に声をかけた時、上手く話せなくて。なんとなく気も合うし、雰囲気も嫌いじゃない。むしろ一緒にいて落ち着くっていうか…そう!居心地がいい!相手も同じだったみたいで、「また話したい」って言ってくれたんだ。だから今回はもっといろんな話をしようと思ってさ。上手く話そうと思って、話の構成を会う日程を決めた時からずっと練り続けていたんだ。意外に楽しかったよ、あの時間は。普段人と話すときに事前に考えるなんてしないだろ?だから最初こそ戸惑ったんだけど、考えてると意外とおもしろくて。まず質問をリストアップして、そこから失礼にならないように何個か削除していくんだ。訊かれたくないことぐらい誰にだってあるだろうし、踏み込みすぎて嫌われたくないし。それから、会話に飽きないように冗談を入れてみたり、軽い口調で話す練習をしてみたり….とにかく手は尽くしたよ。少しでも長くあの空間が続くように。準備は万端だった。自信さえあったんだ。これなら楽しく話せるってね。でも…全部水の泡になったよ。当日、朝からソワソワしちゃって、待ち合わせより少し早くお店に着いたから、コーヒーだけ頼んで彼女が来るのを待っていたんだ。え?相手?ああ、そういえば言ってなかったっけ。そう、女の子だよ。肩より少し長めの髪で、明るくて、落ち着いた感じの子。多分年下じゃないかな?…っとそうだった、それでその子が来たから声をかけようとしたんだけどさ、 …驚いたよ。いつもと違った化粧に、髪も暗めのブラウンに染めてたんだ。元々、端整な顔立ちだったんだけど、より大人びた綺麗さになってて、プランなんて全部吹っ飛んだよ。顔には出さないようにしたけど、内心はパニックだったよ。何とか話はできたけど、彼女の笑う顔とか髪を耳にかけるちょっとしたしたことにもいちいち意識しちゃって…リードしようって意気込んでたけど、結局何を話したかあんまり覚えてないよ。でも彼女は楽しんでくれたみたいで、変なこと言わなくてホッとしたよ。あ、そうだ。最後に照れながら小さめの花束をくれたんだ。リナリアっていう名前の花らしいんだけど。こんなに楽しみにしてくれてたんだ、って思うと余計に悔しくて。次はもっと頑張らなきゃなって。振り向いてもらうためにも。あ、時間だ。ごめん、この後バイトあるんだ。講義もうないのに付き合わせて悪かったな。話、聞いてくれてスッキリした。ありがとな、じゃあ。」

そう言って、手早く荷物をまとめるとまだギラギラと暑い午後の日差しの中にアイツは走っていった。少し気になって手元のスマホで花の名前を入れ、検索する。…ああ、なるほど。鈍感な友人の背中に目を移し、思わず苦笑いをしてしまう。今度会ったときは何か奢ってやろう。

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