ダニエル先輩の憂鬱

PEN

事件はいつも喫茶店から

ここは海風の国にある喫茶店『タシトコ』。

その閉店後の喫茶店にて事件は起こってしまう――。



「メイド成分が足りない…」

金色の目をした青年がカウンター席でつぶやいていた。

片づけをしていた店員がそれ聞き、トレーをカウンターに置くと彼――店主のもとへと近づく。

「珍しく、何か真剣に悩んでると思ったら…第一声がそれですか」

呆れた様子であると同時に、慣れている様子もうかがえる。


「何をのんきなことを言っているんですか、テオ!」

店主――ダニエルは声を荒げ、テオと呼ばれた店員に真剣に述べた。


「経営者にとって、モチベーションの維持は店の営業利益、ひいては存続にかかわる重大な課題…。

それが保てないということは、すなわちここ、喫茶タシトコの……俺たちの死活問題にも繋がりかねないのですよ!」

しかしダニエルは悪魔の姿に変化できる。

むしろ悪魔になれば、金貨も宝石も出せるので利益がなくても店は保てるのだ。

これはダニエルの気持ち次第でタシトコという喫茶店は保たれているのだろう。

無論、店主たるもの、簡単に閉店するわけにもいかないだろうが。


「なんか……真面目にもっともらしいことを言ってるように聞こえるけど――」

と顎に手を当てながら、独り言のようにつぶやいた後にニヤリと笑い、

「結局のところ、それって単に先輩の【変態願望】を満たしたいだけ、ってことですよね…?」

これが店主に対する態度だろうかと考えるが、

彼らは数年間付き合ってきた<先輩>と<後輩>または『師匠』と『弟子』という関係を持っていても、とても仲良しである。

もっとも、魔導士のお調子者が出ているのも一理あるが。


「可愛い後輩のメイド服を拝み職場の危機を救うためなら手段など選んではいられません!!」

(なんか色々開き直っちゃったよこの人…)

魔導士は内心引いてしまうが、これもいつもの事だと片づけるしかないなと思った。


「そういうわけですから、テ…」

「イヤです☆」

ダニエルが言い終わる前にテオは遮った。次の言いたい事は既に分かっている。変わらぬパターンだ。


「せ…せめて話くらいちゃんと最後まで聞いてくれたっていいじゃないですか…!」

うぅ、と唸りながら困り顔で目を逸らした。

「話も何も、どうせ最終的にはオレが無理矢理、メイド服着せられる流れになるに決まってるでしょ…!

まったく毎日のように先輩の無茶ぶりに振り回されるこっちの身にもなってくださいよ!」

その表情に対してテオは溜息をついてしまう。


「…仕方がありませんね」

ふうと一呼吸置いてから、

「それでは、力ずくでもこの新作デザイン『ピンキー・プリティ☆マーガレット』を着てもらいます!!」

すぐさま強制的に<着せ替えの魔法>を発動させる。

闇魔法のような黒と紫の波動を放つが、わずか数秒で光をともなった魔法で弾かれてしまった。

この男――ダニエルは何を言われても全く凝りていなかった。否、懲りるつもりは毛頭ないらしい。


「俺の魔法が、弾かれた…!?」

瞬時に発動したのにも関わらず、打ち消されてしまったことに目を丸くした。

「やっぱり、そうくると思ってましたよ!」

光で相殺した青年は、むっとしていた。

少しでも打ち消す魔法が遅れていれば魔導服がメイド服に変わっていただろう。

「オレだって、いちおう魔導士ですから!先輩の使う魔法は、それなりに把握してすでに対策済みです!」

と叱るように言った。

魔導士たるもの、あらゆる魔法に対抗できなければ一人前とは呼べなくなる。

それを彼は熟知しているのだ。


「とにかく!!今日と言う今日は絶対メイド服なんて着ませんからね!!」

そう言って彼は喫茶店から出て行った。

一人残されたダニエルは、彼が出て行った方向を眺めて頭を少し悩ませた。

それがかえって彼にとっては愉快で楽しい。

ダニエルは人間の姿だが、元の姿は『悪魔』である。

『不老不死たる者』の楽しみのひとつとなっているのだ。

「はぁ……うちのかわいい愛弟子もとうとう反抗期に突入でしょうか」

深いため息をつく。だが彼はすぐ開き直った。

「ですが、ここまで全力で抵抗されたら、ますますいじり倒したくなるのが人の性というもの……」

ふふ、と彼は笑う。

「……それでは、追いかける過程も含めて存分に楽しむとしましょう」

そう言い残して『CLOSE』の看板をかけ、鍵をかけると喫茶店を後にした。

全ては己のために彼は動くのである。


「――さて、と」

ダニエルが来たのは魔物のいない静かな森だった。

「とりあえず、テオの残り香、もとい魔力をたどってここまでやってきましたが――」

(この違和感……どうやら、魔法による目くらましによる結界が張られているようですね。

ということは、それを解除しなければ先に進めない…ということですか)

思考を巡らせながらダニエルは言う。

辺りを見回せば、植物が生い茂り、かつ人の歩く道を邪魔しないようになっている。

(とりあえず、気になる場所や物をひとつずつ調べてみましょう)

ダニエルは意を決して、後輩を探し出すことにした。


箱庭のような森の中での探索が始まった矢先に、ダニエルの目の前に不自然な珍しい花…ラフレシアがあった。

ただこのラフレシアからは特有の匂いがしない。

明らかに偽物のようだ。


「さすがにこれは……あからさま過ぎる気もしますが……」

魔法解除の術を唱える。

ダニエルの場合は、元から知識として頭に入っている。

悪魔という上位魔族は昔からあらゆる魔法を使いこなせるのだ。もちろん例外はいるが。



「……はたして、ある意味天然なのか……。

それとも早く見つけてほしいアピールなのか……」

にんまりと笑っている。ダニエルはそこまでして見つかってほしいのかと思った。

察するに魔導士は天然な部分はあるようだ。

本人には自覚がないが、ダニエルも旧友であるベルーチェという少女もまた、理解はしているようだ。

「では、残りの結界も、この調子で解除していきましょう」

魔力はたくさんありますしね、と小さく笑って再び歩き出した。


しばらく探索していると、南東に黄緑色に生えている雑草に混じって、四角に光った白い草のエリアを見つけた。

(ここだけ、草の色が違う…)

そう思って白い草に向かって魔法解除を唱えると、ダニエルには異様な雰囲気が軽くなった気がした。

「どうやら、当たりだったみたいですね」

頷いてまた歩き出す。残りはいくつだろうか。しかし察する限り、そう多くはない。

ダニエルは確信した。

南西に来ると、ふと足を止めた。

「この付近から、微かな魔力を感じますね…」

辺りを見回すが、それらしきものはすぐ見つかった。

普通の人間であれば、ここまでの察知能力は薄いだろう。


灰色の岩が並ぶ中、一つだけ黄土色の岩を見つけ、魔法解除を唱えるとそれは消失した。

「やっぱり、この岩が結界でしたか」

またひとつ、結界を解くと今度は北を探し出す。

恐らく真面目な彼は規則的に設置するだろうとダニエルは考えたからだ。

すると真北に枯れた樹木がぽつんと立っていた。

「この木…明らかに一本だけおかしいような…」

他が生い茂る木であるはずが、これだけ不自然に葉が枯れている。

ならば、と思って魔法を唱えるとそれはまたラフレシアや岩と同じのように消失した。


「やっぱり結界でしたか」

すると一瞬だけ森が光った。

「どうやらこれで先に進めるようですね」

この区域の結界が解けたことで閉ざされた森ではなくなった。

南から魔法陣を感じたダニエルが向かうと、転移魔法陣が浮かび上がっていた。

罠はないと瞬時に判断し、その上に乗った。



次に転移した場所も同じような森だった。

しかし構造が違っている。別のエリアのようだ。

目の前には先程出て行った魔導士が立っていた。


「先輩、お疲れ様でーす♪」

あれほど自分を嫌がっていたのにも関わらず、今度は陽気に話しかけて来たではないか。

思わずあっけにとられるダニエルだが、

「――テオ」

目の前の魔導士を呼んだあとに瞬時に気づいた。

「……ではありませんね?」

目の前にいる彼は、本物の手によって造りだされた『デュプリケート』だと。

その証拠に両目の色が違っている。

普段の彼は赤眼だが、不完全な故か、左目は黄色の眼だった。

今までこのような偽物を造りだせたことに驚きつつ、ダニエルは大人しく聞くことにする。


「ピンポーン♪せいかーい♪さすがは先輩ですね」

陽気な魔導士は褒めた後に苦笑いをした。

「ぶっちゃけ、この『オレ』がこのエリアの結界ってことで先輩がオレを捕まえたら先に進めますよ」

今回の結界は『テオ』ということだった。

「なるほど…今度は鬼ごっこ…というわけですか」

「ま、そういうことです。なかなかバラエティ豊かでしょ?」

嬉しくも若干面白そうに笑う。

ダニエルとしては、本物もデレデレになったらこう答えてくれるのかもしれない、と考えてしまう。

「それについては同意しますが……しかし、まさかここまで手の込んだ抵抗をされるとは…。

テオは、余程メイド服を着たくないみたいですね…」

「えぇ~…。何を今さら…」

偽者は呆れた顔になり、溜息をついた。反応は本物そのものである。

遠くで動かしているのか、魔法でそう仕組まれているのかは不明である。

「ですが、これもすべては俺の矜持と【メイド服】のため…!

たとえ心を鬼にしてでもここで引くわけにはいきません!!!」

メイド服を強調してダニエルは声を少し荒げたのを見て、彼はにんまりと笑う。

あまり彼がする表情ではないが、『コレ』がするのであれば彼もするのだろう。

「ほんっと、ブレませんよね。ここまでくれば、いっそ清々しささえ感じますよ。

それじゃ、そろそろ始めましょうか。…お手柔らかに頼みますよ、先輩?」

そう言って、彼は走りだした。

ダニエルもすかさず追いかける。本来ならば、追いかける速さはダニエルの方が上だが、あちらの方が速かった。

すると偽者の魔導士は敢えて真っ直ぐ行かずに、遠回りするように曲がっていく。

(チャンスですね!)

これを好機と見た、ダニエルは速度を上げる。そして相手が横切る直前で、

「よし!!捕まえた!!」

と偽者の腕をがっしり掴むと、これを見た偽者は苦笑いをした。

「あ~あ、残念。捕まっちゃったか~」

先程と同じような、にんまりとしたような表情で潔く負けを認めた。

「とりあえず、何はともあれステージクリアおめでとうございまーす☆

ということでこちら、今回の参加賞となります♪」

ほんの数秒前にダニエルの腕から離れていた彼が出したのはお菓子だった。

それをありがたく受け取る。

自然とカカオの――チョコレート特有の香りがした。

(何に使えと言うのでしょうね…)

「それじゃ先輩、頑張って下さいね♪」

使い道を考えている合間に、軽く手を振ると偽者は消えてしまった。代わりに出現したのは転移魔法陣だ。

こうも凝った仕掛けを作るのはテオ自身の好奇心だからだろうか。

(しかし本気ならやや狡猾でテオですから、謎解きをさせたり、散々迷わせたりするはずなのに…。

もしかして遊び感覚か、あるいは即席か…。まあ前者でしょうね)

そう思いながら、魔法陣に乗り、その場を後にした。


また少し違った森へと来た。今度は小さな湖を横目で歩いて行くコースだ。

湖に落ちる事がないように見えない壁で守られている。

湖が横で見えなくなれば、広場があり、行き止まりだった。

そこにいたのは一人で、寂しそうな表情で立っていたのは黒髪で赤眼の少年――幼い頃のテオだ。

服が所々変わっている。上下の服には白線が施されており、

上は黒の薄長袖に白い模様の青い服、下はハーフパンツと無地の黒タイツで構成されている。

髪も現在よりも短く切っている。赤いピアスはこの時代ではつけていないようだ。

「!うわあ、人さらいのひとが来た!」

と驚いてはいるものの、逃げたり隠れたりもせず、微動だにしない。

(明らかに本物のテオではないと分かってはいても…改めて言われると、地味にショックですね…)

レビステラのとある人物の部屋で初めて言われたことを思い出した。


(ですが、この姿のテオもやっぱり可愛らしい……。

はぁ…叶うなら、このままお持ち帰りしていろいろ愛でたいところですが……)

ダニエルは少年を見て、うっとりしていた。

この【愛でたい】という単語はもはや通常の意味を遥かに超えている。

「……………」

ダニエルの表情を見て、だんだんと怯えた表情をしている。

邪な精神が分かってしまったのかもしれない、と思ったのか、首を左右に振った。

(これ以上、怖がらせてしまうのは可哀想ですし…今日のところは我慢しておきましょう)

ダニエルは先程貰ったお菓子をしゃがんでから、少年に渡した。

「えっ?これ、くれるの?」

「ええ、どうぞ」

「わーい!ありがとう!!人さらいさん!!」

「…どういたしまして」

(…そこだけの認識は、変わらないんですね…)

苦笑いしながらも立ち上がってから会釈をした。

ダニエルは当時の幼い頃の記憶を上手く再現した『テオ』はよくできている、と感じた。

これだけの魔法の才能があるならば、本気を出せばもっと楽しみが増えるかもしれない。

心の中でにやりとした。

「それじゃ、お礼にこれあげるね!」

お菓子を異空間にしまった後に、そこから箱に詰められた瓶を渡した。

今では普通に出している異空間収納だが、この時から使えるようだった。

(こんな道具を渡してくるなんて…普段はせめてケーキくらいだというのに。

最後はとんでもない物でもあるのでしょうか?

ドリアンだらけとか、まさか…テオが狡猾でも俺がするような事はしませんし…)

過去に彼が姑息な手段を用いたことはない。

過激な面もあるがその反面、人に対しては優しい。

特に好きな動物と子供に対しては、特に親切だ。

とても強力な魔法を使うような魔導士には見えないだろうか。

だからこそ人を癒す【治癒魔法】も得意なのかもしれない。


次にダニエルが前を見た時には、少年ではなく転移魔法陣があった。

「これで、先に進めるようになりましたね」

ダニエルは魔法陣の上に乗り、消えていった。



それに乗ると、今度は城内のような建物内にいた。

目の前にいるのは――紛れもなく本物の『魔導士テオ』だ。


しかし彼はこちらに気づいていない。壁にもたれかかって、天井を見上げている。

天井には何もないが、何かを考えているのだろう。

再びダニエルの邪な精神が働こうとしたが、それを振り切り、テオの元に駆け寄る。

走った音で完全に気づいたテオは正面を見て、目を丸くした。

「ええぇ……先輩!!?なんか…ここまで来るの早すぎません!?」

「俺だって、伊達にあなたの師匠をやっているわけではありませんからね。

可愛い愛弟子の【残り香】を辿ればこれくらい、容易いことです」

いくら気配を消そうとも、魔力を辿ればここにたどり着くのも時間の問題だ、と言わんばかりの発言だ。


(うわぁ……やっぱこの人ガチの変態だ)

思わずテオも呆れてしまった。

ダニエルが変態だというのは、もはや自他ともに認めるものとなっているのだ。

「と、とにかく、ここは落ち着いてもっと穏便に話を…」

暴走した彼を落ち着かせるようにと話すがダニエルは突然笑った後に、

「俺はいつでも落ち着いていますよ?

そもそも、今回の件は最初からあなたがメイド服を着れば穏便に収まるはずだったんです」

と言った。


(せ…正論かもしれないけど…やっぱり理不尽すぎる…)

これが旧友ならばどう返していただろうか、とテオは考える。

蹴り一発でダニエルを倒せるかもしれないが、彼も時々ひょいと避けてしまうので一筋縄ではいかないだろう。

「さあ、今度こそ絶対に逃がしませんよ…!!

観念して、大人しくメイド服を着るのです!!」


(やばい……完全に目が据わっちゃってるよ…!)

また逃げたとて、彼はまた『残り香』を辿って追いかけてくるだろう。これではいたちごっこである。

仕方ないと思い、小さく溜息をついて

(さすがにもう逃げられそうになさそうにないし……こうなったら、覚悟を決めるしかないか……)

と剣を出す。

「ふふ、分かれば良いのです…!」

彼もまた剣――ではなく刀を出した。


勝負は一瞬ではなかったが、最初からダニエルの方が優勢だった。

ダニエルは打撃も魔法も得意、テオは魔法に特化した典型的な魔法型であった。

もちろん双方ともに剣術を習得しているが、

咄嗟の事やダニエルの変態的な発言に、たじろいだのかテオが光属性と氷属性の魔法と少しの技しか出さなかった。

互いに回避したり、攻撃を受けたりしながら体力を減らしていく。

しかしダニエルはそれでも余裕の表情だった。

弟子のパターンを読んだダニエルは相手をスタン付与の魔法―コール・ゲヘナを唱えてから、刀の鞘を抜き、

「極の太刀――雪華!!」

奥義の抜刀術を放った。

「――!」

4段攻撃に咄嗟に回避も防御もできないテオはその場に倒れた。


「どうしました、テオ?もう終わりですか?」

とても嬉しそうで、何かを企む顔でもあった。

「…わわっ、先輩タンマ!ちょっと熱くなりすぎですって!」

この後輩は闇魔導士である。その表情で嫌な予感が読めてしまった。

「問答無用!」

ダニエルは満身創痍になった後輩の服を掴み、渾身の力で、魔力を含めて引っ張りあげたことでテオは自然と立ってしまう。

「わっ!?」

「それではおしおきの時間です」

「はぁ?」

なぜと言ったように素っ頓狂な声を上げる。

「ふっ…!“お前”の服は既に把握済みです!」

自他ともに認める『変態』は後輩の服の構造など、熟知していた。

ゆえに服を斜め上に引き上げると、上半身裸一歩手前にされそうになった。

もちろん渾身の力で、抵抗しているが時間の問題だろう。


「止めてくださいよ~!逃げたのは謝りますからー!!」

「ふはは!今更謝っても無駄ですよ?」

恐ろしい笑顔を浮かべ、服を強制的に脱がせようとしている。

「ベルー!!ベルーチェ!助けてくれー!」

必死に呼んだのは幼馴染の名。しかしそんな場所に彼女はいるはずもない。

「俺の恋人も貴方の親友も助けてはくれませんよ?

今回はあなたに散々振り回された分も含めて、きっちりと【身体で】払ってもらいますから覚悟してくださいね♡」

「ひぃー!!!勘弁してくれ~!!」

魔導士の抵抗もむなしく、やがて服を全て剥ぎ取られたという…。



そして着替えさせられたのは――。

「!!」

女性給仕の服――いわゆるメイド服であった。

鏡を見せられてひどく驚いた魔導士。だがこれが一度や二度ではないのだ。

「あなたにはやって欲しい事を思いつきましてね?もちろんメイドのままでね♡」

「うぐ…、なんだっていうんですか…!」

「ふふ、それはですねえ――」

こっそりと耳打ちをする。

二人しかいない場所であるにも関わらず、わざとこそこそ話をするのは彼の性格上だからだろう。


こうして今日も日常が過ぎて行く。

そしてこれが――魔導士テオが『空の庭』に行くまでの話でもある。

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