第6話 姫騎士、昇級試験の誘いを受ける

 ——翌日

 王都ナッシュベル・ギルド本部。


「はい、これが依頼のギョウジャ草ね」


 カウンター上に置かれたギョウジャ草の束を手に取ると、受付嬢はルーペを装着して、じっと見つめている。

 そして——


「ふむふむ、確かにギョウジャ草で間違い無いみたいですね……はい。依頼達成、おめでとうございます」


 言うと、彼女は笑顔でぱちぱちと手を叩いてくれる。


「……あ! そうだそうだ。ね、これもせっかくだから鑑定くれない?」


「ほう。依頼物以外にも何か他の物も手に入れた物があるんですねぇ?」


「くふふ。まあねぇ」


「今までの新人は、依頼物だけ手に入れれば終わりで今ひとつでしたが……ちょっと他の新人とは違うみたいですね、シオンさんは」


「くふふ……褒めたって、何もないわよ。それに大した物じゃ無いから、あんまり期待しないでよ?」


 道具袋の口を逆さに向け軽く縦に振ると、中に入った物がカウンターの上に、ダラララと勢いよく出てくる。


 カウンターの上には、溢れ落ちそうなくらい積み上げられた大量のオークの牙。


「ななななな……なんなんですか、この量は!?」


 目にした飛び上がるくらいの勢いで、彼女は椅子から立ち上がった。


 受付嬢は驚きのあまり声が口をぱくぱくとさせて、積み上がった牙を指差している。


「オークの牙なんだけれど、これ鑑定してもらえるかな?」


「ななっ!? オ、オークの牙ぁっ!? これ、シオンさんが!?」


 ものすごい大声がエントランス中に響きわたった。

 他の冒険者達が、何事かと視線を一斉に向けてくる。


「まあね。わたし一人でオークを倒しんだからね」


「シオンさんが……そうですか。ふむ、ちょっと牙をお借りしますね」


 彼女は牙を数本手に握ると、小走り気味に奥の部屋へと向かった。


「血相を変えてどうしたって言うのよ……?」


 ポツンと置き去りにされてから、おおよそ五分間。

 その間ずっと周囲から好奇の目に晒されていた。

 

「お待たせしました、シオンさん」


 やっと戻ってきた彼女。

 鼻息も荒くどこか興奮しているように見える。


「いいですか? 今から言う事に驚かないでくださいね?」


「……なによ、急に?」


「今ですね。当ギルドのギルドマスターから、シオンさんの特別昇級試験の許可が降りたんですっ!」


 受付嬢が言った瞬間。

 周囲にいた冒険者達が、ざわりと湧き立つ。


 相変わらず好奇の目で見てくる人に、妬みいっぱいの表情をしている人すらいる。


「……なに、これ? みんな、どうしちゃったのよ?」


「目立つのも当然です。つい先日冒険者になったばかりの新人が、いきなり昇級できるんですからね。しかもろくな実績も無い新人がです」


「……ねえ、それ褒めてる?」


「当たり前ですっ! これは当ギルドの歴史始まって以来の大事件なんですからね!?」


 バンとカウンターを叩く彼女は、一人熱く語っているのだけれど。

 当のわたしには『特別昇級試験が凄い』とか言われても、今ひとつ実感がわかない。


「それって凄い事なの?」


「すごく事なんですよ、本当に! 今回の昇級試験を突破出来たら、シオンさんは『銅級』から一気に『白銀級』になれちゃうって事なんですからね」


「え……!?」


「よ〜やく実感したみたいですね」


 白銀級って言ったら、疾風の風と同じランク。

 となると依頼を幾つか達成すれば……白金級も夢じゃない。


 白金級になれば、誰にも文句を言われず、オーク討伐が好きなだけ出来る!


「やるっ! わたし、その昇級試験を絶対にやらせて貰う!」


「やる気マンマンですね……昇級試験の件は了解しました。ただ準備や昇級試験の内容がまだ決まって無いですから。また、明日ここに必ず来てください」


「はいはいはい! 何があっても絶対に来ます!」


 オークを倒した証拠を突きつけて、無理矢理でもオークの討伐依頼を受けれる様にと考えていたのだけれど。


「くふふ……まさに鴨がネギを背負ってやって来たってところね」


「昇級試験の突破、期待してますよ。と言ってもシオンさんなら問題無いかと思いますけどね」


「ええ、任せてよ」


 受付嬢に言われるまでも無い。

 すぐにでも白金級に上り詰めてやるんだから。


 業務連絡と確認を終えて、今回の依頼とオークの牙の報酬を受け取った。


 それにしてもオークの牙が高級素材の一つだと聞かされて驚かされたわ。

 依頼の報酬より、買取価格のが高いだなんて思いもしなかったしね。


 報酬を受け取った少し後。

 わたしは疾風の風の全滅の件をギルドに報告した。

 受付嬢は気丈に振る舞っていたけど、表情はどこか悲しそうだった。

「——あ、そうそう。奴隷のことってどこで聞けばいいの?」


「……奴隷ですか? それなら王都の西側の一角に奴隷市がありますから。そこで聞いたらいいんじゃないでしょうか?」


 と、言う彼女の表情。

『奴隷を買うにはまだ早いよ?』と言わんばかりの表情をしている。


「そう。奴隷市ねぇ……うん、ありがとう」


 わたしは彼女に礼を言って、ギルドを後にした。


 出ていくときに、妙な視線を複数感じていたけれど。

 それに気づかないフリをして、わたしは建物の外に出た。


「お待たせ、サニャちゃん……って、あれ? パミエールは?」


 ギルドを出ると、そこにパミエールの姿は無かった。

 紙袋に入った山盛りの焼き菓子を、必死にもしゃもしゃと食べているサニャちゃんの姿だけしなかい。


「あのサニャちゃん……?」


 わたしが声をかけても、サニャちゃんは食べるのを辞める気配はない。


「……はぐ……むしゃ……もぐ……」


 あ、これは食べ終えるまで何を聞いても答えてくれないやつだ。


 わたしは一旦諦め、サニャちゃんが食べ終ええるにを待つことにした。


 十分後。

 再びサニャちゃんに同じ質問をする。


「……シオンさんが出てくる少し前に、どこかへいちゃっいました……」


「ちゃんと見ててって言ったのに……ま、いいわ」


 パミエールの事だ。

 サニャちゃんの顔を見てたら、自分が辛くなったんだろう。

 きっと今は何処かに隠れて泣いているはずだ。


「ま、パミエールの事はいいわ。サニャちゃん。今からわたしと奴隷市に行こう」


「……奴隷市?」


 一瞬、サニャちゃんの表情がかげり、浮かない顔つきになった。

 やっぱり奴隷市で良い思い出がないのかな。

 だとしたら不安になるのは当然よね。


「安心して。わたしがサニャちゃんの新しいご主人様になる手続きをするだけだから」


 とにかく不安にさせないよう、わたしは精一杯の笑顔で言う。


「……うん。分かった」


 頷く彼女の手をひき、わたしとサニャちゃんは奴隷市がある場所へと進み始めた。

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オークに国を奪われ追放された姫騎士、魔竜王を封印した左腕と神の右眼で無双する 魔王の手下 @BOSS110

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