第九話 ”現像”と”招待”と”変な気持ち”
「うわぁ~!すご~~~~い!」
次郎を含めて何枚か写真に納めた。
ポーズや衣装は自然な方が映えると思ったので、
特に変えずに次郎と遊んでいるところを撮らせてもらった。
初めて会ってから感じていた美しさと可愛さ
自然な笑顔がまぶしく、カメラに納めがいのある被写体だった。
撮った写真は『アカネ』にもあげるため、現像する。
……そう、現像をする。
ここで自分の発言のうっかりさに気付く。
どうやって現像するんだろう…
そんな時に役に立ったのが、『検索機能』
欲しい魔法を探してみると、それはすでにあった。
『紙や鉄などを原材料から作成する』魔法
これがあれば、木から紙、鉄から剣や槍などを作れる。
様々な場所で応用の効く魔法である。
欠点といえば、『完成品を知らないと』作れない所くらいか。
……『この世界に存在しないもの』も想像できれば作れるだろうか?
…試してみないと分からないか。
今回はこの魔法で紙を作成することにした。
写真といえば、あの紙だろうが…
……だが作れるだろうか?
この世界には写真は存在しないのだ。
そもそもどうやって作るのだろうか?
……考えても仕方がない。
この世界の魔法のことをすべて知ったわけではないですし、
もしかしたら、魔法を作る時と同じく
想像できることが重要なのかもしれない。
とりあえずやってみましょう。
自分の知るものを魔力で練って作り出す。
作ったのは、自宅の写真印刷に使われる『光沢紙』
この世界には存在しないが、
『謎の再現』が魔法で補ってなされていた。
……代わりに魔力がごっそりと減っていた。
光沢紙にはスマホの画像をそのまま転写できた。
撮る時に使うレンズから光が照射されて、
真っ白な光沢紙に画像がそのまま転写されていたのだ。
…このスマホも本当に謎の技術でできているようだ。
たぶん前の世界では確実に再現できないだろう。
こうして、魔法という規格外の力で写真は完成した。
この世界には機械は必要ないように思える。
「はい、できましたよ」
「うわ~!すご~~~~い!」
こうして冒頭に繋がる。
大変キレイな仕上がりだが、
光沢紙を作成するのに魔力を使いすぎる。
量産には向かないようだ。
代用できるものがあれば別なのだが…
急ぎでもない、そのうち見つかればいいか。
「コレ、もらってもいいの?」
尻尾をブンブン振りながらこちらに問いかけてくる。
この状況で断れるような猛者がいるのだろうか?
いや、いない。
「もちろんですよ。あげるために作ったのですから」
「きゃーーー!ありがとーー!」
次郎と写真を抱きしめながらくるくる回るアカネは、
とても無邪気で可愛らしい。
こんなに喜んでもらえるのであれば、
作った甲斐があるというものだ。
満面の笑みで次郎と踊るアカネの姿に、
胸の中でざわめきが起きるのを感じる。
この気持ち、どう表現すればいいんだっけ?
前の世界では普通に表現できていたはずなのに、
今はなんと言ったらいいのかわからないむず痒さを感じる。
……まぁ、そのうち思い出しますかね。
この気持ちは、ひとまず置いておくことにした。
ーーー
「さて、これで目的は達成ですかね」
アカネが一頻り踊り終わった後に、私は声をかける。
ここでの目的は達成した。
あまり長居してアカネや他の魔獣たちに迷惑をかけるわけにはいかない。
…いや、そもそも遭遇していないのだけれども。
ただ、アカネたちを見ていると悪い子たちだけではないようだ。
『勇者』の話を思い出す。
荷車のおじさんも、町の人も、選定に挑戦する人も、
平和に見えるこの世界で『勇者』を欲していた。
この世界のことはまだ分からない。
だが、それだけでも分かる。
この世界で魔獣は敵なのだろうと。
そして、人間たちは『勇者』を選定したら
この子たちを殺しにくるだろうと。
そう考えると、魔獣が人間を襲うのもまたそうなのだろう。
このまま長居して警戒させておくのもなんだか悪い。
「か、帰っちゃうの?」
「はい、これ以上長居するのも悪いですし」
「そ……そう…」
シュンっと耳と尻尾が項垂れる。
大変可愛らしいが…
「え、えっと……うーーーーん」
何やら考え込んでいるご様子
どうかしたのだろうか?
「よし、決めたわ!次郎!」
「ガウッ!」
「お父様に伝達!」
「ガウッ!ガウッ!」
ぴょんと腕から離れると、素早い動作で茂みの中に消えた。
えっ、お父様?いったい何を…
「あ、あの、何を…」
アカネの方を見ると、そこには大きな狼がいた。
ーーウァオオオオオオオオオ!
アカネの遠吠えが森全体に響き渡る。
一瞬の静寂とともに、森の中にざわめきが戻る。
大変キレイな遠吠えですね。
アニメなどでは見たことはありますが、
実際に見ると、迫力が違う。
…じゃなかった。
遠吠えを終えると、アカネは人の姿に戻っていた。
…服はどういう仕組みで……考えるのはやめた。
こちらに近づいて私の手を取る。
「イクト、あなたは良い人間のようですね」
「……分かりませんよ?表面で偽ってるだけかも」
「…ふふっ、この状況でそんなこと言えるなんて中々肝が座ってるわね」
にっこりとこちらに微笑むかける。
…よく考えるとうかつな発言だったかもしれない。
「確かに、この程度で信じるようじゃ普通はダメね」
「でしょうね」
「でも、私たちは魔獣なので、そこんところは鼻が効くのよね」
「なるほど、魔獣の力か何かでしょうか……えっ、『私たち』?」
ここにはアカネしかいない。
鼻が効くなら、『私』と表現するのが正しいはず…
「うふふ、『私たち』よ」
ーーザザッ
茂みの中から何かが周りを取り囲むように飛び出してくる。
……狼?
茂みからは先ほどの次郎と同じ大きさの狼がいた。
全部で6匹、どのこも白銀の艶やかな毛並みをしている。
「森の中で、次郎の他に魔獣には出会わなかったわよね?」
「はい、まったく出会いませんでしたね……まさか…」
「うふふふふ、私たちはこの森を管理と監視をしているの!
危害を加えてくるなら攻撃、何もしなさそうならずっと見てるわ」
「……なるほど…それで誰とも合わなかったわけですか」
人間に無闇に出会わないように伝達でもしているのだろう。
そう考えるとこれまでのことも納得がいく。
「そういうことです!
私たちはちょっと特殊な種族でね、匂いで色々分かっちゃうの。
人間の侵入とか、武器を持っていないか?とか、敵意があるか?とか」
えっへんと胸をそらして自慢げに語る。
どうやら相当自信があるようだ。
「だから、今回の言葉はその監視からでた結果です。
イクト、あなたは魔獣に敵意や恐怖を感じない変な人ですね」
「……そんなに変でしょうか?」
「変よ、とっても変!
この森に来る人間は、敵意を持っているか、恐怖を感じているか
どちらかの人間しか来なかったもの。
異常すぎて、みんなを避難させて全員で監視しちゃったわ」
「それはそれは…」
「これで後から豹変したら、それはもう私たちの手には負えないわ。
……でも、その時はその時。
今はあなたにとても興味があります。
よければ、私の父、森の管理者にお会いしないかしら?」
うーん、どうやら気に入られたようだ。
それはそれで悪い気はしない。
人間に対して異常な警戒心を持っているはずなのに。
…この申し出は受けておこう。
「ええ、みなさまが良いとおっしゃるのであれば
喜んでお受けいたします」
「ありがとう!」
そう言うと、アカネはまた狼の姿に戻る。
「それじゃあ、奥まで連れて行くわ。乗って!」
「…えっ、いいんですか?
でも狼の姿とはいえ、女性のうえに乗るというの…うわっ!?」
問答無用で乗せられた。
首の後ろを噛んで背中に投げられるとは…
「はい、それでは出発!」
ーーガウッ!
大きな狼と6匹の小さな狼に連れられて、
私は森の深くまで案内……連れて行かれた。
”無能”勇者は心ゆくまで『推し事』したい! ベア @saffton
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