第5話 姫騎士、ブチキレる
戻って来ない『疾風の剣』の皆を探すため、わたしは森の中へと向かった直後。
わたしは目を覆いたくなるような、凄惨な現場を目の当たりにした。
衣服を剥ぎ取られ、腹の内側から引き裂かれて無残な姿で転がっているパメラ。
既にコト切れたサブロウタの頭部に、鞣革の鎧を着たオークが戦斧を何度何度も叩きつけている。
その近くには、苦悶に歪めた表情のまま固まったサインの頭部だけがあった。
「グッガッガッガ!」
「ギヒィ!」
「グゲゲゲゲゲ!!」
オーク達が、死んだ三人を嘲るようにゲラゲラと顔を歪め笑っている。
ぞわりと髪の毛が逆立つ。
ドス黒いナニカが体中を逆流して駆け巡る。
「ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!」
「グホ! グホ! グホ!」
両手を叩きながら、『また新しい玩具が来たぞ』と言わんばかりに、わたしを指差しオーク達が嬉々としている。
「——消えろっ!」
短剣による高速の斬撃。
二メートルもあるオーク達三体を細切れにし、肉片へと変える。
肉片がボトボトと地面に降り注ぐ。
「——ガッ!」
刹那。
背後から襲いかかる殺気に振り向く。
鞣革の鎧を着たオークが戦斧を振り落とそうとしていた。
わたしは咄嗟に奴の前に左腕を突き出す。
途端、オークは攻撃を止め大きく後ろに飛んで後退した。
「へぇ〜意外と勘が鋭いんだ」
オークはわたしを戦斧を握りしめたまま、わたしを睨みつけている。
鎧を着たオーク。
確かオークウォーリアと教わった事があったな。
普通のオークよりも戦闘能力があり、武器の扱いにも長けているとか。
わたしと対峙しているオークが、そのオークウォーリアで間違いないだろう。
「距離を取ってわたしを警戒しているのは正解ね。でもね……それが無駄だと言うことを教えてあげる」
キツく巻いた左腕の包帯を外していく。
包帯が取れたわたしの左腕を見たオークは、狼狽したような妙な瞬きをしている。
肩から指先まで、真っ黒に染まったわたしの左腕。
これは義手。
昔、オーク達によって奪われたわたしの本当の左腕の代わり。
「雑魚のあんたにコレを使ってやるんだから、光栄に思うのね」
わたしは左腕を掲げ、呪を詠唱する。
詠唱に反応するかのように、肩から指先にかけて、黒い炎が蛇のように巻きついていく。
「喰らいなさい、黒き炎の竜よっ!」
わたしが叫ぶのと同時。
竜のような雄叫びを上げ、左腕から黒い炎が一直線に飛び出す。
「ぐが……!?」
黒炎に飲み込まれたオークウォーリアの姿は、もうそこには無かった。
文字通り、影も形も残さずにだ。
「——討伐完了よ」
今、わたしが使った黒炎。
わたしの左腕に宿る魔竜王の力のほんの一部。
かなり扱いが難しいのだ。
少しでも気を抜けばわたしの命すら持っていかれてしまう物騒な技だ。
「……まだ居たのね」
怯えた表情をしたオークが、地面に両膝をつけて降伏のポーズを取っていた。
「命乞い? 皆をこんな目に合わせておいて、今更助けて欲しいって言うの!?」
わたしの中で怒りが込み上げくる。
「……グゴ」
オークは精一杯の愛想笑いを浮かべている。
地面に落ちていた布を拾い上げ、オークがわたしに差し出したきた。
「それってサニャちゃんの服……?」
血塗れの服を目にしたわたしは、怒りを爆発させた。
「——あんたはぁっ!!」
わたしは怒りに任せ、オークの首をはね飛ばした。
◇
「ど、どうしてサニャちゃんが生きてるのぉっ!?」
「どうしてって。私が森の中で拾って助けたからよ」
呆気にとられているわたしに、パミエールは素っ気なく答えた。
パミエールは監視役だから、ここにいるのは別に驚くような事じゃない。
でも、その横に立つサニャちゃんを見て、さすがのわたしも驚きを隠せない。
着ている袋も、ぶかぶかと大きめの大人用のエルフの服を着ている。
「助けたって言うけど、サニャちゃんは確かにオークに殺されたはずだよ!?」
「あなた、この子が殺されるとこを見たの?」
「直接は見てはないけど……でも、わたし確かに——」
サニャちゃんがオークに殺される場面は見ていない。
パミエールに言われて、わたしはハッとした。
オークがサニャちゃんの血塗れの衣服を持っていた
「ええっと……つまりわたしの……」
「早とちりよね?」
「あ、あう……はい、わたしの勘違いと早とちりです」
腰をがっくり落とし、両腕と両膝を地面についた。
「話は最初に戻るけどさ。どうやってサニャちゃんは助かったのよ?」
「……サブロウタが逃してくれたんです……」
サニャちゃんは小さな声を精一杯振り絞って、わたしの問いに答えてくれた。
目を伏せて、表情もどことなく辛そうにしている。
「私は森の中を血塗れで逃げていたこの子をたまたま見つけて、たまたま助けただけよ」
「……たまたまねぇ」
パミエールは素っ気なく言うけど。
彼女は他人に興味ないフリをしてるけど、本当は誰よりも優しい事を、わたしは一番知っている。
「でもさ……サニャちゃんだけでも助かって本当に良かったよぉ」
わたしはサニャちゃんを手繰り寄せ、思いっきり抱きしめてあげた。
「……シオン……」
サニャちゃんの肩越しに、わたしは泣いた。
「うぐぅぉぉぉお〜」
大粒の涙がボロボロと流れ落ち、みっともないくらい大声で泣いた。
「サニャちゃんはわたしが面倒見てあげるからねぇ〜」
「……あの、いいの……?」
どこか戸惑ったように、サニャちゃんはわたしに問う。
「ぐしゅ……わたしとじゃ嫌? ぐしゅ……」
鼻水をずびずびと啜り、わたしはサニャちゃんの顔を覗き込んだ。
「……ううん。それは問題ない……けど、あたし奴隷だけどいいの……?」
「へ……? サニャちゃんが奴隷!?」
まさかの衝撃の事実。
わたしはその事実をどう受け止めればいいのよ!?
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