はじめましてのもう一回

風薫る、清々しい季節。

新しいことを始めようとするにはもってこいの季節だった。

そんな過ごしやすい季節と正反対に、私の心境はとっても重いものだった。

なんでそうなっているかというと、今、絶賛、私は教室内でぼっちだった。

想像してた華やかな高校生活なんて夢のまた夢。

最初の授業の日には、隣の席の子と仲良くなって、中学生の頃じゃ体験できなかった放課後の寄り道とか、そういうことを楽しんで~なんてことは現実では一切することができず。

悲しいことに、私は緊張しすぎていたせいか、入学式の翌日から風邪を拗らせ、まんまとスタートダッシュを決めるどころか周回遅れが確定してしまったのだ。

一日二日じゃあそんなに変わらないだろうと高を括っていたのが悪かった。

まさか、周りの子たちが私がいなかったその一日二日で、完全にグループを形成し終わってるとは。

グループを一から作るのと、もう完成されたグループの中に飛び入り参加するのとでは、圧倒的に後者の方が難易度が高い。

そんなこんなで、私はこんな時期になってもまだ大人しい、物静かな人、という印象を払拭することが出来ずに、孤独な高校生活を謳歌することになっていた。

そうなってくると、窓から入ってくる気持ちのいい風も、どこか体にまとわりつくような重苦しさを感じてしまうのだ。

このままじゃいけない。

そう思い続けてきたけど、私は決めた。

今日こそは、勇気を出して友達と呼べる人を作るのだ。

声を掛けて、一緒にお昼を食べれば、きっと、成功するはず。

チャイムが鳴って、お昼休みになるその瞬間。

まさに、今。

私は、今度こそ、華やかな高校生活の第一歩を踏み出してやるのだ。

息を吸って、吐いて。深呼吸をして。

震える手をぎゅっと握って誤魔化して。

「ねえ、よかったら一緒にお昼食べたりしない?」

精一杯、できる限りの明るい声でそう、前の席の子に声を掛けてみる。

その時、ぱっと振り向いたその子の顔と言ったら。

散々心臓をうるさくしていた緊張が吹っ飛んでいくような。

期待していた以上に、驚いた表情をしてくれていた。

「迷惑じゃなかったら、どうかな?」

ざあっと、勢いよく教室を吹き抜けていく風が、背中を押してくれているようだった。

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短編 水無瀬海莉 @kairi_minase

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