第1話 ミトラと世界のはじまり

 昔々、どれくらい昔かといえば、月と太陽がまだ憎しみあわずに同じ空にのぼっていたころといいますから、まあずいぶん昔だ。

 そのころ森の中に、幸福な少女ミトラが居ました。

 

 ミトラは『永遠に繰り返す森』に住んでいました。


 そこでは千年も二千年も同じ暮らしが繰り返されていました。

 生まれる前から死ぬまでのすべては決まっており、だれもが決まったやり方で生まれ、子を産み、そして死んでいきました。


 繰り返しの中のある日の、ある朝。

 ミトラは蛇を森の中で見ました。

 

 あさまだきの森でヨモダの実を摘もうとしていた時のことです。

 ヨモダの朝露に濡れた葉をめくると、その下に真っ白な蛇が居たのです。

 

 真っ白なうろこの肌に赤い瞳、真っ赤な舌をのぞかせてイチゴを食べる蛇。

 

 ミトラはその蛇の美しさから目が離せませんでした。

 ただ、ミトラはしばらく蛇を見つめてから、すぐその場を離れようとしました。

 真っ白の蛇は「見てはいけない」と定められていたからです。

 それを見ることができるのは、死者だけです。

 生きている人間には見ることはできません。

 見てしまったからには、その人は死者になるのです。

 ミトラはすぐに、蛇を見なかったことにして引き返そうと決めました。

 

 きびすをかえしたミトラの後を、蛇は追いかけてきました。

 はや足で追いかけながら、逃げるミトラに迫ったかと思うと、いきなり大きく空に伸び上がり、その赤い舌を伸ばして、とうとうミトラをとらえてしまいそのまま空にはばたいていきました。

 

 蛇は少しばかり空を飛んだあと、村の北の墓石野に降り立ちました。

そこには紫いろに光る大きな石が、縦に地面から伸びていて、まるで墓場のようなので墓石野と呼ばれていました。


 蛇は悪霊の住みかに1000年すんでいる巨大な邪悪の竜だったのです。

 それはもう、おばあたちから夜に聞く話でとうに知っていたので、ミトラはしくしくと泣きました。


 ミトラは、深い洞窟の一番奥底にとじこめられてしまいました。

 ミトラはそこに降りるまでに、洞窟にいるおそろしいものをすべて見てしまいました。

 地下1階には虫に追い立てられた人たちがいて、2階には永遠に風に吹かれて飛び回っている人たちがいました。

 3階は縦に割られた人間の太ももや、手がたくさんぶら下がっていました。

 ミトラは泣きながらこの恐ろしい洞窟の一番下へ追いやられ、大きな石の扉の中に閉じ込められました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ミトラと伝説の森 多々川境 @tatagawasakai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ