選挙管理委員 本郷ユリ 2

 「ええ? エマ、どういうこと? 好きな場所? 行きたい所?」


 「そ、そう、夏休みに旅行に行くのよ! だって来年は受験じゃない? 私達みたいに帰宅部は合宿もないし、行きたい所行けるのも、高校生活では、これが最後だし」


 「行きたい所かぁ。 うーん海外とかかなあ。ニューヨークとかウユニ塩湖とか」

 本郷ユリはぼんやりと考えながら言った。


 「ああ、そこまでは無理よ。せめてさ一泊二日でさ、海を観に行くとかね」

 「私、海に行って、夜は天体観測とかしたいなぁ。きれいな星空を見るの」

 「ユリ、それいいね! 海と星空ね」


 本郷ユリは飲み終えたジュースの瓶を店の傍にあるケースに入れた。

 「バイトしなくちゃね。エマ、何かいいバイトはあるの? 時給がいいところ」

 「それね、今探してる。まぁ、最近はどこも人手不足だからさ、高校生でも時給をはずんでくれるところもあると思う」

 「また、教えて。あー、それまでは生徒会の選挙、期末試験とやる事いっぱいあるなあ」


 本郷ユリはそう言いながら、場免エマが本当は何か別の事を言いかけたのではないかと思っていた。

 

 場免エマの風城ユウタに対する態度、もしかして選挙管理委員の当番の所に来たのも、何か目的があって。

 本郷ユリはそう思いながらも、何も言わずに別れた。


 帰宅して、本郷ユリは自室でふと、鏡で自分の顔を見た。

 眼鏡を外して、二つくくりにした髪をほどく。もう一度鏡を見る。

 「悪くはないと思うんだけどなぁ」

 「あら帰ってたの? 帰って来たのならちゃんと、ただいまて言いなさい」

 本郷ユリの母は夕ご飯の支度ができた事を伝えた。


 本郷ユリは自分の手帳を見ながら、場免エマが提案した夏休みに海に行く計画をいつ頃にするか、考えていた。

 アルバイトで資金を稼ぐ事も考えると、海に行くには8月頃、逆算すると期末試験の前後にはアルバイトを始めなければならない。


 でも……。

 「私、本当に海に行きたいのかな。星は見たいけれど」


 場免エマとは中学の頃から仲がいい。同じように帰宅部ではあるけれど、美人で友達との付き合いもいい。また一歩先を行く行動力がある。

 そのような事もあって、いつも本郷ユリは彼女の提案にのって後をついていく事が多かった。


 数日後。

 生徒会の選挙の立候補が決まり、本郷ユリはその準備に追われていた。

 風城ユウタも立候補のポスター貼りなど積極的に取り組んだ。


 「なぁ、ユリ。選管の仕事、やっていて楽しいか?」

 風城ユウタが聞いてきた。 

 本郷ユリはズレた眼鏡をなおして、答えた。

 「楽しいか、どうかは別にして……大事な仕事だと思う」

 「そうか? いちいち選挙なんかしなくてもさ、生徒会とかやりたいヤツにやらせればいいんだよ。先生達のところに申し出てさ。落ちるヤツもかわいそうじゃん。何票集まって、とか分かるし」

 「もし、先生が任命するようになったら、それはそれで私の……選管の仕事もなくなるけれども、本当にふさわしい人が特に私達生徒にふさわしい人がならない可能性があるじゃない? だから公平に選ぶ事って大事だと思う」


 風城ユウタはセロハンテープやハサミを道具箱に片付けた。 

 「民主主義てやつか。まぁそうかもしれないなぁ」

 「やりたい人が立候補して、ふさわしい人が選ばれる。いいと思う」

 「ユリは出ないのか?」

 「私は……いいかな。こうやって人が立候補するのを側から見ているのが好き。ユウタは?」

 「俺はそうだなあ。出てもいいかな。どちらかと言うとさ、俺は目立つようなそれでいて役立つ事がしたいかな」

 本郷ユリは風城ユウタの言葉に微笑んだ。

 「そういえば、ユリさ。おまえ夏休みにどこか行く予定あるの?」

 「え? 私。エマと海に行こうかて、まだ日は決まっていないけれどね」

 「あ、そうなんだ。エマ? エマって……」

 「同じクラスにいるでしょう? 美人で目がぱっちりしていて、ほら、この前も私と駄菓子屋にいる時に会ったじゃない」

 「え? あの可愛い子か。あれそうだっけ?エマって言うんだ……」

 本郷ユリは風城ユウタが場免エマの名前知らない事を知った。とても場免エマにはこの事は言えないような気がしていた。


 「覚えておきなさいよ。クラスの中でも美人な方なんだから、もしよかったらユウタ、エマとの仲を繋いであげようか?」

 本郷ユリ自身も驚くような発言をしたと思った。

しかし風城ユウタは答える。 

 「あ、そういうのいいから。俺も夏休みはクラブ活動があるし、いやさ、花火くらい行くかなぁと思って……言ってみただけ」

 「な、なんで幼なじみのユウタと花火行くのよ!

私、バイトしてエマと海と星を見に行くんだから!」

 「お、お、おう!分かったよ。そんなムキにならなくていいじゃないか」

 「別にムキになんかなってない。さ、片付け終わった? クラブに行くんでしょ? 選管の仕事終わりよ」

 「はいはい」

 生徒会選挙まであと数日。

 この何の変化もないように日常を送る少女がこの後、大きな事件に巻き込まれるとは誰も知る由もなかった。

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普通のJKで選挙管理委員の私が異世界で宇宙戦艦に乗り悪役令嬢をめざす! フジワラセブン @fujiwaraseven

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